第12話 盛り上がる


「というわけで皆さん。おはようございまーす」


「「「おはよーございまーす」」」


 朝のホームルームの時間。

 わが一年H組を受け持っている担任の、白波鈴香(しらなみすずか)先生が元気よく挨拶をした。


「やばい今日も可愛いーぞー鈴香先生ー!!」


「先生やめてくださいよ。朝から僕ボルテージマックスになっちゃいますからぁぁやべぇぇなったぁぁ!!」


「先生可愛すぎだわぁ。天使舞い降りすぎちゃってるわぁ」


「踏まれたい」


 とまぁこんな反応をしているクラスの男子(笑)からも分かる通り、白波先生はものすごく美人な教師だ。

 加えて超温厚な性格をしており、清楚系美少女の代表格といってもいい。少女といってもいい年齢なのかは分からないが、とても人気のある教師だ。

 あと、踏まれたいって言ってる奴今すぐつまみ出せ。風紀が乱れる。


 しかし、そんな先生にも唯一の欠点がある。それは――


「ほんと、結婚してなきゃ俺が今すぐにもらいに行くのに……くそっ!」


「あぁ神よ。なぜ私にこれほどまでの試練を……うぐっ」


「鈴香ちゃん待っててね。今すぐ俺が……だめだ。禁断の恋になってしまう……」


「うんそこがいい。なお踏まれたい」


 まぁ俺のクラスの男子陣が残念過ぎるのはおいといて、白波先生はなんと既婚者なのだ。

 普通こういうのって結婚してない独身の先生で、それをいじっては楽しいみたいなのがいいんだが……この物語ラブコメじゃないからな。


 でも、ある層ではそこがいいという意見もあるみたいだ。

 

 あと、踏まれたいって言ってる奴誰かわかった。

 皆さんおなじみ晴天君でした。踏みつぶせ。


「まぁまぁ皆さん落ち着いてください。私今から話をしたいので」


「「「はいっ!!」」」


 こういう時のみ団結する男子の単純さよ。

 女子の顔を背けずに見るんだ男子陣よ。俺を含めて軽く引いてるぞ。


 そんな騒々しいスタートでいつもホームルームが始まるのだ。

 少し困った表情をした白波先生は、皆が静かになると「いい子ですいい子です」といいながら、話をし始めた。


「皆さん。そろそろ大きな行事を迎えますね? 一体それは何でしょう?」


 そう全体に問うと、二秒で答えが返ってくる。


「鈴香ちゃんの夏服解禁!」


「クールビズ制度に感謝を」


「はい違いますっ」


 こんな気色の悪い反応をされてもニコニコの白波先生。

 恐らく毎年のことで慣れたんだろうな。


「もうみなさん分かってないようなので言っちゃいます。体育祭ですよ体育祭!」


「「「あ、あぁー」」」


 いやほんとに気づかなかったんだな。

 どんだけ白波先生のことで頭がいっぱいだったんだよ全く。


「皆さん、熱くなってますかー?」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!(男子のみ)」」」


「いい盛り上がりです! でも皆さんその前に、何かやらなければいけないことがありますよね?」


 白波先生の問いに皆が疑問符を浮かべた。

 俺も何のことやら。

 すると学校一頭のいい、この学校に首席で合格した勉学(まなぶがく)君が大きく手を上げた。


「はい勉君どうぞ」


「前期中間テストがあります」


「はいっ正解でーす」


 さり気なく勉君にウィンクをする白波先生。

 すると、勉君のきっちりした七三分けは乱れ、マル眼鏡がぱりーんと割れ失神。

 女子と関わりが少ない勉君にはさぞ刺激が強すぎたのだろう。


 すぐに保健委員に運ばれた。


「ま、勉君大丈夫でしょうか……」


 さすがに自分のウィンクで人をノックダウンさせられるほどの攻撃力を持っているとは思っていないようだ。思って使ってたら世界牛耳れるよまじで。


「で、皆さん。中間テストに向けてー……盛り上がってますかー!」


「「「……………………」」」


「皆さん! テスト盛り上がっていきましょうよ! これも大事な学校行事ですからね?」


 そういう白波先生だったが、たとえ白波先生といえどクラス(男子)は盛り上がらない。

 なぜなら、このテストで赤点を二つ以上取ってしまうと夏休みまで日曜日が補修となってしまうので、こんなにも意気消沈としているのだ。俺もその中の一人。

 

 この学校にぎりぎりで入学できたくらいなので、赤点を取る可能性大。

 俺も又、テストという言葉を聞くとテンションが下がる。


「体育祭を楽しむには皆さんでテストを乗り越えることが必須条件です。皆さん、頑張っていきましょう!」


 そうみんなに訴えかける白波先生だったが、どうもみんなの士気は上がらず、ずーんと重い空気が教室中に漂っている。

 そんな中、ある男が勇敢に立ち上がった。


 その男の名前は竜見。『ナンパ無理王』の称号を持ち、上級生から白い目で見られている竜見だ。


 そんな男が、堂々と立ち上がったのだ。


「先生。もし僕たちがテストを乗り越えることができたら……いい結果を残せたら……褒めて、くれますか?」


 いつもは語尾を伸ばす彼は一つ一つの言葉をかみしめながら、まっすぐと白波先生を見つめてそう言った。クラスの男子(笑)は、そんな姿の竜見に友情と尊敬の涙を流す。


 そして皆の視線が一気に白波先生へ。


 白波先生は依然として笑顔だった。


「しょうがないですねぇ。分かりましたっ! たくさん褒めてあげましょう」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!」」」


 こうしていとも簡単にクラス(男子)の士気は上がった。


 体育祭の前にテストを控えた戦士たちは、今日よりペンという名の剣を取り、駆け出していくのだった。


 …………。


 ……。


「ねぇ、男子ってなんであんなにキモいの?」


「仕方ないよ。そういう生き物だもん」


「うちのクラスの男子終わってるわ」


「ま、まぁまぁ」


 クラスの男子の評価が一気に下がった。


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