ラヴレター

「先輩、おはよーございます」

「朝から煩いな。鬱陶しい」


 あれから一週間。コイツは今まで以上に鬱陶しくなった。おかしい、先週までは一人で登校していたのに最近は何時に家を出てもコイツがいる。


「あんなに情熱的な夜を過ごしたのに」

「記憶を捏造するな。夜は追い出しただろうが」


 流石に家からは追い出してないが、俺の部屋からは追い出し扉の鍵を閉め、念の為、タンスまで動かした。


「でもキスは良いんですよね?」

「うるさいな、一日話しかけてこないならっていう条件付きだっての」


 そう、コイツを撃退するために渋々やってるんであって他意はない、はずである。


「そんなこと言ってたら学校っすね」

「ほれ、とっとと教室に行け。1年生」


 夏の夜の蚊くらい鬱陶しい後輩を俺は追い払う。しかし階段で結局一緒になってしまうんだよな。最悪だ。そんなことを考えながら俺は靴箱を開ける。


「なんだこれ?」


 俺の靴箱に入っていたのは封筒……というより便箋か。百円ショップには売っていないちょっと高めのやつっぽい。以前熾十から貰ったことがあるが、その時よりも何というか女子っぽい。


「先輩、何してるんすかー?」

「え、いや……待ってたらお前がどっか行かねぇかなっと」


 俺は咄嗟に便箋を隠した。別に熾十に見せても良いんだが……何するか分からないからな。相手が女子とか関係なく殺しそうまである。


「行くわけないじゃないですか〜」

「はいはい、そうですか。面倒くさいな」


 アハハと笑って熾十は先に歩き出す。その隙に俺はポケットに便箋を滑り込ませる。中身が気になるけど、教室で確認するのもなぁ……家帰ってからだな。


「先輩、どうかしました?」

「んや、何でもねぇよ」


 俺は頭から便箋が離れないまま一日を過ごした。


 ◇ ◇ ◇


「さてと……」


 今は放課後。家に帰ってから読むつもりだったがもし呼び出し系だと困るので今読むことにした。放課後はほとんどの人が部活だからだ。


 教室には俺と数人の生徒のみ。その数人とも席は離れているし問題ないだろう。ということでこれから読んでいきたいと思います。ちょっとドキドキするな。


『柄本へ』


「…………俺じゃねぇ」


 柄本、誰だよそいつ。俺の靴箱に入ってたってことは俺の近くの靴箱使ってる奴か……? あー、ドキドキしてた自分がアホらしい。


「どうしよう。先生に差し出す……?」


 いやそれだと変に恨まれるな。熾十は顔が広いし柄本が誰か聞いてみるか? いや面倒だな……


 俺は暫く悶々と悩んだ末結論をだす。


「これでよし」


 俺は自分の隣の靴箱に便箋をそのまま入れると帰路に着いた。今日は熾十も部活でいない。そもそも週一にかアイツに休みはないんだよな。


 とりあえず、頑張れ、名前も知らぬ隣の人よ。


「そもそも、告白だとして俺はどうするつもりだったんだろう。熾十に中途半端なまま……いやいや何考えてんだ俺は」


 俺は独りで家に帰った。

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