【緊急生配信】決戦 街角の女王【ワンガル】[後編]

 戦闘少女たちが第四区域にへ向かう。区域内に足を踏み入れた瞬間に戦闘が開始する可能性もある。先頭を行くエーミィは辺りに鋭く目を張り巡らせた。

 三体が前方、左、右に姿を現す。エーミィ、ポニー、モニカが対応に向かった。

 司令部と視聴者が固唾を飲んで見守る中、戦闘は順調に進んだ。しかし、一体の対応をしているうちに次の一体が飛び出して来る。広範囲攻撃を繰り出した瞬間にまた別の個体が出現する。

 これは、何かがおかしい。戦闘少女たちのステータスと武器の耐久度を見ていた星の耳に、レディの怪訝な声が聞こえた。


『カウンターがバグってる……?』



***

[カウンターがバグってるよ!]

[ガチャガチャってなってる!]

[数字が見えなくなってる!]

***



 星とレディは同様に画面左下のカウンターを見る。ふたりの見ている画面には、カウンターが表示されていなかった。


「うーん……? カウンターが消えていますね。ですが、いまはそれにこだわるのはやめておきましょう。この状況を打開するにはどうしたらいいのでしょうか」

『こちらの指示ではどうしようもできないのが口惜しいですね』

「幸い、今回の装備は耐久度の高い物を選び、回復薬も充分に持たせていますが……」


 街角の女王の分身はいつの間にか戦闘少女たちを取り囲んでいた。四人はアリシアを庇っているため、自由に立ち回ることができない。

 レディが時計を確認した。このままここで手をこまねいているだけでは時間が過ぎてしまう。街角の女王の狙いはそこなのだろう。



***

[こっちからどうにかできないのかな]

[物資を送ったりできないってことは、どうしようもないのか?]

[レディさんの力を使ったりできないのかな]

[このままじゃ危ないよー!]

***



《 みんな、退避してください 》



 モニカの凜とした声が響く。その瞬間、他の四人の姿が消えた。



《 司令官、勝手をして申し訳ありません 》



「……! 剣を真っ直ぐ構えるモニカを淡い光が包む! これは、モニカの特異攻撃が……!?」



《 空間分斬エアリアルスラッシュ! 》



「決まったぁー! 閃光とともに放たれた斬撃が一帯を切り裂く! 見るも無惨に散っていく分身体! 辺りには塵すら残りませんでした。戦闘少女の戦術的勝利です!」

『凄まじいチャージ速度! この圧倒的不利な戦いの中で人知れず充填していたとは、さすがモニカちゃんです!』



***

[信じてたぞモニカー!]

[一撃で戦況が変わるとは]

[ついにモニカの特異攻撃を見れたな!]

[さすモニ]

***



《 司令官、勝手な真似をして申し訳ありません 》



「いや、よくやってくれたよ。おかげで助かった。他のみんなは大丈夫か?」


 星の問いかけに、アリシアが答える。



《 はい、問題ありません! 近辺から気配は感じません 》



「よかった。では避難所に向かってくれ。その子を送り届けよう」



《 はい! 司令官! 》



 アリシアたちが避難所の方角へ向かうので、星はマイクのスイッチを切った。


「さて、つい熱くなってしまいましたね。チャージ速度がさすが総力のモニカちゃんといったところですね」

『はい。あれほど早く充填できるとは気付きませんでしたが、きっとモニカちゃんの陰の努力の賜物ですね。花丸です!』

「残すは街角の女王となりました。街角の女王はどういった魔物でしょうか」

『人々に悪夢を見せる幻影の魔物です。魔法攻撃を主力とし、素早い代わりに防御力が低いため、切先で捉えることができれば難なく撃破できるでしょう』

「はい。では、アリシアちゃんが避難所に到着したようですね」


 アリシアが避難所に入ると、他の四人は周囲の警戒を始める。万が一にも魔物を近付けてはならない場所だ。

 星の視点では、避難所に入って来たアリシアの姿を見て安堵の表情を浮かべる民が多かった。戦闘少女が来てくれた、もう大丈夫だ、ということだろう。



《 ママぁー! 》

《 ああ、無事でよかった! 探しに行けなくてごめんね。ありがとう、アリシアちゃん 》

《 いえ、私たちの司令官様方が見つけてくださったんです。あとでお礼をお伝えしておきますね 》

《 ええ、ありがとう 》



***

[司令官様「方」って俺らも入ってんのかな]

[レディさんのことだろ?]

[月輔なら俺たちも協力してることを話してくれるはず]

[自分だけの功績にするやつじゃないもんな]

[フラグ建設を感じるコメントだな]

***



 アリシアが避難所から出て来て、他の四人と合流する。


「みんな、次は街角の女王だ。残りの時間は少ない。こちらからの指示は邪魔になるだろうから、きみたちの判断に任せる」


 星の言葉に、あら、とエーミィが挑発的に言った。



《 じゃ、遠慮はしなくていいってことかしら? 》



「ああ、好きなだけ暴れてくれ。頼んだぞ」



《 大船に乗ったつもりで安心していなさい 》



「ああ。じゃあ、第五区域に進んでくれ」



《 はい! 司令官! 》



 アリシアたちに怯んだ様子はなく、むしろ、やっと出番が回って来た、というような表情をしている。街角の女王に特別な戦術は必要ない。五人が思うように戦えるのだ。



***

[好きなだけ暴れてくれの正しい使い方を見た]

[エーミィ! エーミィ!]

