河原出水

「先輩。俺、カッコよかったでしょ」


 どうも、体育祭の時期になり、後輩との練習も始まったが神様のイタズラか熾十たるとと同じチームになってしまい超ショックな俺です。


 と、そんなことは置いといて。

 今は帰宅中なのだが今日の放課後練習で行われたリレーで三人抜きを果たし調子に乗っている熾十がウザい。何だかんだ最下位から二位まで逆転したので思わずコイツを褒めたのが間違いだったな。


「先輩、もう一回褒めて下さいよー」

「ウザいな、お前は。ひっつくなー」


 引っ付いてくるバカがいるのでタイヘン歩きにくい。何が恐ろしいかというとコレに慣れている自分がいることだな。


「アハハ、先輩もう俺のこと好きでしょ」


 んなわけあってたまるか。俺は異性愛者だ。ジェンダーレスだの何だの言われそうだが、平等に扱った上で女性が好きなのだ、俺は。


「ケチ……」


 熾十は拗ねたように前を向く。相変わらず整った美しい横顔は……俺に執着してなかったら学校一モテてただろうに。ラブレターの一つも貰ったことのない俺にはほんとに理解出来ない。


「いや、先輩もモテてますよ。やっぱり自覚なかったんすね」


 前を向いたまま言う熾十は機嫌を治したわけではなさそうだ。というか、俺がモテてる? だからラブレター貰ったこと無いんだって……


「それは俺が丁寧に釘を刺してるからです」


 俺は脳裏に俺へのラブレターを持った女子を熾十が脅している情景を想像する……まずい、簡単に想像できる。やりそうだな、コイツ。


「俺の青春を返せ」

「俺がいるじゃないですかー」


 アハハ、と笑う熾十。どうやら機嫌はもう治ったようだ。ほんとに気分屋だな。


「アハハハハ──って、先輩先輩。あれ」


 突然熾十が前を指差す。俺もつられて前を見ると十字路で止まっている女子が目に入る。カバンと制服からして同じ学校だな。


「初めて見ますね」

「そりゃ、普段は俺は一番に帰るしお前は部活終わりに帰るだろ」


 教室で少し友達と話してたら俺も熾十も見ないはずだ。だから、別に不思議ってわけでもない。


「というか何してるんですかね、あれ」


 十字路を俺たちは直進するのだが女子がど真ん中で立ち止まっているので行けれない。脇を通り抜けるのもなんか嫌だし。別に声かければ良いんだけどな。


「てことで行って来い、熾十」

「えぇ、俺っすか……まぁ先輩のお願いなら」


 そう言って女子の方に歩いていく熾十。その背中を見ながら俺はぼーっと考える。

 彼女は彼処で何をしていたのだろうか。ここは住宅街なので車の通りは多い理由はない。わざわざ長時間立ち止まる必要はない。


 誰かと待ちあわせ、でもないように思える。学校の誰かなら学校で待てばいいし、こちらの背を向けているのもおかしい。


 学校外の人と待ちあわせ、でもないのだろう。彼女は特に周りを気にするでもなくただ何かを見つめているように見える。普通なら周りを気にするし、そもそもこんなふうな十字路は多く有るので待ち合わせには不向きだ。


 そう考えたところで熾十が声をかける。結局俺も気になって側に寄っていたので声が聞こえてくる。


「君、何年生っすか?」


 いや、ナンパかよ……と思わないこともなかったが熾十に頼んだ俺が間違えていたのかもしれない。とにかく話を聞こう。


「あの、俺の声聞こえてる? おーい?」


 女子はうんともすんとも言わない。熾十は首を傾げながら俺を見てきた。んー、このまま無視するか……ただの看板だと思えば特に気まずくもない。


「そうしましょうか……」


 ということで俺たちは彼女の横を通り過ぎる。彼女も何も言って来なかった。このまま俺はまた熾十に付きまとわれるとテンションが一気に下がり始めたとき、後ろからブレーキ音が鳴り響き……ドンッという音が響いた。


 ◇ ◇ ◇


「っていう夢を見た」


 今は学校の帰り道。体育祭の練習の関係で熾十と一緒に帰宅中である。俺は昨日見た夢について熾十に語る。


「俺はいつも先輩の夢見てますよ」


 気持ち悪いな、と軽蔑の視線を熾十に向けてから前を向いた。


「先輩?」


 熾十の声が耳に入るが、俺は目の前の光景に釘付けになっていた。そこには十字路があり、今日は珍しく見知らぬ女子生徒が……いや、すでに知っているか。


「正夢……?」


 夢と同じ光景がそこには広がっていた。

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