第3話 お姫様抱っこは恥ずかしい


「あの……?竜王様。そのう?」

「んん? アリスティア、俺のことはジェイデンと呼んでくれないかい?」

「ジェッ…ジェイデン様。私、自分で歩けます!」


「ダメだよ? アリスティア。だって君は靴さえ履いていない。そんな足でこの森を歩くなんて無謀だ」


 私はジェイデン様にお姫様抱っこされ、森から街に向かっている。魔物から逃げ回る時に靴は無くなり、脚は傷だらけ。


 傷だらけの脚は、ジェイデン様が治癒魔法で綺麗に治してくれたので、今は痛みもなく傷もない元の綺麗な脚に。


「それに……このままでは、立って居るだけでも可愛いアリスティアの脚が見えてしまう。俺は他の人に可愛い脚を見せたくないからね?」


 確かに魔物から逃げ回っていた時に、ドレスのスカートはビリビリで脚は太ももまで丸見えだ。今はジェイデン様のマントに包まれている。


 日本人だった時は腐女子だったから。お姫様抱っこなんてされた事ない。


 ——どころか彼氏だって居たことない!


 それが、こんな見惚れるくらいの綺麗な人に至近距離でくっついて……。


 ドキドキしすぎて心臓の音がうるさい!

 顔はきっと真っ赤になっているだろうし。恥ずかしい。

 私はまともにジェイデン様の顔を見る事が出来ず……ずっと下を向いて話をしてる。


 だって顔を上げたら綺麗な顔したジェイデン様と目が合って……極上の笑顔が降り注がれる。

 くぅ。心臓に悪い!


「アリスティア、どうしたんだ? 気分が悪い?」


 ずっと私が下ばかり見てたせいで、ジェイデン様が心配して覗きこんで来た‼︎

 はわっ、綺麗な顔が近いんです! 緊張するんです!

 思わず顔を背ける。


 その姿を見たジェイデン様が少し寂しそうな顔をした。


 あっ、違うの、嫌じゃないんです!

 ドキドキして顔が見れないだけ! なんて言える訳もなく……。


「だっ、大丈夫です!!元気です」


 それしか言えないなんて、私のコミュ力のなさ。


『もう少し我慢してね? あと少しで街に着くから』


 ううっ……そんな顔させてすみません!我慢とか嫌とかじゃないのに……。



 あっ、目の前が明るくなってる。街の灯りだ。良かった……!

 私……助かったんだ。


 あのまま死ぬのかと思った。


 ジェイデン様が助けてくれなかったら……!


「アリスティア、どうしたんだ? やはり何処か痛いのか?」


 ジェイデン様がものすごい勢いで心配している。


 ——あっ!


 私は知らない内に涙を流していたみたいだ……。


「すみません。街の灯りをみたら安心して。ホッとしたのです。この涙は嬉しいのです」


 変な喋り方だけどもう仕方ない。


「そうか……」

 そう言うとジェイデン様は優しく私の頭を撫でてくれた。



 ★★★



 街に着いたら、男の人二人が慌てて駆け寄ってきた。



 ハッハァッ

「竜王様!! 急に何処に行ったのかと探し周りましたよ!」


 ハァッハァ

「何も言わないで勝手に何処かに行かないで下さい!」


 男の人達は汗だくだ。ジェイデン様の部下? の人なのかな?


「ふうむ。急に森が気になったのだ? 仕方なかろう?」

「はぁー……! そうですか。で、気になった理由は分かったのですか?」


 部下の人は頭に手をのせると、少し呆れたように大きなため息を吐いた。


「わかった。俺が抱いている可愛い娘。唯一無二の存在が見つかったのだ!」

「唯一無二!? つっ、番様が見つかったのですか!!」

「そうだ!早く部屋に案内しろっ!」


 部下の人達は私の姿を見て、目を見開いて驚いた後、一人の部下の人が慌てて走ってどこかに行ってしまった。


 残った一人が話かけてきた。


「番様、私は竜王様の執事をさせて頂いています。ルミエールです。番様のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


 執事のルミエールさんはスーツ姿で短髪白髪をぴっちりと横分けした、イケオジ様だ。


「アリスティアです。竜王様に森で助けて貰いました」

「何と、森で……? この様な美しい女性が一人で? ふむ……後で詳しく教えて頂きたいですね」


 ルミエールさんは私が森に一人で居た事が不思議みたいだ。

 まぁ普通に考えて、森にドレス姿でいるとかおかしいもんね。


「この場所で立ち話してる場合でないですね。急いで泊まっている部屋に行きましょう」


 私はその間も、ずっとジェイデン様に抱っこされたまま街を歩き、この街では一番高いであろう宿泊施設にたどり着いた。

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