㉝無人島生活7日目09● 前世の服を懐かしんで何が悪いのだ。

 私はヒロインの部屋から出てきてから思った。


 ……あれ、そういえば。


「ドミニクス殿下いないと温泉の場所どこか知らないよ!!」

 あの野郎!!


「きゅ」

 てしてしと、ブーツを前足でコンちゃんが叩いた。

 こっち、という感じで振り返りつつ誘導してくれる。


「……ミーシャかな」


 誘導されるままについていくと、湯気が見えてきた。

 硫黄の匂いとかしないな。

 よかった、硫黄の匂い、苦手なんだよ。


 進むと、湯屋っぽい建物が見えた。おおお。

 ミーシャとハーマンすごいなー。


「ミーシャ、ハーマン様、いる?」


「あ、アーシャきたきた!」

 明るい笑顔でミーシャが出てきた。

 なんだかミーシャの顔を見たらホッとした。


「お疲れ様です。荷物は運べましたか?」

 ハーマンも穏やかな笑顔を浮かべている。


 うん、一緒にすごすならこういうやり取りが自然とできるのが理想だよね。

 ドミニクス殿下ともこうやって穏やかに話をしてみたい人生だった。


「運べたけれど、拠点がきっと荷物だらけになってるよ」

 私は苦笑した。

「帰ったら倉庫作るね」

「ミーシャ疲れてない?」

「大丈夫だよー」

 タフだなあ。


「ドミーは帰っちゃったんだね」

「……うん」

 ああ、そうか。コンちゃん通して全部視えてたよね。


「……あれは、喧嘩してたの?」

「ううん、喧嘩まではいかない。大丈夫だよ、いつものことだから」

「ふうん……」

 ミーシャは、あの場の会話を、どう思ったんだろう。




 湯屋はもう少しで完成らしい。

 今はちょうど休憩してた、とミーシャは言った。


「こっちがアーシャのお風呂だよ」

「私一人なのに、広いね」

「ふふ、ゆったりしてね」


 湯屋から温泉へでると、高い仕切りがしてあった。

 ああ、懐かしい。

 日本の温泉みたい……。

 前世を懐かしんで少し感慨にふけってしまいそう。


「ありがとう、ミーシャ。今晩入るのが楽しみ。場所も覚えたからこれからはテレポートで来れる」

「うん、でも一緒に来ようね」

 心配性が過ぎる。

 ……まあいいか。



 その後、3人で作業して日が暮れる前にはなんとか簡単な湯屋ができあがった。

 そして、帰って夕食は……ごちそうだ!


 またしてもヒロインのおごり!! ゴチになりやーす!!


 冷蔵庫にはジュースも肉も野菜もたんまり。

 冷凍室にはアイスもありました!!


 そして、ヒロインもやはり日本人だったのだな。

 コシヒカリ10kgの袋が置いてあったんだよ!!

 コシヒカリだよ! コシヒカリ!!


 味噌と醤油、オリーブオイルもあったよ!! しかも調味料系は未開封だった。


 カップ麺とかのダンボールがあって、それが減ってたから、どうやら米を炊く以外出来ない子だった模様。

 肉や魚も手つかずだったものな。

 逆に冷凍庫にあった冷食は減ってた。

 電子レンジもあったからレンチンして食べてたんだな……。


 キッチンツールも、一式手に入ったし!!

 ヒロイン、ありがとう大好き(あなたの持ち物が)

 あの部屋はおいくら万円したのかしらね!


