第3話 添い寝

 幼馴染同士で添い寝って、アリなのか?


 僕は、紫と並んで深夜アニメの録画分を観ていた。

 紫は元来これといった趣味がスイーツ漁りしかなく、クラスで話題になっていたものを齧るように嗜むことがある。


 ラノベが原作だという、この幼馴染と主人公の恋愛模様を描いたアニメを見流しているのも、きっとそういう理由なんだろう。


 僕は、それを「紫が見ているから」という理由だけで横で眺めている。


 だがこのアニメ、なんとヒロインが全員幼馴染で、次々と主人公に迫ってきて、「幼馴染だから添い寝は当たり前だよね♡」とか言っているんだ。


 実際に幼馴染がいる僕だから言うけど。

 いくら幼馴染同士でも、添い寝はナシだろ!!!!


 絶対に一線を越えそうになる。てゆーか越える。

 でもって、越えたら円満に交際することになるか、関係が破綻するかのどちらかだ。


 僕は、後者がこわくて何もできない。

 添い寝どころか告白……というか、「好きだ」という気持ちを伝えることすらできていない。


(紫は、どういう気持ちでこのアニメを見てるんだろう……)


 いつもどおりのぽやっとした表情からはそれを察することはできない。


 アニメを見終わって、いい感じに眠くなってきて、僕らは歯を磨いて寝ることにした。


 いくら同棲しているからといっても、これはあくまで国の施策『若年層同棲推進法

』で進められている同棲だ。夜這いなどの危険行為を防ぐために、互いの部屋はカードキーによる施錠が施されている。


 僕は無機質に鳴るピッという音を背に、自室のベッドに倒れ込んだ。


 脳内には、さっきのアニメの「幼馴染だから添い寝は当たり前だよね♡」という言葉が渦を巻いている。


(当たり前……なのかな?)


 ヒロインのその言葉を受けて、主人公はまんざらでもなさそうに照れながら添い寝を許し、結局一晩、一線を越えることはなかった。


(案外イケるのか……?)


 僕だって、できることなら紫と添い寝したい。

 我慢できるかわからないけど、もし許されるなら、隣に寝そべるだけでいいからしてみたい。紫の温もりの隣で寝てみたい……


 次第に悶々としてきた僕は、枕を抱えて部屋を出た。

 廊下を挟んで向かいにある紫の部屋を、遠慮がちにノックする。


「紫、起きてる?」


 少しすると、紫は「ん~?」と眠そうな目をこすって扉を開けた。

 完全オフモードのゆるっとしたパジャマと、胸元の張り加減からノーブラであることが伺える。


 僕はどきりと跳ねる心臓を理性で抑えつけて尋ねてみた。


「ちょっと眠れなくて……一緒に寝ても、いい……?」


「ふえ……?」


「絶対に手は出さない。約束、するから……」


 赤くなった頬を隠して伺うように視線を向けると、紫は「怖い夢でも見たの?」なんて呑気なことを言いながら部屋に通してくれた。


 こういう無防備さが、男として意識されていないようでなんだかなぁ、というのと同時に、信頼されているのかな、なんて喜びを沸き立たせるから、複雑だ。


 僕は「ん。どーぞ」と促されるままに少し開けられた布団の中に潜り込んだ。

 そこは全部が全部紫の匂いで満たされていて、一瞬にして僕の理性はどうにかなりそうになったけど。ぐっとこらえて身を横たえる。


 シングルベッドにふたりして仰向けに寝そべると、肩と肩がくっついて、紫のあったかさが伝わってきて、じーん、と皮膚が熱くなる。

 次第に穏やかな寝息に変わっていく呼吸が愛らしくて、上下する胸が蠱惑的で。もぞもぞと寝返りをうつたびにあちこち触れる感触がもどかしくて。抱きしめたくなって。


(やっぱ……よくないな)


 最高だけど、拷問みたいだ。

 自分で望んでおいて、なんていう状況だろう。


 でも、僕は自分の言ったことを最後まで守り通せない人間にはなりたくないから。なにより、紫に信頼されているというこの関係を壊したくないから。必死の想いで我慢した。


 ……結局徹夜だったけど、紫がぬいぐるみのくまと間違えて僕に抱き着いてきてくれたときだけは――


 最高だったよ……

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【短編】少子化対策で同棲はじめたら、幼馴染が裸でうろつく 南川 佐久 @saku-higashinimori

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