第36話 我慢が利かない(性描写あり)

 国王の執務室を出たディアンは、アルベールと肩を並べ自室へと続く回廊を歩く。


「父上は、アルベールの采配さいはいを見抜いたのだろうか」


 だとしたら悔しい。今日が初対面のはずなのに、アルベールの知略を理解し、口を出さずにいたということだ。


 自分よりも早く、アルベールの本質を悟った。そう思うと、腹立たしくイライラする。


「さあな。本当のところはわからないが、悪役を押しつけられた気がしないでもない。我が子に嫌われたくないのか? 甘い父親だ」


 確かにオーランドに関しては、事実上の国外追放のようなものだ。アルベールの言うように、自ら罪刑を言い渡せず、彼に悪役を押しつけたのだろうか。


「まあ、怒鳴られた記憶はないな」


「おまえはよくそれで、まともに育ったな」


「それは母上のお陰だ。平民として暮らした数年もな」


 その母親は、今離宮にいるという。

 やはりどこかに雲隠れしていたようだ。


 先ほどディアンが執務室で国王から告げられたのは、戴冠式たいかんしきを済ませたあと、離宮へ赴くということ。


『あとのことはディアンに任せる。アルベール殿が共にいてくれるなら、さらに安心だ』と、国王は彼の手を取り、この国を頼むと懇願したのだ。


 自分とアルベールの関係に、気がついたのかもしれない。


「隠居するには、まだ早くないか?」


「母上とゆっくり過ごしたいのだろう」


「ふん、色ボケ爺め」


「まあそう言うな。父上は、一人目の王妃とは政略結婚だったのだ。しかも、十も年上の」


 十五も年下の母親に、デレデレというもの肯ける。


「なんだ、やはり色ボケ爺ではないか」


「父上のことはもういいだろう。それよりアルベール、今夜こそおまえを抱きたい」


 自室に入ったディアンは、後ろからアルベールを抱きしめる。


「なっなんだよ、いきなり」


「いきなりではない。この日を心待ちにしていたのだぞ」


 傷が癒え、動けるようになったらアルベールをこの腕に。


 毎夜共にベッドで眠る日々は、我慢の連続だった。何せディアンが怪我を負っているから安心だと、防波堤であるマルクスを自室に下がらせていたのだ。


 あどけない顔で寝息を立てるアルベールの可愛さは、罪深いほどだった。


「せめて戴冠式が済んでからにしろ」


「いや、無理だ。もう我慢がきかない」


「ん──」


 アルベールの身体を返し、唇を強引に奪う。


「ふぅ……んん」


 キスに酔ったのか、アルベールの身体から力が抜け、膝からくずおれる。


「うわ、おい、待て!」


 すぐさま身体をすくい上げ、大股で寝室へ向う。優しくベッドに下ろすつもりだったが、共に倒れ込む。


「待ってくれ、怖いぞおまえ! 手負いの獣みた──ん……」


 うるさい口は塞いでしまおう。


 角度を変えながら、アルベールとのキスに陶酔する。


 ああ……甘い。


 苦しくなってきたのか、アルベールの手が力なくディアンの胸を押す。


 頬を上気させ肩で息をするアルベールの潤んだ目は、ディアンの欲情をさらに煽った。


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