うつ病になって人の欲について理解した

@makurasuke

欲とは人間の行動の原点である。

 私は最近うつ病になった。うつ病とはどんな病気かといえば、何もやる気が起きなくなる、体が重い、気力が湧かずどんよりと鬱屈になるといった症状の出る病気である。


 私はこの経験を通して一つ興味深いことを学んだ。


 無欲になることは不可能である、ということだ。


 うつ病の辛いところ、それは何よりも欲がなくなることである。


 例えば、貴方は性欲を定期的に発散することが楽しいだろうか? それは性欲が湧き上がるからこそ、発散するのが楽しいのだ。


 食事をしていて楽しいだろうか? それは食べたいものがあるからこそ、食欲がわき上がるからこそ楽しいのだ。


 睡眠は心地よいだろうか? それは睡眠で体を休ませたいという睡眠欲が湧き上がるからこそ、睡眠が心地よいのだ。


 欲が湧き上がってくることは健常な状態であるといえる。


 マズローの欲求5段階説によれば、人間の欲は5段階に分かれ、下から生理的欲求、 安全の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求とある。


 下の階層が満たされれば、より上の欲求を求めるようになると言われている。


 この中で最も下層の生理的欲求に、この三大欲求がある。


 つまり、私はこのピラミッドの最も下層の3大欲求がない状態であるから、さらに下、6階層目にいることになる。


 ここで、私は何を求めているか、欲求を欲しているのである。


 性欲が欲しい。食欲が欲しい、睡眠欲が欲しい。


 欲のない生活の、なんとさもしいことか。


 したくもない食事をし、睡眠薬で無理やり床につき、性欲のないせいで毎日の生きる楽しさはひどく低下してしまった。


 欲に振り回される人は多い。それを無くすことで乗り越えることは一つの境地であり、それは幸せなことだと考えている人は多いだろう。私も、そう考えていた。


 しかしそれは勘違いで、実際に欲をなくすとここまで苦痛であるか、と思うと同時に欲を欲するようになるということに気づいたのだ。


 欲は制御するものであって、なくなればいいものではない。3大欲求がなくなれば3大欲求を求めるようになるのが人間というものなのだ。つまり、無欲になるというのは不可能なのである。


 無欲と禁欲は違う。


 欲があるからこそ、あらゆる物事は楽しくなり、行動することの原動力となるのだ。欲を制御することが大切なのであって、欲を無くすことはまったくもって不幸な事なのである。


 それを見失うことのないように、生きていくことこそが必要だと、うつ病になって初めて気づいた私である。


 どうか一人でも多くの人がそのことに気づいてほしいと願うばかりである。

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