㉘無人島生活7日目04●ハートの矢がささりました。おもにゴリラ(魔物)に。


「じぇ、ジェフェリー殿下ぁ! 私も……っ。こんな、怪我しちゃって……助けてくださいぃ」


 その声に、私はふと我にかえって赤面し、自分からミーシャに抱きつくのをやめた。

 わ、私はお子様に何を……。


「君、サンディだっけ? ……せっかくアーシャが僕を頼って抱きついてくれたのに、邪魔しないでくれる?」


「ミーシャ、は、恥ずかしいからやめて」

 怪我してる背中の痛みを忘れるほどに恥ずかしい。


「何が恥ずかしいのかわからないけど、真っ赤になって可愛いね、アーシャ」

「あ、あわわ……」

 ウワァァ……! そういうの、ウブ系日本人死ぬからそれ!



 そんな私達の様子を見て、サンディは一瞬、醜悪に顔を歪めたが、すぐに可愛い顔を作った。


「ジェフェリー殿下! その方に私は……こんな怪我を負わされたのです。殿下はその方に騙されているのですよ!!」

 いまだ海老反りの格好で草っぱらで倒れたままで、ぶりっ子して叫ぶサンディ。


「……君、面白いね」

 冷めた目でミーシャがサンディに言う。


「はっ! そうなんです、私面白れぇ女なんですぅ!!」

 自分から面白れぇ女って普通言わないよ!? 

「でもぉ、普段はこんなんじゃなくって……ホントは普通の女の子でぇ……」

 頬を染めて可愛らしく続ける。ただし海老反りのまま。


「ふぅん? でもまあとりあえず……」

 ミーシャは今度は光球をいくつも浮かべると、それを使って騎士団を弾き飛ばしていく。

 弾き飛ばされた騎士団は、一瞬で光の粒になって消えていく。


「数が多いからちょっと時間かかるね」

 そう言いながらも、私にしてみればあっと言う間の出来事。

 それはサンディにとっても同じだったらしく。


「き、騎士団が一瞬で全滅した……。うそでしょ。……さすがジェフェリー……」

 

「ミーシャ、すごい……」

 私は感嘆の声をもらした。

 私が禁忌クラスだと思った騎士団を、ミーシャは単純な光球だけで蹴散らしてしまった。


「え……? アーシャ。もっと言って?」

 両手で頬を包まれる。


「す、すごいね、ミーシャ」

 何故2回言わせる!?


「ふふ。アーシャに褒められちゃった」

 半分は褒めさせたの間違いでは?!


 ちょっと前まで、子供を褒める感じで気楽に言ってた言葉だし、その返ってくる笑顔が微笑ましかったのに。

「あ、あのね。頬を包むとかやめ……て?」

 顔が真っ赤になるのってどうして、自分の意志でコントロールできないんですかね!


「え、なんで? 照れてるの? 可愛い……」

 額をコツンと、合わせられる。うあ!

 重ね重ね申し上げますが、ワタクシ、こういうのに耐性がない日本人でしたので……!


「ちょっと、さっきから何いちゃついてるのよ! 私のジェフェリーよ!!」


 ――ピコン!


「ステータスオープン……っ」

「あっ」

 何の音かと思ったら、サンディが呟いて何か空中でポチポチやってる。

 また課金アイテムを買うつもり!?



「何やってんだろ、変な人だね……」

「ちょっと、サンディさん! 私も剣を収めるから少し話し合いを……!」

「うるさいわね! ジェフェリーにクッキーは効かないから……よし、そう、これ、これよ!!」


 ミーシャにクッキー効かないって……あ。予想だけど、神鳥さんの護りがあるのかな?

 そして、ヒロインは矢じりが赤いハートになっている矢の束をさっきの弓矢に装填した。


「これでジェフェリー殿下は、私のものになるのよ!!」

「まさかあのクッキーみたいに、マジックアイテムで人の心を手に入れるつもり!?」


「なんだ、バレてたの? ゲームの難易度の関係でジェフェリーはクッキーの効果はキャンセルできる仕様だからね!  でもこれは、ミーシャにも効く! 言っておくけれどこれは、どんな防御したって刺さるんだからね!!」


 ぼ、防御力無視の矢!?

 そう言ってサンディはミーシャを狙って矢を発射した……!


「アーシャ……!」

 光の防御膜を貼って、更に私をかばうように抱きしめるミーシャ。


「……っ。ダメだよ、ミーシャ! あれはミーシャを狙ってるんだよ!! ミーシャがあの矢を受けたら、ミーシャがあの子を好きになっちゃうよ!? ハーマン達がおかしかった時みたいになるよ!!!」


「それでもアーシャがこれ以上傷ついたら嫌だ!!」

 さらにギュッと隠されるように抱かれる。


「……っ」

 ……彼のその態度と言葉に、私はまた涙が出そうになった。

 

 ――だめだ、いくらミーシャでも強力な課金アイテムは防げないだろう。

 ……どうしよう、ミーシャがあんな女の虜とか……いやだよ!!


 その時、ミーシャの肩にいた、鳥さんが私を見て、少しぼんやりと光った。

 ――脳内に文字が浮かぶ。


  『テレポート』


 ……!

 ……あ、そうだ。


 ……あれだけの本数の矢があるってことは、命中が外れる事があるのでは?

 どんな防御も破る仕様は合っても、狙った相手に必中するアイテムではないかもしれない。


 私はむしろそうあって欲しいと思い、ならば、と巨大な闇のテレポートゲートを、私達の前に設置した。


「ははは、防御膜いくら貼ったって無意味なんだから!!」

「これは、防御膜じゃなくて、テレポートゲートよ!」

「はい!?」


 薄紫に光る闇のテレポートゲートに矢が吸い込まれていく。


「あああああ!?」

「……よし!」

「わ、アーシャ賢い!」

「ミーシャの鳥さんが教えてくれたんだよ!」

「ちょっと! なんてことしてくれるのよ!! 1本1諭吉なのに!」

 バラ売りだった!? しかも高っ!!


 それはともかく、矢を排出しなきゃ。


 出口ゲートを近くに見える山頂付近の森の中に開いて、飛び出す矢を排出する。

 木々に刺されば、問題なし――



「ぎゃぉおおおおおおっ」



 ……ん?

 

「な、なによ、この声」

 サンディが怯えた顔をした。


「あ、あの声……」

「ミーシャ知ってるの?」

「あそこの森……この山頂付近の森一帯のボスの声だ」


 しばらくすると、森の中から象のように大きな――あれは……!?


「ゴリラ!?」

「あ、惜しい。 僕ね、ゴリオくんって呼んでるだけど」

 違う、そうじゃない! 名前を当てたかったんじゃない!!



 そのでっかいゴリラには、先程のハートの矢が無数に刺さっている……。



「ちょ、ちょっとこれどうなるの!?」

「さ、さあ……」

 サンディに聞かれた。いや、知らんて……。


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