タスクの多い攻略【ワンガル】#4[後編]

《 ……索敵完了しました。司令官、よろしいでしょうか? 》



「どうした?」



《 魔物はゴーレム。育成具合は中程度と思われます 》



「ゴーレム? いま四階だよな?」



《 はい、四階です。体力も武器の耐久度も申し分ありません。ゴーレムの討伐は充分に可能ですが、司令官の指示からかけ離れた作戦となってしまいます 》



「そうか……。上階に魔物の気配はあるか?」



《 現時点では観測されておりません。いないと考えても問題ないかと思います 》



「わかった。では、アリシアの判断を信じるよ」



《 はい! 》



「エーミィとモニカとポニーは、アリシアとリトのサポートをしてくれ。素材採取は中止だ。リト、特異攻撃を狙うかどうかは、きみの判断に任せる」



《 りょうか〜い 》



「よし。では、進んでくれ」



《 はい! 司令官! 》



***

[難しい判断だよな〜]

[互いへの信頼を感じる]

[攻撃できるのふたりだけなのか……]

[岩だから斬撃が効かないってことか]

[みんな頑張れ〜!]

***



「予想外のゴーレム戦となりました。主ではないのでしょうか?」

『はい。四階にいるため主ではないでしょう。ですが、ゴーレムは中位の魔物。充分に警戒して討伐したいですね』

「はい。さあ、開戦のようです」


 カメラが戦闘少女たちの後ろ姿を映し出す。その向こうに、巨大なゴーレムが待ち構えていた。戦闘少女たちは陣形を変え、真っ先にモニカが駆け出す。


「さあ、始まりました、ゴーレム戦。開戦と同時にモニカがゴーレムの意識を散らします。その隙を見逃さぬアリシア・モーメント! 次々に弾丸を浴びせます。そして畳み掛けるリト・ワイズマン! 得意の魔法を息つく間もなくお見舞いだ!」

『良い連携です! このまま一気に攻め込みたいですね』

「ポニーの矢がゴーレムの頭を小突く。ゴーレムがポニーに狙いを定めた! その接近を許さぬリト・ワイズマン! 猛烈な爆発がゴーレムの頭を削り落とした! そして背後から魔弾が炸裂だ!」



***

[リトちゃんとアリシアちゃんを信じていなければできない囮]

[いいぞー!]

[畳み掛けろー!]

[イレギュラーな戦闘でも良い調子だ!]

***



「エーミィ、モニカの速力に混乱するゴーレム! ポニーの矢に目を回している! アリシアの弾丸とリトの魔法が止まない!」


 そのとき、リトの魔法を食らったゴーレムが、そのまま真っ直ぐリトに突っ込んで行く。アリシアがリロードしていたその一瞬、星もレディも息を呑んだ。リトに迫るゴーレムの巨大な手が、リトに触れるより先にエーミィの斧によって砕け散った。ルーンアックスも粉々になり、体勢を整えられないエーミィにゴーレムの反対側の手が伸びる。


「――モニカ!」



《 はい! 》



 星の声に弾かれ、モニカが地を蹴りエーミィを掻っ攫った。バランスを崩したゴーレムの向こうで、リトが不敵に笑う。



《 ボクに一瞬でも隙を与えたらいけないって、覚えておきなよ 》



「……! これは、リトの特異攻撃が……!」



《 貫く風雪破ペネトレイト・ブリザード! 》



「決まったぁー! 鋭い氷の槍にゴーレムは呆気なく崩れ落ちる! 再生の隙はない! 戦闘少女たちの大勝利です!」

『お見事! みんな、花丸です!』



《 いや〜なんとかなったね〜 》



 レディが誘うハイタッチに、今回ばかりは初めて照れずに応えた。それは喜びももちろんのこと、安堵感が大きかった。



***

[決まったぁー!]

[みんな花丸!]

[やったー!]

[息をするのを忘れてた]

[途中スローモーションに見えたわ]

[月輔のモニカ! に痺れたわ]

[信頼に応えるモニカちゃんたまらん]

[さすモニ]

***



「みんな、お疲れ様! 怪我はないか?」



《 はい! 全員無事です! 》



『みんな、よく頑張りました。花丸です!』



《 久々に本気出しちゃったな〜 》



「エーミィは大丈夫か?」



《 ふん。大丈夫に決まってるでしょ 》



 いつものようにつんとして腕を組んでいるが、その表情はどこか浮かない。ルーンアックスが壊れたことを気にしているのだろう。


「基地に帰ったら新しい武器を作ろうな。好きなの作っていいから」



《 素材はみんなの物なんだから好き勝手にできないでしょっ 》

《 おやおや〜? 一番に素材採取を頑張ってるのはエーミィだから好きな武器を作っていいってアリシアに言われてるのにいつも節約してるんだから今回ばかりはわがままを言ってもいいのではあ〜? 》

《 ポニー! ぜんぶ言わなくったっていいでしょ! 》



***

[エーミィちゃん偉すぎ]

[好きな斧作りな!]

