幻惑と戦う攻略【ワンガル】#5[前編]
[幻惑と戦う攻略【ワンガル】#5]
「はい。お時間となりましたので始めていきましょう。こんばんは。実況の月輔です。解説はお馴染み、案内女神レディさんです。よろしくお願いします」
『よろしくお願いしま〜す』
***
[こんばんは〜]
[今回も幻惑の魔法なのかな]
[何年かぶりに眼鏡の度を合わせて来た]
[ひとつも見逃せないもんなー]
***
「はい。今回は初級ダンジョン『ゲシュタルトの塔』をご紹介します。このダンジョンは、塔の中の螺旋階段を上って行きます。お馴染みゲシュタルト崩壊が起こりそうですね」
『はい。いま何階だっけ? となる複雑な構造です。加えて幻惑の魔法がかかっていますので、冒険者が最も迷子になるダンジョンですね』
レディが液晶にダンジョンのマップを映し出す。塔の階層ごとに螺旋階段が表示されており、戦闘少女たちはマスに向かうごとに螺旋階段を越える必要がある。リトが無効化の魔法をかけるのは下階から螺旋階段で上がる途中だ。
『主はマトゥイ。魔法攻撃を得意とし、魔法に対する耐性を持っているため、属性の付随した魔法は効かないと思っておいたほうがいいでしょう。物理攻撃も有効ですが、属性によっては効果がありません』
***
[初めて聞く魔物だ]
[何属性の耐性かわかってるなら楽なもんだ]
[なんか荒らしがいるな]
[荒らしには反応しちゃいかんよ]
***
「はい。今回は素材採取も挟みつつ、の攻略になります。道中、不測の事態に備えてアリシアちゃんの索敵の精度を上げるため、リトちゃんには幻惑の魔法の無効化をしてもらいます」
『リトちゃんはその階での戦闘に参加することができなくなりますが、他の四人の装備を慎重に選びましたので、さほど苦戦しないのではないかと思われます』
***
[不測の事態は起こらないでくれ〜]
[戦闘に参加しないってあるんだ]
[索敵は大事だよな]
[みんな無事に帰還してくれ〜]
***
「はい。では今回の編成はこの通りになっております」
レディが液晶に編成画面を映し出す。
「前衛左前にアリシアちゃん、前衛右後ろにエーミィちゃん。中盤にモニカちゃん。後衛左前にポニーちゃん、後衛右後ろにリトちゃん、となりました」
『索敵をしっかり行って安全に進みたいですね』
「はい。では最初のマスに進みましょう。アリシア、進んでくれ」
《 はい! 司令官! 》
***
[アリシアちゃーん!]
[索敵頑張ってくれ〜!]
[大事なコメントが流れそうだな]
[月輔なら見分けられるはず]
***
荒らしがいることは星も確認している。それに押し出されてコメントの流れが早くなっていた。こういった配信をしていれば冷やかしや面白半分な視聴者が来ることがあるのはわかっていたが、大事なコメントを見逃さないようにしなければならない。
アリシアのドット絵が、一階の螺旋階段に移動する。
――【 魔法解除開始 】
リトの目元のカットインで、一階の幻惑の魔法を無効化する作業が始まった。
「さあ、幻惑の魔法を無効化する魔法対魔法の攻防が始まりました。リトちゃんの魔法力をもってすれば、造作もないことでしょう」
『一瞬の戦いでしょう』
――【 魔法無効化成功:幻惑 】
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
「はい。幻惑の魔法の無効化から流れるように索敵へと進んでいきます。見事な連携ですね」
『はい。熟練度の高さが窺えますね』
「ゲシュタルトの塔は全部で五階層。道中はアリシアちゃんとエーミィちゃんの速攻で勝利を掴み取りたいですね」
《 敵影確認! 前方に三体! 戦闘開始します! 》
「さあ、三体と想定より多い出現となりましたが、アリシアを筆頭にエーミィ、モニカと魔物に向かって行きます。三体のギミックバットは呆気なく塵となりました。戦闘少女の完全勝利です」
『安定した戦闘! 安心して見ていられますね』
《 戦闘終了! お疲れ様でした! 》
リザルト画面でアリシアが安堵したように微笑む。リトとの連携に成功したことで作戦を成功させる確信に近付いたようだ。
***
[熟練の速攻!]
