六杯目 初恋

「レドさん…かっこよかったな…」


家に帰ってからも、レドのことばかり考えている。

命を救われた挙げ句、あんなイケメンっぷりを見せられたら、ぽーっとなってしまうのも頷ける。


「あいつら、捕まるといいんだけど…次の被害者が出る前に…」


ぞわっ


あの男たちに触れられた感覚がまだ残っている。

もう一人だというのに、恐怖が全身を這う。いや、一人だからこそなのか…


「でも…」


レドに触れられるのは嫌じゃなかった。

むしろ触れて、一緒に居てくれることに、居心地のよさを感じていたのだ。


心臓がドキドキする。

初めての感覚に、サヤは混乱する。


「なんでこんなにバクバクするの…?それに、なんだかむずむずする…ネットで調べてみようかな。」



警察に送ってもらい、マンションの階段を上がっている時も、サヤのことで頭がいっぱいだった。


「サヤさん…強がってたな…怖かっただろうに…」


どうしようもないやるせなさを感じ、拳を握る。

考え事をしながら歩いていると、すぐに玄関に着いた。


「こういう時ばかり、早く着くんだな…一人で寂しい夜こそ、早く家に着いてほしいものだが。」


独り言を口にしながら、部屋に入る。

中はホテルのように綺麗で、整理もきちんとされている。


「気分転換に、絵でも描くか。サヤさんの似顔絵とか…どんな顔がいいかな。やっぱり笑顔か?いや、少しムッとしてるとき…悩むな。」



レドが絵を描いている間、サヤはというと…


「胸 ドキドキ もやもや 検索結果…恋煩い。誰かに恋をしたときになる。検索したあなたは誰かに恋をしているのでは?思い当たる人物は…って、ないない。そんなことない…はず…」


冷静に考えてみる。レドのいいところを探してみよう。好きじゃなかったら、たくさん出ることもないだろう…と。


「レドさんのいいところ…イケメンで、優しくて、強くて、サングラスが似合って、彼女さん大事にしてくれそうで…あー!!いっぱい出てくる!!」


サヤは頭を抱える。今まで好きになった人なんていない。

強いて言えば、アイドルにハマった時代がある。というぐらいだ。


サヤが自分の気持ちと向き合うこと五時間…外は明るくなっていた。


「やだ!もう四時半!?少しでも寝ないと…」


ベッドに横になるも、その日は一睡もできなかった…

昨日の件もあるので、仕事の準備をして早めに出勤したのだった。



その二時間後…


「ん?もう外明るい…?参ったな、一睡もしていないぞ。サヤさんに会うと約束したのに…このまま行くか。絵の続きは帰ってから…」


レドも寝ないまま、カフェに向かった。


時刻は六時。カフェの開店時刻だ。

早く出発したレドは、一番乗りでカフェに来店した。


「サヤさん!眠れ…てませんね…」


「はい…色々あって眠れなくて…」


目の下にくまができているサヤを見て、心配する。


(昨日の恐怖が忘れられないんだな…かわいそうに…)


サヤはというと…


(言えない…レドさんのこと考えてて寝れなかったなんて言えない…)


初めての恋に戸惑っていた。

もちろん、それに気づくこともなく…


「サヤさん、昨日のことは…店長さんに言いましたか?」


「はい。きちんと話しました。そもそも…鍵しめてなかった私が悪いので…」


「改善すできる箇所はあるかもしれないが…悪いのは君じゃない。あの連中だ。それを忘れてはいけないよ。」


二人が話していると、店の奥から店長が出てきた。


「サヤ君と…助けてくださったお客様?」


「そうですが…何か?捜査に進展があったとか…」


「そうじゃないんですが…これを渡したくてね。」


店長が差し出す手には…ケーキ?の箱が。


「サヤ君には、いつも朝早くから来てくれているお礼と昨日のこともかねて…お客様にはうちの従業員とカフェを守ってくれたお礼です。こんなもので申し訳ないのですが…」


「店長…これすごく高いやつじゃないですか!」


「本当だ…初めて見る代物だ。本当にこれを?」


「はい…お礼品にしては安いですが…少しでも喜んでほしいと思ってね。」


サヤはケーキの箱に夢中…レドもかなり驚いている。

中身を見てみると、ショートケーキが二つ。


「誰もいないし…二人で食べてください!本当にごめんなさい、そしてありがとうございます!」


そう言うと、店長は店の奥へ戻っていった…

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