[みんな頑張れ〜!]

[あとちょっとだ!]

***



「さて、街角の女王戦となりました。どういった点に注意したいですか?」

『素早い動きで戦場を移動し続け魔法を乱発する、といった戦術を取って来るので注意したいところです。ですが……親バカのような発言かもしれませんが、正直なところ、アリシアちゃんとモニカちゃんの速力には敵いません』

「ふたりの速力への信頼が厚いですね。アリシアちゃんとモニカちゃんの速力で捉え、他の三人が特攻を仕掛ける、といった戦術が取れそうですね。さあ、街角の女王戦をご紹介します」


 戦闘少女たちの向こうで、ピエロの面を着けたような顔の黒いドレスの魔物が笑っている。

 アリシアとモニカが一斉に地を蹴った。


「さあ、始まりました、街角の女王戦! 開始早々飛び出すアリシアとモニカ! しかし女王の魔法が次々と襲いかかる! そして戦場を転々と動き回ります。それを軽やかに追うアリシア、モニカ。エーミィも加わり女王が足を止めた瞬間を狙っていたポニー・ステラ! そして畳み掛けるリト・ワイズマン!」

『素晴らしい連携です。このまま攻め込みたいですね』



***

[目にも留まらぬ速さってこういうことを言うんだな]

[これに比べたら俺らなんてナメクジじゃん]

[自分に速力があってもここまで動けんな〜]

[追いついて一撃入れてんだからすごいよな]

***



「逃げ回る女王を追うアリシア。追い込まれた女王を鋭く斬り裂くモニカ。その軽やかさはまるで踊っているようだ! もちろん黙っていないのがエーミィ・ポンド! 新調したルーンアックスが炸裂だ!」

『武器と能力が見事にマッチしていますね! とっても素敵です!』

「さあ、リトの光の槍が女王を襲う! 息をつくように足を止めた瞬間を見逃さないのはポニー・ステラ! 流星弾が女王に大きな打撃を与えた!」



《 みんな! あとは私に任せて! 》



 アリシアが不敵に笑う。街角の女王と距離を取り始めた四人も、この時を待っていた、というようにアリシアに笑いかけた。


「おーっと、アリシアの瞳が輝いている! まるで星屑のように溢れた光がアリシアを包み込んだ! 静かにショットガンを構え、狙いを澄ませる!」



《 至高の一撃アルテマショット! 》



「決まったぁー! アリシア最大級の魔弾が女王の体を貫いた! 街角の女王が抗えるはずもなく、塵となって消えていく! 戦闘少女たちの輝かしい勝利です!」

『素晴らしい一撃です! よく頑張りました!』



《 ふふ。お役に立てましたか? 》



***

[決まったぁー!]

[いいぞアリシア!]

[すげえ、今日ふたりも特異攻撃見ちゃった]

[役得回]

[みんな花丸!]

***



「みんな、お疲れ様! よく頑張ったな!」

『大変な作戦でしたが、無事に勝って偉いですよ! 花丸です!』



《 はい! ありがとうございます! 》



「街と民の安全を確認し次第、そのまま帰還してくれ」



《 はい! 作戦終了します! 》



***

[作戦終了!]

[お疲れ様ー!]

[全員の活躍回だったな]

[いいもん見たわ]

[ご飯が美味しい]

***



「はい。というわけで無事、作戦終了となりました。視聴者のみなさん、ご協力ありがとうございました! おかげさまで、戦闘少女を勝利に導くことができましたし、民を救うこともできました。本当にありがとうございます!」

『とっても頼りになる司令官たちですね。花丸です!』



***

[やったー花丸!]

[花丸いただきましたー!]

[レディさんの花丸だ!]

[役得]

***



「はい。では今回の配信はこの辺で。また次回にお会いしましょう。お疲れ様でした」

『お疲れ様でした〜』



***

[おつー]

[神回だったな]

[あとでアーカイブ見よ]

[完全保存版]

[みんなよく頑張ったー!]

***



 配信を切ると、星は時計を見た。残された時間はあと十五分だった。


「ギリギリの戦いでしたね……。無事に終わってよかった……」

「視聴者のみなさんのおかげですね。優秀な目がたくさんあったようで助かりました」

「そうですね。また課題が見えたように思いますが、とりあえずみんなの帰還を待ちましょうか」

「はい」


 いつものように風呂の支度を終えてリビングに戻ったとき、ホーム画面にアリシアが顔を覗かせた。


『司令官! レディ様! ただいま帰還いたしました!』


「お疲れ様。何も問題はないか?」


『はい! ケレスタニアも無事ですし、私たちも修復を終えました。無事に作戦終了できて安心しちゃいました』


「それは俺も同じだな。今日はゆっくり休んでくれ」


『はい。司令官もよくお休みになってください』


「ああ」


 アリシアとの通信を終えて席を立った星は、カウンターの差異がずっと引っかかっていた。

 視聴者は「カウンターがバグってる」「数字が見えない」と言っていた。だが、星とレディが見ていた画面では、カウンターの表示が消えていた。単なる表示ミスであればいいが、配信で起こった出来事だったためつい気になってしまう。


 戦闘少女との連携にも課題が見え隠れし、この日は、なんとなくもやもやしたままベッドに入った。





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