[みんな頑張ってるね〜]
[魔法無効化ってもっと時間かかると思ってた]
[今日はポニーちゃんは見学かな]
***
「アリシア、警戒しつつ進んでくれ」
《 はい! 司令官! 》
アリシアのドット絵が一階から二階へ続く階段へと進んで行く。
「はい。想定より多くはありましたが、すべてギミックバットだったので相手になりませんでしたね」
『はい。戦闘少女たちの敵ではありませんね。さて、ここでレディさんの豆知識! ギミックバットは実は、尻尾を先に切り落としてから胴体を切らないと倒せないのです。一撃での討伐は、戦闘少女たちの熟練度と能力の高さだから可能なことです』
「みなさんもギミックバットに
***
[レディさんの豆知識!]
[だからギミックなんだな]
[包丁でも倒せるんかな]
[一般人が取り扱える刃物では効かなそうよな]
[一般人は逃げようぜ]
***
――【 魔法解除開始 】
「さあ、二回目の魔法解除となりました。リトちゃんの魔法解除の速度は目を見張るものがありますね」
『はい。リトちゃんは作戦を速やかに遂行できるよう、それはそれは涙ぐましい努力をしています。ワンガルの世界でリトちゃんより優れた魔法使いはいないでしょう』
「リトちゃんに聞かれていたら怒られそうな賞賛ですね」
――【 魔法無効化成功:幻惑 】
――【 敵影見ズ 】
「おっと、敵影見ズとなりました。アリシア、周囲に魔物の気配はあるか?」
《 特に観測されません。詳細な索敵をしますか? 》
「……いや、こだわる必要はないだろ。充分に警戒しつつ進んでくれ」
《 かしこまりました! 》
アリシアが慎重に三階へ向かう階段に進んで行く。二階には魔物はいないようだ。
「はい。幻惑の魔法がかかっているダンジョンはそもそも魔物が少ないそうですね?」
『はい。幻惑の魔法は人魔関係なくかかりますから、ギミックバットのような幻惑に耐性のある魔物しか生息できません』
***
[魔物も生き物だからなー]
[楽に越したことはないけど怖くはあるな]
[魔物ってどこにでもいくらでもいると思ってた]
[歩いてたら出て来るってわけでもないんだな]
[敵前逃亡した魔物もいたからな]
***
「さあ、間もなく三階の……ん? うわ」
いつもなら気にならないスマホの通知が一瞬だけ目に入り、その差出人に思わず顔をしかめてしまった。
もちろん青山だ。
『どうされましたか?』
「いえ……」
なんでもないと言おうとして、星は嫌な予感がした。おそらく青山も惣田に星のアカウントを聞いてこの配信を見ているはずだ。その最中にわざわざメッセージを送って来るということは、何か攻略に関して気付きがあったのかもしれない。
「ちょっとすみません」
『はい』
***
[月輔、うわって言ったよな]
[誰から連絡が来たらうわって言うんだろ]
[ちょっと可哀想だな]
[視聴者だったらうわって言ってるのも見てるんだよな]
***
星は画面から外れてスマホを開く。それは個人宛のメッセージボックスに届いていた。
『ポニーちゃんの様子がおかしい気がする』
そういえば、と星は思考を巡らせる。魔法解除でも戦闘でも出番のないポニーをしっかり見ていなかった。とは言え、全体的に見回してはいる。ポニーはいつも通りのように見えた。
だが、青山はきっと「女に苦労しない」タイプの人間だ。女性の感情の機微に敏いのかもしれない。
星はメモ用紙にその内容と注意することを書き、レディに差し出しつつ画面に戻った。
「すみません、失礼しました。おじいちゃんがぎっくり腰になっておばあちゃんが焦って連絡して来たみたいです」
『あらら、それはお辛い……。お大事になさってください』
「ありがとうございます」
***
[それは流していいんか?]
[おじいちゃんち行ったほうがよくない?]
[様子見に行って来なよ]
[おじいちゃんは家にいるけど戦闘少女はダンジョンにいるんやで]
[おじいちゃんにはおばあちゃんがついてるよ]
[月輔のじいちゃんばあちゃんって月輔の兄ちゃんと住んでなかった?]
***
「アリシア、聞こえるか?」
《 はい、聞こえております! 》
「リトの魔法解除後、索敵を終えたらそこで待機してくれ」
《 かしこまりました! 》
***
[おじいちゃんち行くのか?]