 ミーシャに一応、サンディは戻ってきそうかな? 貰っちゃって大丈夫かな、とは聞いたけど。

「……。戻ってくるのは無理、なんじゃないかな。いいんじゃない、貰っちゃって」

 目をそらして言われた。

 何を視た。



 ハーマンと手分けして冒険者魔法で防腐処理できるものはした。

 これでしばらく美味しいものたべれるぜー、いぇー。


 残念ながら電気を通じさせる術(すべ)がないので、アイスは食べてしまおうということになり、夜は食後にアイスパーティだった。


 冷蔵庫については皆、不思議そうにしていたが、私も同じ反応をしておいた。

 不思議だねえ、なんだろうねぇ、これ~~。


「つめたっ」

 ふふふ、ミーシャの反応が可愛い。

「でも甘くておいしい……」

 うう、久しぶりに純粋な子供のような顔を見れた。

 かわええ……。 


 もっと美味しいもの食べさせたいなぁ。

 王宮に帰れば……ミーシャは、こんなアイスでさえ当たり前の食事にはなるんだけれども。



 そして、ご飯のあとは皆で温泉行った。


 実はさっき、サンディのクローゼットでいっぱい服を手に入れたのだ。

 しかし、残念ながら。

 サイズが合わない物が多かった。

 ヒロイン、小動物サイズだからな。

 懐かしい日本の服。可愛い服いっぱいあったのになぁ。

 

 でもあれは悪役令嬢には似合わないな。

 逆にヒロインも大きくて着れないものがあったらしく、それはそれでまとめてあった。

 サイズバラバラなのは……どうやら彼女はショップの服を全て買ったらしかった。

 大人買いにも程がある。

 細かいこと考えるの苦手そうだから、とりあえず買ったんだろうな。すごいな、その思い切りはある意味うらやましい。


 それで、だ。

 その中に浴衣を発見したのだ。

 浴衣はフリーサイズだったみたいだけど、さてはあいつ、自分で着れなかったな。ハハハ。

 わーい、お風呂上がりに着よう!

 日本人に戻ったみたいだ!!



 湯上がりに、髪をアップしてまとめて、旅館の風呂上がりすたーいる! とウキウキして湯屋をでたら。

「あ、アーシャ……。……えと、ちょっと頭冷やしてくる!」

 待ってたミーシャが顔真っ赤にしてどっかへ走っていった。

 え、また地雷というか……扉だったか!?


 ハーマンから苦情が飛んでくる。

「……なんですか、その格好は。どっかの民族衣装ですか。あなたは実はわざとそういう事をやってるんですか?」

 浴衣を着ただけで何故そのように言われなくてはならない!?


「ミーシャ殿下に無垢な少年に、その妙な色気がある服はちょっと……」

 見ればハーマンも、私から目をそらしがちだ。


「ちょっと失礼すぎやしない!?」

 私は故郷の服を着ただけだよ!?

 たしかに、前世でも浴衣は色気がとかいう話はあるけど、白がベースで桃色の可愛い花柄だよ!?

 帯だってワインレッドというか落ち着いた臙脂(えんじ)色だし。


 「ど、どこか服が破れてるとか、崩れて胸が見えるようなだらしない着方とかしてないよ!! 透けてないし!」

「あ……いえ。言い方が悪かったと思います、すいません。そのオレは」

 ハーマンが何か言いかけたところでドミニクス殿下が言った。

「それ、サンディなら違和感ないな」

「ああ、確かにサンディなら。そういう」

 コニングは何か言いかけた所で私は、闇を広げた。


「い、違和感。……どうせ可愛らしいものは似合いませんよ。すみませんね!」


 そういって私はテレポートした。 

 ふんだ、あなた達はあなた達で帰ってきなさいよね。

 ドミニクス殿下いるし、テレポーターは私だけじゃない。

 別に歩いても帰ってこれる距離だし。


 私は一人で自分の小屋へ帰り、ベッドから上掛け布団だけ貰ってきてたので、それを被って寝た。ふん。


 ……と思ってはいたが。

 久しぶりに見た浴衣に、私もテンション上がって考えなしだったな。

 この世界の人が見たら、たしかに変な格好かもしれない。

 形状的にガウンに似てるからイケルと思ってたんだけど、自分一人の室内なら確かに良いだろうど、貴族令嬢がガウン来て部屋の外うろつくのもどうかって話だよね……。


 学園の制服にしたって、スカートは膝下で、長靴下等履いて、足は見えないようにと学則で決まっているし。

 夜会とかだと胸の開いたドレスとか、見かけないわけじゃないし、よほど際どくなければ普通にあるもの、とされてるのに、足見せには厳しいよなこの世界。


 という考えが浮かんできて、逆にこの世界の常識に心が縛られて今度は足をバタバタしたくなった。


 浮かれすぎだったかもしれない。


 でも懐かしかったんだ。

 前親とかに着せてもらった思い出とか。

 友達と一緒に夏祭りに行った思い出とか浮かんできてさ。うう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る