タスクの多い攻略【ワンガル】#4[前編]
いつもならのんびり寝ている日曜の朝。今日は早く起きられた気がする、と思いながら星が目を覚ましたとき、昨朝の記憶が鮮明に蘇った。
――ピンポーン……
「はあ〜い」
『ジャングルでーす』
通販の宅配ならまあ、と思ったところで足を滑らせてベッドから転がり落ちる。どうせ落ちるならレディを止めに行けばよかった、とそんなことを思った。
適当に着替えてリビングに行くと、レディが段ボールを開封している。
「あ、おはようございま〜す」
「おはようございます。思っていたより段ボールがでかいんですが……」
「一般家庭では作り置きをするとポニーから聞きましたので、食材を仕入れてみました」
「なるほど……。レディさんは料理できるんですか?」
「ええ、きっと」
「ダメそうだ……」
『司令官! おはようございます!』
張り切った元気な挨拶が聞こえるので液晶を見ると、ホームでポニーが明るく笑っている。
「おはよう、ポニー。今日も元気だな」
『はい! 私が静かなのは寝ているときくらいです!』
「自分で言う子は初めて見たな。他のみんなはどうしてる?」
『アリシアとエーミィは訓練場にいます。モニカはそこで本を読んでて、リトはまだ寝ています』
「そうか。今日は今後の方針を話し合えたらと思ってる。他のみんなにも話しておいてくれ」
『はい! 承りました!』
ポニーが即座に画面外に消えて行くのを見守り、星は段ボールの中身をテーブルに広げるレディに歩み寄った。
「今日は今後の方針を決めつつ、次のダンジョン攻略に行きましょうか」
「はい。『止まり木の館』についての資料はそこにまとめてあります。ご一読ください」
「ありがとうございます」
星が適当に朝食を取ったところで、ちょうどアリシアから通信が入ったのを皮切りに、作戦会議が始まった。
「次に行く『止まり木の館』の主はハーピーだ。それと、罠が敷き詰められている。アリシアには負担になってしまうが、感知スキルを多用してもらうことになる」
『問題ありません。私もそのつもりでしたから』
「うん。今回の編成はアリシア前衛左前、モニカ前衛右後ろ、中盤エーミィ、後衛左前リト、後衛右後ろポニーで行こうと思う。戦闘はアリシアとモニカを主力として、エーミィにはリトとポニーのサポートを頼む。必要であればアリシアとモニカのサポートもしてくれ」
『ええ、いいわ。今回も活躍してみせるわ』
「期待してるよ。万がいち後ろから奇襲があった場合を想定して、リトとポニーは扇状に広がってくれ。エーミィが後方の攻撃に回れるようにな。リトは遠距離の魔法を多用することになって負担かもしれないが……」
『ぜ〜んぜん問題ないよ〜。安全な位置にいるんだから、それくらいしないとね〜』
「ありがとう。ポニーも遠距離攻撃を頼む。できれば『流星弾』を活用してほしいんだ」
『承知しました! お任せください!』
「期待してるよ。モニカはアリシアの代わりに戦闘に集中してほしい。アリシアの索敵と連携を取り、主以外は可能であれば単独で魔物を倒してくれ。体力の消耗が激しくなるが……」
『お任せください。そのための訓練ですから』
「ありがとう。特異攻撃を狙うとしたら、リトではないかと思う。主が変わっているとしたら賭けになるが、ハーピーに対しては有効だ」
『オッケー。腕の見せ所だね』
「ただ、そのあいだは回復魔法が使えないことになる。みんなの防御力頼みになるが……」
星が申し訳なく思いつつ言うと、それでしたら、と画面外のモニカの声が言った。
『装備品を防御力重視にしてみてはいかがでしょう。私たちは武器の底上げがなくとも、それなりの攻撃力を持っています。不測の事態が起こる可能性があると考えると、守りを固めることが戦闘を安定させるのではないでしょうか』
「なるほど……。わかった、その方向でいこう。とにかく罠に注意してくれ。この陣形は今後も使う場面があると思う。この陣形での連携に慣れておいてくれ」
戦闘少女たちが声を合わせて頷く。
