第21話 追跡者を探せ①

「———さて……まずは追跡者ストーカーを探し出すところからだな」


 俺は約束通り、スマホとパソコンにある全ての証拠映像、録音を消す俺の動画を黒枝に送り何とか一命を取り留めた。

 これでしっかり消した———と黒枝には思わせて、実は昔使っていた一台のスマホにも予め音源も動画も物理的に録音、録画して入れているので、証拠映像も音声も無事だ。

 しかも昔使っていたものは、既に解約しており、インターネットには繋がっていないのでバレる心配はない。


「ふっ、お前もまだまだ爪が甘いな。こちとらゲーム機にも録音の音声を録音させたんだよ」


 俺は、黒枝から送られた『よし、それじゃあ許してあげるよ』と言うlineの言葉を見て、小さく笑みを浮かべる。


 黒枝はさも俺の裏をかいたかの様に思っていたかも知れないが……全く俺を知らないアイツとは違って、軽くは黒枝の人となりを探偵というその道のプロに調べてもらっているのだ。

 正直頭のネジが一本抜け落ちていると考えていたので、元々絵里奈ちゃんに何かしら危害が及そうなのは想定内。

 よって追跡者も、動画と録音を消せと言われるのも全て想定内というわけだ。


 まぁ一応結構本気で潰しにいったので、失敗したのは少し驚いたが。

 それに想定以上にぶっ壊れてたのも。


 ただ、ある程度想定さえしていれば……対処は可能だ。

 録音を録音して保存すれば、送った痕跡などないのでバレない。

 それは動画も然り。


 ま、少し信憑性が下がったのは、この際仕方ないとしよう。


「……で、問題は追跡者なんだよな……」


 そう、現時点で俺の分かっていることは追跡者が最低一人以上はいると言うことだけである。

 あの用心深い奴だから、絶対に一人だけに頼みはしないだろうし、確定3人くらいは居ると考えておいた方がいいかもしれない。

 

「さて……どうやって探し出すかな」


 俺は屋上で一人呟く。

 取り敢えず絵里奈ちゃんと一緒に行動するのは確定として……追跡者のことを絵里奈ちゃんに話すか、話さない……か。


「話さない方が良いかなぁ……」


 一応黒枝には『話したらダメだよぉ?』と言われているし、絵里奈ちゃんは顔に出そうなので、やはり教えない方が良さそうだ。

 何て思っていると……lineを知らせる着信音が鳴る。


《隼汰:で、どうするつもりだ?》

《隼汰:一応黒枝は彼氏の横で頻りにスマホをチェックしてるぞ》


 どうやら隼汰からのようだ。

 コイツには昨日俺から話したので、全ての状況を知っている。

 ただ、黒枝も隼汰のことは警戒してそうなので、こうしてlineのやり取りをしていると言うわけだ。


《快斗:バレてないだろうな?》

《隼汰:ふっ、聞いて驚け》

《隼汰:そもそも黒枝の方は向いてねぇ》

《隼汰:黒枝のフリック音とか、彼氏との会話との返答の空き具合とか、細かい息遣いとかで何となく把握してる》


 ……コイツ、マジで耳良すぎだろ。

 いや、耳というかそこまで行ったら超能力なんだが。


《快斗:適当に打ってる可能性は?》

《隼汰:ない》

《隼汰:アイツのフリック音は不規則だし、所々迷いからか消してる音も聞こえる》


 もうお前スパイになれよ。

 音だけで判別出来るとか異次元だから。


《快斗:せんきゅー》

《快斗:引き続き頼むわ》

《隼汰:りょ》

《隼汰:美少女は絶対紹介しろよ! 流石に芽衣先輩とか柚先輩とかのレベルじゃなくていいからさ!》

《快斗:あんな美人がそうぽんぽんいてたまるか。おけ、探しとく》


 俺はスマホをポケットに戻す。

 

「さてと……黒枝の奴、一体誰にlineしてんのかね」


 それも愛しの彼氏と一緒にいる時に。

 考えられることは……三つかな。


 一つ、追跡者とのやり取りをしている。

 二つ、家族など全く関係ない人にlineを返している。

 三つ、隼汰の耳をも騙す程に上手く入力するフリをしている。


 この三つだが……まぁ流石に二は無いと思うので却下していいだろう。

 そして探偵に調べてもらった時の情報で友達はおらず、父親は既に他界、母親とも仲が相当に悪いらしく、近隣に怒鳴り声が聞こえてくるほどらしい。

 それも母親が『ウチの子はもうダメ』『完全にイカれてる』『もう関わりたくない』などと他の人に漏らしていた程だとか。


 ま、この証言のお陰で俺は対策を予め出来ていたんだが。

 それにこれら証言から、母親とのlineであることも友達とのlineであることも考えにくい。

 よって……。


「———追跡者との連絡、だろうな」


 恐らく密に連絡を取り合って指示とかしているのだろう。

 アイツは自分以外を信じそうにないタイプだしな。


 そして追跡者への報酬は、お金だろう。

 黒枝の奴、彼氏に内緒でパパ活して金を稼いでいるらしいし。

 

「なら———案外直ぐに見つかるかもしれん」

 

 それに、メンタルを脆くさせるのに、パパ活は良い切り札にもなりそうだ。


 俺は、足早に屋上を降りながら、とある人に電話を掛けた。

 











「もしもし、少し良いか?」

『何だ?』

「不良の中で突然金遣いが荒くなった奴とか今後金貰えるとか言ってる奴を探してくれないか?」

『……普通ならやらないが、この前の詫びと……快斗とはダチだし手伝ってやるよ』

「ああ、ありがとう———

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