第11話 一件落着?

 三時間後。

 エルミードはあっけにとられた様子で、死屍累々となった平原を眺めていた。

(こいつら、強すぎる……)

 彼らは馬で盗賊団を追いかけ、そのまま強襲した。

 相手は50人、こちらは5人。つまり10倍である。

 しかし、全く相手にならなかった。

 正確にはエルミードが何かをすることもなかった。四人が猛然と打ちかかり、みるみる盗賊達を倒していき、逃げる面々も追いかけて全滅させたのである。

「ハハハハ、俺一人でも十分だったな」

 リーダー格のリョフが高笑いをしているが、実際そうだと思えるほどの強さだ。


(リョフ、チョウヒ、キョチョ、カンネイか……。こいつらの名前は憶えておかなければ)

 仮に帝国と王国が戦争を起こした場合、この四人は間違いなく厄介極まりない存在だ。


(しかし、こいつらほどの者が素直に従うということは、やはりラドラは強いのだろうか?)


 サラーヴィーはもちろん、この四人の誰であっても、ラドラに簡単に勝てそうに思えるのだが……。


「ラドラ様、万歳!」「万歳」

 と、四人ともラドラをたたえているのである。


「リョフ殿、大将軍はリョフ殿より強いのですか?」

 試しに尋ねてみると、「こいつは何を言っているのだ?」という顔を向けられた。

「おまえは新人だから分からぬのだ、ラドラ様の強さが」

「そうですか……」

 いずれ機会を見つけて剣術試合でも申し込もう。エルミードはそう思った。



 更に三時間ほど待つと、サラーヴィー率いる部隊もかけつけてきた。

「おぉ、おまえ達、全滅させたのか。見事である」

「ハハッ、所詮は弱いもの虐めしかしない賊でございました。我々の手にかかれば一網打尽でございます」

 リョフが跪き、それに皆が倣うのでエルミードも従った。


 サラーヴィーは満足そうだ。

「うむうむ、おまえ達には褒美をやらんとな」

「褒美となれば、第一の勲功はタトルでございます」


「えっ?」

 唐突にリョフから名前をあげられて、エルミードは戸惑った。

「まず山の存在を教えてくれ、一望できたのはタトルの功績でございます。更に血気にはやる我らに対し、一人を連絡要員にするよう考えたのもタトルでございます。我々は戦闘には自信がありますが、冷静に判断する能力に感服いたしました」

(そ、そうかなぁ……)

 それほど大した事をしたとも思わないが、もちろん、褒められて悪い気はしない。


「うむ! タトルよ、おまえの手柄については大将軍様にしかと報告しよう!」

「あ、ありがとうございます」

「そして、帝国領にも盗賊を退治したことと、MVPのタトルについて告知しよう」

「えっ!?」

 MVPとは何なのだ。

 帝国領に告知するとは一体、エルミードは戸惑う。


「帝国も盗賊に苦しめられていたという。そこに、おまえのような優れた者が現れ、ラドラ大将軍の手を煩わすまでもなく解決したという事実を告げるのだ。そうすれば、帝国の者達も『ラドラ大将軍には勝てないし、しかもタトルという強い新人もいるらしい』とひれ伏すわけだ」

「は、はぁ……」

 まずいことになったと思った。


 エルミード・タトルという偽名を使っていることについては帝国の父親(皇帝)や兄にも教えてある。

 突然、国境付近で大活躍していたという報告は良いにしても、あの仮面をかぶっている絵などをバラまかれるのは溜まったものではない。


「王都キャピタルに戻れば、画家のダビンチを呼んでおまえの似顔絵を描かせて、広く告知しよう」

「えぇーっ!?」

 驚いてもどうしようもない。

(や、やはり、素性が見破られているのでは……)

 エルミードは泣きたくなった。

 今後、何度も同じ思いを抱くことになる、その最初のことであった。

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