第24話 ……。

「———ふーん、成程ね」


 近くの公園のベンチに座る俺達の前に正座をした黒髪ピアスと茶髪キノコの言葉に、やっと理由が分かってスッキリしながら頷く。

 絵里奈ちゃんは頭の上に大きな『はてな』を浮かべて首を傾げているが。


 どうやらコイツら、相当な借金をしているらしい。

 一体何に使ったんだと、半目で聞いたところ……意外にも見た目に寄らず、片方は家族の医療費、もう片方は親の借金を継いだのだと分かった。


 ……そりゃ、こんなことまでもするわな。

 

 俺も多分逆の立場ならば同じことをしたかも……いや、絶対していただろう。

 だって、何方とも絵里奈ちゃんの追跡者として働いてくれたら、黒枝から何と100万円ずつ貰える予定だったというのだから。


 ほんと、人の弱みに付け込むのが上手いなアイツ。


 内から湧き上がる怒りを必死に抑えていると……絵里奈ちゃんが爆発した様に言った。


「……何よそれ。その依頼者とんでも無い屑じゃん! 人の弱みに付け込むどころか仮にこのことが警察にばれても捕まるのはこの2人だけってさ!」

「「……!!」」

「え、絵里奈さん……?」


 俺が遠慮がちに名前を呼べば、ぐるっと此方を向いて睨む絵里奈ちゃん。


「ねぇ、快斗。その依頼者が誰なのか知ってんの?」

「あ、ああ……」


 俺はそう言った瞬間に『しまった』と、自らのミスを悟る。

 しかしどのみちもうこの時点で遅いか……と諦めた。


「で、誰なの?」

「……黒枝小百合だ」

「……この前快斗が言ってた奴のこと?」

「うん」

「そう……ならソイツ、快斗がぶっ潰そうとしてるのよね?」

「ああ」


 絵里奈ちゃんが力強く言い放った。



「なら———それ、私も手伝うから」



 ……まぁ、心優しい絵里奈ちゃんならそういうと思ったよ。

 だから絶対に言わない様にしようと思ったんだけど……ま、今更悔やんだところでもう遅いか。


 それに、この優しさは、かつて俺が彼女に惚れてしまった要因であり、彼女の1番の魅力なんだ。


「……ああ、そうしてくれると、助かる」

「……ふんっ」

「え、えっと……」

「あ、あの……俺らは……」


 苛立たしげにベンチにドカッと座り直す絵里奈ちゃんに不覚にも笑みが漏れる。

 そんな中、先程までこの状況に圧倒されていた黒髪ピアスと茶髪キノコが恐る恐ると言った感じで口を開いた。

 

 ……取り敢えずコイツらの話を続けて聞くか。


「おい、どうする? 全く知らない赤の他人にすらこれ程憤慨してくれる彼女をまだ追跡するか?」


 俺が鋭い視線を二人に向けながら言うと、二人は気まずげに目を逸らした。


「……やめる。この件から手を引く」

「俺もだ。とてもじゃないがこんな優しい女を襲えねぇよ……あんたもいるしな」

「———だってよ、郷原」


 俺の言葉に、三人が驚いた様に瞠目して此方を向いた。

 そんな三人にニヤリと笑みを浮かべてずっと繋いでいた郷原との電話をスピーカーにして皆に聞こえる様にする。


『あー、聞こえてんのか?』

「バッチリな」

『面倒だし手短に言うが……そこにいるストーカー達』

「っ、ご、郷原さん……!?」

「ず、ずっと聞いて……」

『ああ。だが今はそんなのどうでもいい。お前ら———合格だ。家族と手術費分の借金と親から相続された借金は、何円か知らねぇが代わりに返してやる。ただ、二度とこんな塵みてぇな真似はすんな』

「「っ!?!?」」


 俺は驚く二人を他所に苦笑する。


 全く……見ず知らずの奴のためにウン百万円代わりに返済してやるとか随分とお優しいこった。

 そんなポンポン出せる様な額じゃねぇぞ。


 そんなことを思いながら横を見れば、絵里奈ちゃんも相当驚いている様子で、呆気に取られていた。

 そして追跡者であった二人は……。


「あ、ありがとうございます……!! もう二度とこんな真似はしません……!!」

「郷原さん……俺、一生貴方に着いていきます……!!」


 どちらも涙を流して喜んでいた。

 これで、取り敢えず二人はもう黒枝の駒となることは無いだろう。

 流石に郷原の親が出張れば、ただの家の黒枝が太刀打ちなどできるはずも無い。


「……ふぅ、取り敢えずこれで危険は解決だな……」


 後は真面目な眼鏡君が居るが……そっちについては郷原の組の構成員の一人が知り合いらしく、もう既に話は付いているらしい。

 これで、絵里奈ちゃんを狙う輩は一先ずいなくなった……と考えていいだろう。  


 俺は郷原に「じゃあ切るぞ」と言って電話を切った後、小さく安堵のため息を吐いた。







 

「———今日も、ここまでありがと」

「いや、もう夜も遅いし当たり前だよ」


 あの後、二人と別れて絵里奈ちゃんと帰っていた。

 しかし楽しい時間はあっという間に過ぎるというもので……気が付けば絵里奈ちゃんの家に辿り着いてしまった。

 と言っても、既に二三時を過ぎているのだが。


 絵里奈ちゃんはお礼を言った後、家に戻ろうとするが……何を思ったのか玄関口でくるっと身体を此方に向ける。

 そして何か言おうとして口を開くが、直ぐに閉じてしまった。


 ……??


「どうした? 俺に何か言いたいことでもある?」

「…………ねぇ、快斗」


 絵里奈ちゃんは覚悟を決めたかの様に小さく頷くと、タタタッと俺の目の前にやって来て……。


「……きょ、今日はもう夜も遅いし……」

「……うん」





「———わ、私の家、と、泊まる……?」





 顔を耳まで真っ赤にし、上目遣いで緊張で少し潤んだ瞳を此方に向けてか細く呟いた。



 ……我が人生に、一片の悔い無し。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

DQN系美少女を全力で支えたら、めちゃくちゃ良い彼女になった件 あおぞら @Aozora-31

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