第7話

前よりも寒く、凍える時期になった。

保護される前から愛用している『1㎥の大気を自分の体温と同じにする魔法』は『2㎥の大気を自分の体温と同じにする魔法』と進化しており、僕の事を温めてくれる。

もちろん、体を鈍らせないように定期的に寒さも味わっているが。


「最近どうだね?」

「結構稼げましたよ?」

仕事を終えた店長と店員さんがコーヒー片手にフードコートにやって来た。あ、コーヒーあざます。うーん苦い。

ちなみに店員さんの方は俺が例の魔法を使った方だったりする。


「ペットを探したり、金持ちの子供の冬休みの宿題代行とか。そんな感じの仕事ばっかりですけどね。」

「いいじゃないか…いや、宿題は自分でやらないとだね?」

「うっ」

おっと、店員さんにダメージが入っているようだ。援護射撃しよっか。

「ほんとそうですよね!まぁ僕からしたら良いんですけどね?あんだけ休みの時間があって小学校の宿題が終わらないとか甘えですよね!」

「やめなさい。彼、硝子の心だから。」

「だ、大丈夫です…」


まぁ大丈夫ならいいや。


「あ、そういえば無常くん。男の人が君に依頼したいんだって。明日のお昼ごろに来るってさ。」

「わかりました。ありがとうございます。」


____________________


服を買いに来た。

いつもなら激安の古着屋に来ているのだが、今日買いに来たのはこれからの旅のお供となる服装だ。出来れば新品が良い。


お金はそこそこ貯まったし、一般的な服なら買えると思う。


どんな服装にしようか?

やっぱりコートにしようか?カッコ良さそうだし。


「すみません、コートはどこにありますか?」


お店の店員さんらしき人に聞き、最終的に薄茶色のコートを買うと店を出た。


店を出た僕はコンビニを拠点とする前の場所、河川敷に来ていた。

他の住んでいる方々に軽く会釈をしながら僕の背丈以上ある草達を押し退けて入っていく。

時刻はもう夕方だが、外は暗く、こちらを見ている人など誰もいなかった。


「重式『ライト』」


人差し指から蛍のような光が無数に溢れて来る。

この魔法は僕が初めて組み合わせて作った思い出深い魔法だ。

ちなみに、僕が開発している重式達は発動するだけで、大体100MP以上が必要となる。

普通の人は35MPしか持ってないので、発動だけでもまず無理である。

ほんと、頼むからもっと人類に有能な魔法をください。


目的地に着いたので地面に向かって魔法を唱える。

「『自分で作った鍵を開ける魔法』。」


地面に変化は無い。

だが、地面の上には変化があった。


目の前の空間に1つのドアが現れた。

木製で白い扉のそれは、しばらくしたら消えそうで、どこか儚く昔を想起させる汚れがこびりついていた。


『自分で作った鍵を開ける魔法』をもう一度使い、ドアを開ける。

中には見慣れた風景が見えていた。


簡単に言うと、工房と呼ばれるものだ。

よく、アニメに出てくる魔術師や魔法使いはこういった自分の研究室を持っているのを見たことがある。僕もそれに倣って作ってみたのだ。

だが、作れたのは1畳の異空間だけ。昔、僕が監禁された部屋よりも小さい。

まぁ物置とか、作業するためくらいの部屋なんだけどね。


部屋に入り、先程買った薄茶色のコートに魔法を『付与』していく。

うーん、たまには自分の得ている魔法を把握しとかないといざという時に使えないからなぁ…

防水、耐火、温度操作関係の魔法を付与していく。

ちなみにだが、こんなクソみたいな魔法がない世界でも魔法が付与されたモノはいくつか存在する。

例えば、日本の三種の神器や両面宿儺のミイラなどが挙げられる。

良くも悪くも歴史と神秘はモノに宿るのだ。


神話の時代なら、こんなにクソほど魔力と魔法を使わなくても付与できるかもしれないが、少なくとも僕には無理だ。

まぁ、そんな昔に魔法があるかは知らないけどね?


