[赤連]の皇帝

「…これで完了した、のかな?」

 乱入した男を叩きのめし、赤亡は額を拭う。

 現在時刻は深夜3時。同タイミングで受注した血走は、とっくに罪競いを倒している頃だろう。

「…報酬ってどこで貰うんだろ。震奮の時は確か、団長が何処かから取り出してた気がするんだけど」

 団長の情報に不満を抱えつつ、ひとまず帰路につく赤亡。

「あの人、「んじゃ!」って空の彼方へ飛び立ってったからな…」

 血走に文句を垂れ、一度道路から歩道へと戻った直後。

 赤亡は見てしまったのだ。

 至って普通のビルの壁、自らの名前が記されたポスターを。


「探しています――赤亡系糸」


 自分は、行方不明者扱いとなっていた。

 日光を浴びれば死ぬ。故に、帰るタイミングは自ずと夜間になる。しかし、殺人現場に出くわした、返り血だらけの男性が夜に訪ねてくるなど、どう繕っても恐怖でしかない。

 日光を克服するのはごく簡単であり、実際に赤亡が誘拐された時刻は白昼だが、血走は何ら問題なく行動出来ていた。

「あー…そうだよね。3ヶ月も消えてれば、そりゃ…」

 問題は赤亡がそれに気付かなかったこと。トラブルが立て続けに起こったせいで、判断力が鈍っていたのだ。

「…僕の親、今頃倒れてたりして…ね、ははっ」

 輪郭を、雫がなぞる。

 彼の家族仲は至って良好であり、あの日も普通に送り出されていた。

 惨劇によるダメージは、彼よりも両親の方が大きいとすら思える。

「…ふざけないでよ。怨野はなんで僕を選んだんだよ…僕にどうしろと?」

 マイナスの感情が降り積もる。

「…人間に、戻りたい」

 大粒の涙が溢れる中で、赤亡は天を仰いだ。

「…爆発?」

 遠方より聴こえた、ビルが倒壊したような音。

「西、30km先…血走さん?」

 ―――

「おい、本当に彼である必要は合ったのか?」

〈どうしてそんなこと訊くんだよ〉

「お前のせいで彼の人生は台無しだ!確かに奴の予言は大抵当たる。だが、それを鵜呑みに――」

〈するさ〉

「私や、最悪[鳴亡]もいるだろう?たかが2年で、彼が抗えるほど強くなるとは思えない」

〈あんたは視野が狭い。もっと広く考えろ〉

「…チッ」

 電話を乱暴に切り、心做はスマホをしまう。

「怨野…どれほど恨まれても、お前一人では勝てないというのに…!」

 来たる“何か”への憂いを口にした直後、聞き慣れない爆発音が耳に入った。

「…この周辺に爆発系はいなかったはずだ。となると誰かが死んだことによる断末魔の奇罠―トラップインザデス―の発動が濃厚か…さて」

 心做は目線を一切動かさず、背後へと血刃を素早く投げる。

「…普段なら血走に任せていたが、生憎今は私一人だ。逃げるという選択を取らなかった場合、貴様を死ぬよりも恐ろしい目に合わせてもいいのだぞ」

「…ここに入ったってことは、そんなもんハナから覚悟してんだよ!野郎共!行くぞ!」

 リーダーと思わしき男が合図すると、十人程度の集団が一斉になだれ込んできた。

「…下らない」

 心做はリーダーと思わしき男にナイフを当て、命令した。

「私の機嫌を損ねれば全員殺す。答えろ、お前は誰だ?何をしに来た?」

「…あ…」

「リーダー!そんなやつの言うこと――」

「貴様も死にたいか?」

 同じ空間にいれば卒倒する程の殺気と気迫。

「…今手を出されるのも面倒だ、この際――」

 全員に、それぞれ一箇所ずつ浅く傷を入れ、力強く言い放った。

「恐怖で縛り上げてやる」

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