[戦闘少女を放置しておじいちゃんちに行くのか?]
[私よりおじいちゃんが大事なの!?]
[おじいちゃんも大事だろ]
***
――【 魔法解除開始 】
「さあ、魔法の解除が始まりました。ちなみにですが、ここで引き返した場合、攻略の実績は記録されるのでしょうか」
『はい。戦闘少女が立ち入った場所まで攻略済みとなり、次に攻略に入った際は、攻略済みの階を安全に通過することができます』
「はい。では、戦闘少女の様子を見守りましょう」
――【 魔法無効化成功:幻惑 】
――【 敵影見ズ 】
《 司令官。索敵完了しました。この階に魔物はいないようです 》
「わかった。みんな、何か異常はないか?」
戦闘少女たちは顔を見合わせる。
《 特に変わったことはありません 》
「わかった。そこで待機してくれ」
戦闘少女との通信用のマイクをオフにすると、星は配信用のマイクをミュートにする。レディも同じようにマイクを操作する。
「五人のステータスを見せてください」
「はい、どうぞ」
レディが手のひらに小さい液晶を表示し、五人のステータスを順番に流して行く。
***
[なんかあったんかな]
[いつになく真剣な顔だな]
[誰かステータス異常にかかった?]
[そんなふうには見えなかったな〜]
***
ステータスをじっくり見たあと、星はふたつのマイクをオンにする。
「アリシア。申し訳ないが、そこで作戦中止して速やかに帰還してくれ」
戦闘少女たちが不思議そうな表情になる。その理由はステータスを見れば顕著であったが、五人には自覚がないようだ。星が話さない限り、帰還する理由はわからないだろう。
《 かしこまりました。作戦終了します 》
***
[なんで中止?]
[何があったん?]
[このまま攻略してったら危ないってこと?]
[何があったかわからんけど、戦闘少女たちの安全が第一だよな]
[問題があったなら無事に帰還してくれ!]
***
「はい、失礼しました。視聴者のみなさんには申し訳ありませんが、これ以上の攻略は危険と判断し、戦闘少女を帰還させることにいたします。このダンジョンの続きは――」
《 ポニー? 》
リトの張り詰めた声に顔を上げると、ポニーが俯いて立ち止まっている。陣形の最後尾にいたリトの声で、前衛側の三人も振り返った。
「ポニー、どうした」
星の呼びかけにもポニーは応えない。その手が小刻みに震えている。リトが歩み寄ろうとしたとき、ポニーの手がクロスボウに伸びた。青ざめた顔で、それを前衛側の三人に向ける。
「リト! ポニーを眠らせろ!」
咄嗟に言った星の声で、リトが即座に杖を振った。ポニーの体から力が抜け、モニカがそれを受け止める。
戦闘少女たちは困惑していた。だが、その説明はこの場では口にしないほうがいいだろう。
「アリシア、速やかに帰還してくれ」
《 かしこまりました。帰投します 》
***
[ポニーちゃんどしたん?]
[どういう状況?]
[説明しろー!]
[月輔はポニーちゃんがおかしいって気付いてたんだな]
[そんなふうには見えなかったなあ]
[他の子は大丈夫なんかな]
***
「はい、失礼しました。えー……簡単に申し上げますと、ポニーのステータスに異常が現れておりました。情報提供があり警戒しておりましたので、今回は作戦中止とさせていただきます」
『戦闘少女に幻惑は効果を発揮しないはずですが、幻惑の魔法自体がなんらかの影響を与えていたのではないかと考えられます。ポニーの状態から察するに、作戦の続行は得策ではありません』
「この場で原因を究明することは困難ではないかと思われます。なので、今回の配信はこの辺で。ポニーが回復し次第、攻略を再開していこうと思います。それではみなさん、また次回にお会いしましょう。お疲れ様でした」
『お疲れ様でした』
***
[情報提供って「うわ」って言われてた人かな]
[情報提供したのに「うわ」って可哀想だな]
[ポニーちゃんは大丈夫なんか?]
[月輔! しっかりしろー!]
[なんでこんな異例ばっかりなんだろ?]
[何も教えてくれないからもどかしいよな]
[ポニーが元気になればそれでいい!]
***
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