「ふぅー…こんな感じでいいかな?」

他にもいくつかの魔法を施しておいた。

もしもの時はこれでなんとかなるだろう。


そのままそこで寝ることにした。


翌朝、コンビニの店員さんから今日のお昼ごろに男の人が依頼に来ると聞いたので、折角買ったコートを着て待つことに。


空を見る。

何もせずに、ただ空を見る。


無心で空を見ていると声をかけられた。

「君が、例の何でも屋ですか?」

渋めの良い声が後ろからかけられる。後ろを振り返るとスーツを着た3、40代の男性がそこにはいた。


「そうです。あなたが昨日来た依頼人ですか?」

「はい。ここではなんなので、場所を移動しても良いですか?」


子供相手に態度が大人な人だ。

別に拒否する理由もないので彼に着いていくことにした。


「僕の名前は無常です。お名前を聞いても?」

「…はい、私の名前は土御門、土御門明道といいます。」

土御門?あの平安時代に名を轟かせてたあの土御門家の?

「ええ。ですが、それも昔の事です。今は仕事関係もありますが。」

仕事?


土御門に着いていくと喫茶店に着いて個室に案内されると、早速話が始まった。

コーヒーくらい頼まさせてよ。


「まずは自己紹介から。例外4課から来ました。警察の土御門明道です。」

「!?」


警察例外課。

魔法社会となった今、通常通りの事件が起こらないことも多々ある。そんな時に活動すると言うのがこの例外課だ。


だが、活動内容も不明で仕事内容はあまり耳にしない。


「警察、ですか。警察が依頼とは、一体なんでしょうか?」

「単刀直入に言うとですが、あなたには異能力外部協力者となって欲しいのです。」

「なんですか、それ。」


土御門曰く、異能力外部協力者とは言わば民間人に非課税のお金を正式に渡して事件に協力してもらう立場の人間らしい。

もちろん、ずっとその立場でいれる訳でもないが、10年や20年も仕事として活動している人間もいるらしい。

ちなみに、その人数は秘匿されているが、両手の数ほどしかいないという。


「なぜに、僕がその立場に…?」

「…それは機密事項になるので言えません。」

なんじゃそりゃ。

そもそも子供の俺をそんな協力者にしようとするとか大丈夫か?

なんか怖いし断っとこ。


「すみませんが、断らせて…」

「孤児連続魔法喪失事件。」


…なるほど、そう言うこと。


「君の持っているであろう魔法の数は人類史に類を見ない魔法の多さ。私が目につけた部分はそこです。」

「…さっき機密事項になるとか言ってませんでした?」

「…さぁ?何の事でしょうか?」

この人、なぜそんな例外課という変な所にいるのだろうか?所持魔法のせいか?

…『鑑定』


『土御門明道

MP35/35

所持魔法

『進んだ分だけ後ろに下がる魔法』『手の届く範囲で右手を当てた部分にある痒い箇所をかく魔法』『雑巾を美味しく感じる魔法』『声を遅らせる魔法』『幽霊を見る魔法』『呪いに耐える魔法』『計算が早くなる魔法』』


…なるほど、この『幽霊を見る魔法』と『呪いに耐える魔法』のせいか。

確かにこういう系の魔法はとても珍しいし、僕も持っているのは『呪いに耐える魔法』と『ランダムで低級霊を召喚する魔法』くらいしかない。


ちなみに『ランダムで低級霊を召喚する魔法』は有能と呼ばれるかもしれないが、召喚はできるが維持はできない。


「孤児連続魔法喪失事件はどうなるんですか?僕としては犯罪を犯したという認識はなくても周りの反応が面倒くさくて…」

「それは我々としても困っているのが現状です。ですが、今出ている結論としては“無罪”となっています。」


…さて、どうしようか?









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