ほぼ損害ゼロの襲撃

「…足音?」

「客人のようだな」

「悪い方のね…臨戦態勢に入ろうか」

 血走は左肩の、心做は額の紋傷から血刃を引き抜く。

「この拠点はオンボロだ、壊されたらたまったもんじゃない、先手必勝」

「わったしの出番だぁー!」

 外へと一目散に駆けていく血走。

「…敵襲ですか?」

「ああ。恐らくだが、酔闇の所属する盟団が報復に来たのだろう」

「相手の刃術は分かってるんですか?」

「全く分かってない。だが、血走は能力を知らない相手でもとりあえず凌げるくらいには強いんだ」

「おらおらー!」

 血走の嬉々とした声が聞こえる。

「団長!中に入れてもいいですかー?」

「構わない。赤亡、入り口付近に糸を張っておいてくれ」

「転かすつもりですか?そんな古典的な…」

「大丈夫だ、問題ない」

 血刃と繋がっている右腕を切り落とし、ただの肉片と化したそれを左手で持つ。そして、血刃は無機物に対しては良く刺さるという性質を活かし、再生した右腕から血刃を引き抜き、肉片を固定する杭となるように貫いた。

「完成しましたけど、本当に入れるんですか?」

「血走で一分以上持ちこたえられる集団なら、私には取るに足りない」

「あの人が一分以上持ちこたえられないことのほうが多いような言い方ですね」

「というよりも、交戦相手が総じて強いのが悪い。彼女はむしろ強い方なのだがな。入っていいぞ、血走!」

「はいはーい!」

 ドアを開けた瞬間、なだれ込んでくる集団。

「心做ァァァ!!」

 狂気じみた形相で団長の名を叫ぶ男A。

「ぐわっ!」

 ありきたりな悲鳴でトラップにかかる男B。

「よくもあの方に傷をつけたなぁ!」

 男Aと同じような形相で心做に向かって走る女C。加えて外で倒れている者達と、中々に騒がしい光景が完成してしまった。

「なぜ私が恨まれているのか知らないが…」

 心做は、アイスピックグリップで血刃を構え、向かってきた男Aに軽く斬撃を浴びせた。

「どれ、ここは一つ、赤亡に私の能力を見せてあげようか」

「ちょ、団長!?何やってんの!?」

 人の山を積み上げていた血走が、慌てて走ってくる。

赤い恐怖レッドテラー。恐怖の支配に落ちよ」

 言った直後、男Aの表情から怒りが消えた。

「え馬鹿なの団長!?」

「…死んだの?」

「違うよ!この馬鹿の能力は…いや、やめとく。敵勢力の前で能力を晒すのはご法度だからね」

「クソッ!しぶといわね!」

 赤亡と血走が話している間、心做は女Cの攻撃を躱し続けていた。

「悪いが、手に持った状態で斬ると能力が発動してしまう。普通に落とさせてもらうぞ」

 心做は素早く後ろに回り込み、首がへし折れるような勢いでヘッドロックをかました。何かが折れるような音が響いた。

「…血走、欺偽の所へ――」

「嫌だよ。何で専属医師に敵を診せないといけないの。あーいや、でも団長が賞金首判定喰らったら[赤連]が死ぬ」

「おいテメーら…まだ残ってるだろうが!」

 開始早々に赤亡のトラップにかかり行動不能と化した男Bが、ここにきて急に立ち上がってきた。

「我らは盟団[巨刃織]!我が同志酔闇を攻撃した挙げ句、傷を負ったまま放置した貴様らへ報復に来た!」

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