牧歌

 牧歌


いつかは遠く 虹が架かってた

風は谷を抜けて街へ

麦わらの家を出たユーレイは

カラカラ乾いてキリキリ痛んだ靴を

急ぎ つま先に引っ掛けて。


揺れる穂に歌いかける

焦がれた景色の中を

浮かぶ道を飛ぶように。

潤む瞳と歪んだ角の

鹿が撒いた枯葉の雨を

追ってもつれて包まれて

起きてのっけて笑うように。


外れの紅い木々から

輝き放つ声がして

ざらつくカビた頁から

ふと目を上げて

指先に感じる

閉じた本の

風。


陽を飲み込む湖の上

渡る複葉機の扉へ

その手を連れていく

傾いた翼に載せられた街を

秘めた瞳に閉ざすため

いつか木馬に還すため


頬を撫でる風に当てられて

振り返ってふと思う。

あの枯葉の道はいつまでも

かどわかしの色を失わず

フラフラ手を振るユーレイは

不思議に笑っているのだろう。

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