第2話 ラドラの女性関係
夕刻、エルミードは王都キャピタルの大きな酒場で食事をとっていた。
ふと、キツイ香水の匂いが漂ってくる。視線を向けると、いかにも酒場にいそうな化粧の濃い女性がこちらを見つめていた。
こうした初対面の女に関心を向けられるのは初めてではない。
むしろ、いつものことである。
エルミードは天賦の才能はもちろん、恵まれた容姿も有しているからだ。
当たり前のことだから、あまり女には興味がない。
第七皇子とはいえ、皇子であるエルミードはその気になれば帝国諸侯の娘から気に入った者を選ぶことができる。
こんな酒場の女と相手をする必要がない。
だから無視しようと思ったが、ふと思いついたことがあった。
こうした酒場にいる人間の中には情報通と呼ばれる者がいる。
女は化粧も濃いし、年齢も30を超えているだろう。それでも、こうしたところにいる女としては器量も悪くない。
何かしらの情報を持っていてもおかしくはない。
エルミードは女を招き寄せた。
女は「しめた」という顔をして酔ってくる。
「女、ラドラ大将軍が贔屓にしている女性を知っているか?」
もし、ラドラに好きな女がいるのであれば、その情報は帝国にとって大きな武器となる。
そして、こういう酒場の女は、そうした浮いた話に詳しいことが多い。
「ラドラ大将軍? アンタ、大将軍の女を知りたいの?」
「そうだ。俺は最近この王都キャピタルに来たのだが、ここではラドラ大将軍がすごい人気だ。俺としても、負ける勝負はしたくないからな」
「ふふ、それなら心配しなくていいわよ」
女は艶っぽく笑った。
「ラドラ将軍は、ゴッド教国の神巫女であるソフィア様と懇意の仲らしいわ」
「何っ!?」
エルミードは思わず驚きの声をあげた。
ゴッド教国の神巫女とは、神によって選定された乙女達である。
七人いると言われている彼女達が、教国を動かしているといっていい。
中でも神巫女ソフィアはその美貌と才能を知られた存在である。
そんなソフィアとラドラの間に恋愛関係があるという事実は、とてつもない脅威だ。
50年前、エンパイア帝国とゴッド教国の両方が侵攻したにも関わらず、ルドルのために敗戦したのである。
今、ラドラとゴッド教国の神巫女とが接近しているとなれば、今度は帝国が両国による攻撃を受けるかもしれない。
由々しき事態である。
一刻も早く、真相を知らなければならないし、その可能性があることを帝国に伝えなければならない。
エルミードは無言のまま金貨を一枚取り出した。
「礼だ」
「あら、このお金で厄介払いするつもりかしら?」
女は不満そうだが、エルミードには彼女に時間を割く余裕がなくなった。
きんちゃく袋から、もう一枚金貨を取り出す。
「それだけあれば十分だろう?」
「はいはい。分かりましたわ、童貞少年さん」
女は冷たい笑みを浮かべて、馬鹿にするような言葉を投げかけ、席を立った。
「フン」
エルミードは小さく鼻を鳴らすと、女と反対の方に席を立つ。
宿舎に戻って、手紙を書かなければならない。
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