次は装備だな、と星が考えていたとき、スマホにメッセージが届いた。惣田からだった。
「……レディさん、ワンガルの世界で鉄は採取できますか?」
「はい。ダンジョン内にある『屑』を集めれば鉄の生成が可能です。幸いなことに、止まり木の館にも存在しています」
「ふむ……。みんな、任務がひとつ増えるが、ある機械を作るために鉄が必要だ。可能な限りで屑を採取してほしい」
『はい、かしこまりました! では私が索敵しつつ集めます。索敵終了後、マナ感知に切り替えれば速やかに発見することができるはずです』
「ありがとう。じゃあ、装備はこっちで決めておく。何か気になることはあるか?」
戦闘少女たちが視線を交える。その中で、ポニーが名乗り出た。
『ハーピー戦を想定して戦術を組んでいますが、主が変わっている可能性も考えて、魔物が物理だった場合と魔法だった場合で予備の戦術を練ってはいかがでしょう』
「なるほど……。わかった、ちょっと待っていてくれ」
星はステータス表を開き、それぞれのスキル、魔法、特異攻撃を見比べる。
「魔法だった場合はリトのままでいこう。物理だった場合は……エーミィ、頼めるか?」
『そう来なくっちゃ。期待を上回ってあげるわ』
「ありがとう、頼もしいよ。他に気になることは?」
戦闘少女たちは交互に目線を送り合う。特にありません、とアリシアが答えた。実際の戦術は彼女たち頼みだ。出撃するまでのあいだ、連携を調整してくれるだろう。
「じゃあ、今後の方針だが……。魔物は大きく魔法か物理のふたつに分かれる。幸い、きみたちはどちらにでも対応できる。さっきポニーが言ったように、どちらにでも対応できるように戦術を練ろうと思う」
『それが最善だと思います』モニカが穏やかに言う。『編成は変えられませんが、陣形は変えることができます。その場で戦術を変更する対応力も必要になってくるのではないでしょうか』
「そうだな。きみたちの判断で難しい戦闘をこなしてもらうこともあるだろう。俺のことは当てにしないつもりで、個々で自分の長所を活かし、他の戦闘少女と連携、相互サポートをできる戦術を考えてみてくれ」
戦闘少女たちは声を揃えて頷く。星は、きっと自分より彼女たちのほうが戦術について詳しいと思っている。
「じゃあ、出撃までに体力と魔力を充填しておいてくれ。十五時頃にまた通信を繋いでくれ」
『かしこまりました!』
「それじゃあ、また後で」
『はい! 失礼します』
基地との通信が切れる。戦闘少女も各々の準備のため席を立った。
次の星の仕事は、ダンジョンと戦術に合わせた装備の選択だ。
「攻略実績消去はともかく、魔物が強くなっている可能性は厄介ですね」
「そうですね。いまは初級ダンジョンですので野良の魔物も下位ですが、ダンジョンの難易度が上がるにつれてアップランクの魔物が出現するでしょう」
「そう考えると、防御力を上げる装備の開発に力を入れたいところですね」
装備を造るだけの素材は揃っている。戦闘少女たちが帰還の際に集めているのだ。屑と鉄は惣田が指定した数には届かず、今後の採取が重要になりそうだ。
[タスクの多い攻略【ワンガル】#4]
「さあ、お時間となりました。始めていきましょう。こんにちは、実況の月輔です。解説はお馴染み、案内女神レディさんです」
『よろしくお願いしま〜す』
***
[こんにちは!]
[俺も作戦考えて来た]
[みんなで世界救済だー]
[戦闘少女たちもだけど、月輔もタフだなあ]
***
「はい。今回は初級ダンジョン『止まり木の館』をご紹介します。このダンジョンは、かつて大富豪が暮らしていた大豪邸がダンジョン化した場所だそうです。五階建てで、最上階に主がいるはずです。レディさん、止まり木の館はどんなダンジョンでしょうか」
『はい。生息する魔物は低級のものばかりで、戦闘少女の熟練度でしたら苦戦はしないはずです』
レディが液晶にダンジョンのマップを表示する。階層ごとに1マスずつマークがある。
『主はハーピー。物理攻撃と魔法攻撃を使い分けて来るので注意したいところです』
***
[今回は情報通りであってくれ!]
