【ショートストーリー】「光を求めて海を渡る」

T.T.

【ショートストーリー】「光を求めて海を渡る」

 その島国は、まるで大海原に浮かぶ孤独な砦のようだった。厳しい政治体制の下、小さな島にはしばしば不穏な風が吹き抜けていた。カイトは、その風が人々の心にも重くのしかかっているのを感じていた。

「正義って、どこにあるんだろうな……」

 彼は独り言をつぶやくように友人のユナに問いかけた。ユナは肩をすくめた。

「さあね。でもはっきりしてることがあるよ。それはここにはないってことだね。でも、それを探すのは止めないさ」

 カイトが勇気をもってその政府の不正を公にしようとしたとき、彼は重大な代償を払うことになった。夜の静寂を破るように、彼らの家を襲った憲兵達は、母親の泣き声と妹の悲鳴で満ちていた。

「誰もお前のことは忘れない。信じてるぞ、カイト!」

 ユナの叫び声が背中を押すが、連行されていくカイトは振り返ることができなかった。

 薄暗い獄中での数年間、カイトの心は荒れた海の如く激しく揺れ動いた。しかし偶然にも、山羊が掘り起こした穴が脱獄への道となり、月夜の下、カイトは自由への第一歩を踏み出した。

 新たな土地での生活は厳しかったが、素晴らしい女性エマと出会ったことが彼の人生に新しい彩りを与えた。彼女は老婆の花屋の手伝いをしており、その微笑みによる活力は、厳しかった政治体制が作り上げた壁を乗り越える力となった。

「カイト、過去に囚われてるのはもうやめないといけないわ。自分の心が求める光を追いかけるべきよ」

 エマの言葉がカイトの心を温かくし、彼は過去を許す力を徐々に身につけていった。


 カイトの故郷の島国の風は徐々に変わっていった。

 新しい政府、新しい希望、そして、新しい始まり。恩赦の言葉がカイトに届けられたとき、彼の心にはもう迷いはなかった。

「僕たちの経験が、これから未来を生きる彼らに何かを伝えられるかもしれない」

 エマの手を握りながら、カイトは自らの過去と対峙する覚悟を決めた。

 故郷の海を渡り再び島に足を踏み入れたカイトは、青年たちの前で深い眼差しで語りかける。

「生きるってことは、何度でも立ち上がることだ。過ちを恐れず、間違いを認めたら、次はもっとうまくやれる。それが希望の始まりだよ」

 教室の窓からは光が差し込み、カイトとエマは子供たちと共に新しい歴史のページを開くのだった。自らの生涯を、新しい世代への希望の灯として捧げることを決心し、二人の新しい物語が始まったのである。


(了)

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【ショートストーリー】「光を求めて海を渡る」 T.T. @shirosagi_kurousagi

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