[ぜんぶ言っちゃうポニーちゃん可愛い]

***



「まあまあ。とにかく、五階を索敵して主の消滅を確認しよう。アリシア、頼むな」



《 はい! お任せください! 》



 マイクのスイッチを切り、星は大きく息をつく。まだ心拍が激しい。とは言え、いまは生配信中だ。


「はい。大乱戦となりましたが、エーミィちゃんのリカバリーからモニカちゃん、リトちゃんまでの連携が見事でしたね」

『はい。月輔さんの「モニカ!」も見事でしたね』

「いやー、モニカちゃんなら絶対できる! と思いましたもので。しかし、リトちゃんのエネルギーの充填が早かったですね」

『はい。リトちゃんは「スピードチャージ」のスキルを持っていますから、他の子より充填が早いんですよ。それが見事に活きましたね! 花丸です!』

「エーミィちゃんの決死の一撃はさすがと言わざるを得ないですね。ゴーレムの腕も斧も粉々にするパワーは見事です」

『リトちゃんを絶対に助ける! という思いの強さを感じましたね』



***

[ゴーレムって岩だよな]

[魅せてくれるな〜戦闘少女]

[興奮したわ〜]

[ご飯が美味しい]

***



《 司令官! 五階に到達いたしました! 》



 アリシアの声が言う。画面を見てみると、目視の限りでは魔物の姿は見えない。


「索敵はどうだ?」



《 敵影はありません。このダンジョンの主は消滅していると考えてもよろしいかと 》



「わかった。みんな、お疲れ様! 速やかに帰還してくれ」



《 はい! 作戦終了します! 》



***

[作戦終了〜!]

[やったーお疲れ様ー!]

[作戦終了おめでとう!]

[みんな花丸!]

[よく頑張りました!]

[気を付けて帰ってね〜]

***



「さて、無事、作戦終了となりました。素材も充分に採取できましたね」

『はい。みんな、よく頑張ってくれました。とっても誇らしいです』

「しかし、四階にゴーレムがおり五階の主は消滅……と、情報との差異が顕著でしたね」

『そうですね。探査機の開発を急ぎたいところです』

「はい。それでは、今回の配信はこの辺で。エーミィちゃんの武器も作らないといけないので、明日の攻略はお休みとさせていただきます。それでは、また次回にお会いしましょう。お疲れ様でした」

『お疲れ様でした〜』



***

[おつー]

[みんなゆっくり休んでね〜]

[エーミィちゃんに好きな斧作ったれよ!]

[またね〜]

***



 配信を切ると、星はソファにもたれて息をついた。


「心臓が痛い……」

「大変な攻略でしたね。ダンジョンと情報の差異が顕著になってきましたね」

「そうですね。情報に沿った編成にするか、オールマイティな編成でいくか……。と言っても、オールマイティがなかなか難しいですね」


 険しい顔になる星に困ったように笑いながら、レディがお茶を淹れに立つ。


「探査機ができるまで攻略を止めるべきでしょうか」

「どれくらい時間がかかるかわからない以上、攻略には向かったほうがいいと思います。世界の歪みは待ってくれません」

「そうですよね……」

「屑は充分に集まりましたので、鉄の数はある程度は確保できるはずです」

「あとはなんの素材が必要になるか、ですね……」


 スマホを確認すると、惣田からは「配信お疲れ」とメッセージが来ているだけだった。欠かさず見ているのだから熱心なものだ。

 惣田は中途半端なことをする男ではない。戦闘少女が危険な目に遭っていると把握しているなら、きっと急いでくれるはずだ。


『司令官! レディ様! ただいま帰還いたしました!』


 ホーム画面から、アリシアの明るい声が聞こえた。


「アリシア、お疲れ様。修復は済んだか?」


『はい! みんな、もう元気いっぱいです! あ……でも、エーミィはまだちょっと落ち込んでます』

『アリシア! 余計なこと言わないで!』


 画面外からエーミィの怒った声が聞こえる。ルーンアックスを壊してしまったことをいまも気にしているようだ。


「お気に入りのルーンアックスだったのか?」


『そういうわけじゃないけど……。魔装加工のために素材をたくさん使ったから……』


「エーミィ、素材採取は確かに労力のかかることだが、素材は消耗品だ。集めた分、使っていいんだ。気に入った武器で戦ったほうが、実力を遺憾なく発揮できるだろ?」


『そうよ、エーミィ。好きな武器を作っていいんだから』

『……ふん。あんたたちがそこまで言うなら、好きに作らせてもらうわ』


「うん。工廠で好きな武器を選ぶといいよ」

「強い武器を作っちゃいましょう」


『ええ』


「今日はたくさん頑張ったからな。よく休んでくれ」


『はい! 司令官もよくお休みになってください』

『体調を崩して指揮を執れないなんてことになったら許さないから』


「わかってるよ。お疲れ様」


 いつものように、戦闘少女たちをレディに託して風呂の支度に立つ。いまだ心拍が騒がしく、手には汗が滲んでいた。

 戦術については改善の余地がある。情報との差異が生じている以上、どんな場面になっても対応できる戦術を考えることが理想的だが、星はあまり機転が利くほうではない。もっとレディと連携する必要があるだろう。

 攻略本が欲しい、とそんなことを思った。




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