[タスクが多いってなんのタスクだろう]
[家屋がダンジョンになるって面白いな]
[隣の汚部屋もダンジョンになるんかな]
***
「はい。今回は、戦闘に加えて採取をしてもらいます。僕たちはいま、ダンジョンの構造や魔物の変化などを調査するための探査機を作ろうと思っています。それをワンガルの世界で再現してもらうため、必要な素材を採取して行こうと思っています」
『戦闘少女たちの安全を第一に作戦を遂行しますので、どうぞご安心くださいね〜』
***
[電子工学の発展の見せ所だ!]
[こっちから持って行けたら早いのにな〜]
[探査機を造る技術はあるのかな]
[装備が作れるんだから作れるんちゃう?]
***
「はい。では今回の編成はこちらです」
レディが液晶に編成画面を映し出す。
「前衛左前にアリシアちゃん、前衛右後ろにモニカちゃん。中盤にエーミィちゃん。後衛左前にリトちゃん、後衛左後ろにポニーちゃん、となりました」
『前衛のアリシアちゃんの索敵とモニカちゃんの速攻が攻略の鍵となるでしょう』
「はい。では最初のマスに進んで行きましょう。アリシア、進んでくれ」
《 はい! 司令官! 》
***
[アリシアちゃんの声を聞くと安心するなあ]
[今日も元気いっぱいだ〜]
[頑張れ〜!]
***
アリシアのドット絵が1マス目に進む。階層は一階。階段を用いての移動となるため、戦闘少女たちは前後に警戒を張り巡らせていることだろう。
――【 敵影アリ 】
――【 索敵開始 】
「さて、始まりました。第一戦をご紹介します。今回の理想的な戦術はアリシアちゃんの索敵からモニカちゃんの速攻となりますが、いかがですか?」
『はい。モニカちゃんの速力ならそれが可能でしょう。警戒は怠れませんが、情報通りであれば、道中の戦闘で戦闘少女が負傷することはないでしょう』
「はい。ではアリシアちゃんの索敵を待ちましょう」
《 敵影確認! 前方に二体! 戦闘開始します! 》
「さあ、まずは扇状に陣形を広げます。即座に駆け出すモニカ、エーミィ。アリシアには少々地味だが大事な素材採取をしてもらいます。モニカの速攻に息つく間もなく散るギミックバット、エーミィの重い一撃がレッドガーターを真っ二つだ! もちろん余力を残しています。戦闘少女たちの大勝利です!」
『鮮やかな速攻! 芸術性すら感じられますね』
《 あくびが出ちゃうわね! 》
リザルト画面で誇らしげに胸を張るエーミィ。そのそばに、素材採取の結果として「屑×12」と表示された。
***
[花丸!]
[いい戦いっぷりだ]
[安心して見てられるな]
[アリシアちゃんも安心して採取できる]
***
「アリシア、罠に警戒しつつ進んでくれ」
《 はい! 司令官! 》
一階では罠が発動する様子はなく、アリシアは二階へと進んで行く。
「特に罠にかかることなく一階を攻略できましたね」
『はい。罠の破壊は武器の耐久度を削りますので、積極的に回避していきたいところですね』
***
[罠があるのか〜]
[ダンジョンっぽい]
[罠にかかってもぶち壊せるんだろうな]
***
二階、三階は特に罠にかかることもなく、下位の魔物が出現するのみで、安定した攻略となった。アリシアは着実に屑の採取をし、三階までで六十三個が集まった。
「ここまで罠にかからないのは、運が良いとも言えますが、不気味さのようなものも感じられますね」
『はい。それに加えて、出現する魔物がすべて下位……。これは、ダンジョンが「死んでいる」可能性が浮上しますね』
「ダンジョンが死んでいる……と、仰いますと?」
『ダンジョンは主がいることで存続しています。このダンジョンにはすでに主がいないのかもしれません』
***
[そんなことがあるのか]
[楽なのに越したことはないんじゃ?]
[なんで主がいないんだろ?]
[戦闘少女たちが一回攻略したからじゃないの?]
***
『ダンジョンの主がいない場合、戦闘少女が最奥地に到達した時点で攻略完了となります。素材採取の良い機会だったと言えるでしょう』
「なぜ主がいなくなったのでしょう?」
『主がなんらかの事故で消滅した、と考えられます。戦闘少女が攻略する前のダンジョンに立ち入ることは禁じられていますので、他の冒険者が無断で侵入した可能性は低いでしょう』
「はい。ではアリシアちゃんの索敵を待ちましょう」
――後編へ続く――
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