5 サンタのこないクリスマス

 善太とその仲間たちは、また圭人をからかった。

「おい知ってるか、こいつまだサンタクロースしんじてるんだぜ」

 彼らは圭人を指さしてあははとあざ笑った。圭人はたまりかねて反論した。

「きみたちこそ、サンタクロースが親だって、なにかしょうこがあっていってるのか」

「ばーか、そんなの考えたらわかるんだよ。あたま使えよ、ボケ」

「みてもいないのに、おもいこみできめつけるほうがばかだ」

 なんだと、といきりたつ仲間を抑えて善太がいった。

「そこまでいうなら、クリスマスイブの夜、ねないで待ってたらいいさ。そうしたら本当のことがわかるだろうさ」

「ああいいとも、この目でしっかりサンタを見てくるから」


*


 かくしてクリスマスイブがやってきた。圭人は夜眠ってしまわないように、母が飲み残したコーヒーをこっそり飲んでおいた。おかげで夜になってもバッチリ目が覚めていた。

 しかし暗い部屋で布団に入ったまま寝たふりをつづけるのは案外しんどい。8時、9時、10時……なかなか時間が経ってくれない。サンタクロースはだいたい何時くらいに来るのだろう。

 それは圭人がはじめて経験する、長い長い夜だった。善太とあんな約束をしなければ良かった、と後悔した。サンタクロースの正体を見るためにこんな苦労をするなんて、なんてばかばかしいんだろう。


*


 その頃、万里江は「サンタからの手紙」を書いていた。──けいとくんへ。ごめんね、ことしはすごくいそがしくて、きみへのプレゼントがクリスマスにまにあわなかったんだ。だけど、いつかきっととどけにくるからまっててね。 サンタより──

 読み返してみて、っていつなの、と自分に問いかけた。もしかしたらもうそんな日は来ないかもしれない。……そう思う万里江の目から涙が出てきた。


*


 圭人はそれからもずっと頑張って目を覚ましつづけた。しかし夜中の2時になると強烈な睡魔に襲われ、それに抗うことが出来ず、ついに眠ってしまった。


 朝、目が覚めるとあたりはすっかり明るくなっていた。

「しまった、ねむっちゃった!」

 圭人は飛び起きた。そしてキョロキョロと見渡したが……ない。ない。あるはずのプレゼントがどこにもない。その時、万里江がいっていたことを思い出した。

──サンタさんは信じる人のところにしか来ないの。信じなくなったらもう来てくれないわよ──

(ぼくはなんてばかなことを……松島たちにそそのかされたせいでサンタさんを疑うなんて!)

 じわじわと悲しみがこみあげてきて、やがて大声で泣いた。そこへあの手紙を持った万里江がおずおずとやってきた。

「あのね、圭人。サンタさんから……」

 そういうやいなや、圭人は泣きながら部屋を飛び出した。そして走り出して玄関から出ようとした。

「ちょっと待ちなさい! パジャマのままで……」

 母親がいうのもきかず、圭人は家を飛び出した。ところが数分も経たないうちに、ドアがガチャリと開き、圭人が戻って来た。しかもその手にはきれいに包装された大きな箱があった。

「どうしたの、それ?」

「家の前においてあった……」

 圭人はその箱を床に置き、丁寧に包装を剥がした。

「あっ、これ、ぼくが欲しかったレゴセット!」

 そう、それはまぎれもない、圭人が手紙に書いていた二万円のレゴセットだった。箱にはメッセージカードが添えられていた。


──ぼくがくるのをまってくれてありがとう。これはそんなきみへのごほうびだよ。 サンタより──


 喜々とする圭人を見ながら、いったい誰がこんなことを、と万里江が考えた時、メッセージカードからほのかに漂よう、柑橘系の匂いに思い当たる節がある気がした。


おわり

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サンタのこないクリスマス 緋糸 椎 @wrbs

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