第3話 絡み合う糸が紅く色付く予感かな 

…最悪である…


それはどちらにとは言わないが、本当に偶然二人のシルエットが重なった瞬間…

《ぐ〜〜〜〜〜〜〜》

はっきり言おう…

この場で聞こえてはならない効果音が盛大に鳴り響いた。


驚いておもわず立ち止まり、音が鳴る方にうっかり目線を游がしてしまう太郎。

そのリアクションが、のちにこれからの自分の人生に大きく影響を及ぼす等とは露知らずに…

「………なによ(照)」

彼が游がせた目線の先には、誰が見ても解る位褐色の肌の部分が紅く染まっている彼女の目線があった。

どう見ても恥ずかしさを誤魔化す為にスルドイ目つきになっているのが解る。

そう、空腹からくるあの効果音はこの女子校生からだった。


下着が見えそうなスカート丈のセーラー服…

カーディガンを羽織ってはいるものの、胸元のボタンなんかその圧で弾け取れたかの様に、けしからん位はだけて色んなものを色んな意味で主張している。

ただ、睨みつけているその顔は、まじまじと凝視するとまだ少し幼さが残っていた。


「い、いえ…別に何も……ハイ…ありま…せん…」

それはコミュ障全開な受け答え(笑)

太郎は、その表情に妙に蹴落とされシドロモドロになってしまった。


社会人で…

(素人童貞だけど)

そこそこの管理職で…

(仕事以外じゃ言葉のキャッチボールが下手だけど)

最近性欲があまり湧かなくなったアラフォー…

(彼女いない歴=年齢だけど)

に、してはなんだか情けない話である。


「…フン!」

恥ずかしさを誤魔化すかの様に目線を反らすと、何故か彼女は立ち去りもせずバス停のベンチに座ると、わざとらしく携帯をイジリ始めた。

すると…

《ぐ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!》


…最悪だ…

さっきよりも音量MAXな空腹音が盛大に鳴り響き、太郎の耳に突き刺さった!

すると今度は睨むどころか恥ずかしさでだろう…

携帯を握りしめたまま、下を向き固まってしまう誰かさん。


すると…

「あ、あの…」

震える声で普段絶対しない様なリアクションをとる太郎。

それは、その女子校生に背後から声をかける行為…

おそらく彼にとって清水の舞台から飛び降りる位の事かもしれない。

「………」

その声掛けに無言を貫く彼女…

「も、もし時間があるなら…そ、そこの公園のベンチでこれ食べません?出来立てだし美味しいです…よ」

初めてのリアクションだったからなのか、勢いにまかせて続けざまにそんな声を投げかける。


「……え?」

彼女にとって意外過ぎた声掛けなのだろう…

思わず振り返り、驚いた顔をして太郎の顔をシゲシゲと見上げていた。


…それから5分後…

「ヤバいかも〜♡これ美味し過ぎるし〜〜♡♡♡」

バス停の直ぐ側にある公園に二人移動すると、屋根付きの休憩所にあるテーブルに、先程商店街の中にある惣菜店で買った名物のおかかと昆布、キムチが入った《バクダンおにぎり》と、これまたそこで買った出来立ての唐揚げをジッパー付きの袋に入れ、ブラックペッパー、カレーパウダー等の香辛料でまぶし《シャカシャカ》すると、イスに座った女子校生に提供した太郎。

それと途中公園の中にある自販機で買ったペットボトルのお茶を差し出すと、自分も彼女の向かい側のイスに腰を降ろした。


「おじさん!この唐揚げのアレンジ神最強なんだけど〜♪」

「そ、それはもともと唐揚げ自体が美味しいからであって…自分は…その…ちょっとだけ好みの香辛料をかけただけだし…」

今だシドロモドロに話す太郎だが、最初に比べて多少はマシになったように見える。

「へへ♪おじさん変に挙どってて超〜怪しかったけど、ありがとうね♡」

「その…実は…あまり…プライベートで他人とコミュニケーションを取るのが…に、苦手だから…怪しく見えて…ご、ごめん」

「アハ♡謝るナッシ〜♪」

おそらく《謝るのは無し》と彼女が言ってるのは解った太郎。

それよりも右手におにぎり、左手にプラスチックのフォークで唐揚げを刺しポーズをキメている彼女の姿が、彼の緊張感と言うか、何時もの悪いクセを溶かしていくのが解る。

何故なら太郎は自然に笑顔になっているから…


彼女の方もさっきまでの不機嫌さは何処へやら…

空腹から開放されたのが大きいのかもしれないが、美人でありながら年相応のあどけなさというか、可愛らしさが全身から溢れでていた。



短くもそんなほんわかした空間と時間が、どうやら二人の何かを溶かしたのか、どちらともなく語り始めた色んな会話も、心地良く弾みはじめたのだった。



…続く…











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