第二章・巫女と麿

第1話 ウエストタウンの脅威・1

 盗賊団の討伐から十日が過ぎた。


 エルミードは、朝は蹴鞠の練習、昼は和歌の練習に励み、夕方は巡回している。


(このままでは王国のどうしようもない文化に毒されてしまう! どこかに派遣されたい!)


 派遣されれば、されたで、またあの仮面をかぶらなければならないという問題があるが、それでも一日八時間つまらない活動をさせられるよりは余程良い。


「ラドラ様、このタトル、王都ではなく、戦場で働きたいです」


 待っていてもそんな出番が来る保証はない。エルミードは自ら希望を述べることにした。


「戦場? そのような危険なところに行く必要はないでおじゃ。そなたは麿とともに蹴鞠に励むでおじゃる」

「いいえ、私の居場所は戦場でございます」

「むぅ。そなたは若いのに無謀でおじゃるなぁ」

 仕方ないと溜息をつき、控えている文官に尋ねた。

「タトルは戦場に行きたいと言うでおじゃる。良き場所はないでおじゃるか?」

「ははっ、やはり四天王が2人出向いているウエストタウンではないかと」


(四天王!?)

 噂では聞く存在である。

 ラドラには四天王と呼ばれる強力な部下がいるという。それぞれが帝国兵二万に匹敵するとも言われているらしい。

(四天王を2人調べることができるのなら、これはまたとないチャンスだ)

 王都で蹴鞠など蹴っている場合ではない。

 エルミードは絶対にウエストタウンに行かなければならないと思うようになった。


「是非私をウエストタウンに!」

「仕方ないでおじゃ。紹介状を書くでおじゃるよ」

 かくして、エルミードは紹介状を書いてもらい、ウエストタウンへと向かうことになった。


 一緒についてくるのはカンウだ。

 カンウは前回の盗賊討伐で、一人だけハブられたことを根に持っていると言う。

 そのため、毎日長い髭をしごきながら、復讐の方法を考えているとリョフから教えられた。

(何でこう面倒なのをつけるのだろうか。やはり俺は疑われているのだろうか)


 ウエストタウンまでは数日の日程だが、カンウが何をしてくるか分からないので安心はできない。

(闇討ちしてくるかもしれないと思うと、夜も眠れないかもしれないな……)


 最初の夜。

 横になっていると、ムクリとカンウが起き上がった。

(闇討ちする気か?)

 と思ったが、近くの林の方へと歩いて行った。

 一体、何をするのだろうと思うと、おもむろに藁人形を取り出して、それを木にくくりつけて五寸釘を打ち出した。


(これは……王都の呪いというやつか?)

 本人は必死にやっているようだが、仮面を外しているせいかあまり怖くない。

 しかし、本人はひとしきり打つと満足しているようだ。

「フフフ、これでエルミードの奴、明日は腹痛でのたうち回るに違いない」

(随分とセコイ復讐方法だ。心配するだけ損だったな)

 エルミードは安心した。


 しかし、この後、彼はカンウの真の脅威を知ることになる。


「グゴゴゴゴ! ウガー!」

「うるせー!」


 大地を揺るがすようないびきに、エルミードは全く寝ることができなかった。

 三日もすると、エルミードは睡眠不足で馬の首に半病人のようにもたれかかっていた。そんな彼を見たカンウは自らの呪いが効いていると満足して、満面の笑みを浮かべていたのである。

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