僕らは何もしていないのに

軍鶏酉蘇傀

僕らは何もしていないのに

「恭平、最近学校楽しい?」

「う、うん。」

「そうか!それならよかった。引っ越してきてもうすぐで1ヶ月だけど、うまくやっていけてそうで、なにより!よし、今日もいってらっしゃい!」

「行ってきます。」

本当は学校なんか楽しくない。

母さんや父さん、姉さんの前では嘘をついているだけだ。

引っ越してきた当初はみんな優しくて学校が楽しかった。

いつからだろうか、みんなが僕をいじめてくるようになったのは。何故そんなことをするのかと聞いても誰も答えない、先生も見てるだけで助けてくれない。

どうして、どうしていじめられてるんだろう。

「今日も来やがったな!日本を脅かすゴミ虫め!この、八原様がぶっ殺してやる!」

今日もみんなしていじめてくる。

やめてと言っても誰も聞く耳を持たない。

助けて、誰か助けて。

その叫びは誰も聞かなかった。


気がついたら公園にいた。

もう何も考えたくない。なんで、なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ。

もう、空も暗くなってきて夜になろうとしてるけど、もういいや。

なんだか、家にも帰りたくない。

このまま時間が一生止まらないかな。

でも、時間は動く。公園の時計の針は動き、雲はどんどん流れていく。

「ねぇ、何してるの?」

声の方を見てみると、小さな女の子がいた。

小学生だろうか、こんな時間にって自分もそうか。

「空を、雲を見てるんだ。」

「ふーん、面白いの?それ」

面白いか、そんなの考えずに、何も考えずに見ていたからわからないな。

「まぁ、いいや。ねぇ、お兄ちゃんこんな世界、一緒に変えない?」

「はぁ?」

世界を変える?そんな突拍子もないことを言い出したので思わず声が出たが、小学生だからまだ夢の中にいるのだろう。

変わった子だが、夢を壊さないように話を合わせるか。

「そうだな。君はこの世界をどんなふうに変えたい?」

「うーん。嫌なものを全部壊していくの!そしたら、勝手に世界も変わるし、楽しい世界になるでしょ!例えば、八原庄司とかね。」

なんだ、この子。なんで八原のことを知ってるんだ。

気味が悪くなり、その場から走り去った。

あの子は普通じゃない。本能が言っている。

怖い。その一心で逃げ出した。

気がついたら家の前まで着いた。

本当は帰るのも嫌だったけど、どうしよう。

また、あの公園に行くのもなんだが気味が悪いし。

そう悩んでいると、

「恭平?どうした、そんな家の前で立ち尽くして。」

振り返ると、父さんがちょうど仕事から帰ってきていた。

「あ、いや、少し考え事してて。」

「そうか、それよりこんな時間まで何してたんだ?」

「友達と遊んでたんだよ。」

うるさい

「遊ぶのはいいが遅くならないようにしなさい、最近は物騒だからな。さぁ家に入るか。」

「うん」

家に入ると、母さんがリビングから出てきた。

「お父さんと、恭平!おかえり。晩御飯できてるから、早く食べましょ。」

手を洗い、うがいをし、席についた。

「恭平、今日どうしたの?帰りが遅かったみたいだけど、」

「あぁ、母さん。恭平は友達と遊んでたみたいなんだ。まぁ、怒らないでやってくれ。新しい友達ができて嬉しいんだよ。」

うるさい、うるさい

「父さん、恭平のこと甘やかしすぎ。母さんもあんまり怒らない方なんだから、誰が叱るの?恭平、次からは早く帰ってきなよ。母さん心配してたんだから。」

うるさい、痛い、頭が痛い

「まぁ、いいじゃないか。恭平もわかっているようだし、今はご飯を食べようか。」

痛い、うるさい、うるさいうるさいうるさい

「そうだ!今度友達のうちに遊びに行くなら、お菓子持って行きなさい。お母さんが作っとくから。」

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい「うるさい!」

その場が凍った。時間が止まったように。

「はぁ!何その言い方!母さんがせっかく作っとくて言ってるのに!」

自分が自分でなくなるような気がして、すぐにその場から逃げ出した。

何故かあの時、うるさくもないのにうるさいと思ったり、頭が痛かった。

なんでなんだ。本当はそんなこと思ってないのに。

家を出ようとし扉を開けると、人が立っていたため、横を通ろうとすると止められた。

顔を見上げると、警察官の格好をした男の人達が立っていた。

「君が恭平くんかな?」

「は、はい。」

「ちょっと署まで来てもらうよ。話はそこでするから。」

「ちょ、ちょっと待ってください!恭平が何をしたというんですか!」

追いかけてきた父さんが僕の前に来た。

「ご両親の方ですか、実は八原庄司くん。彼が公園で殺害されておりまして、そこから走り去る恭平くんの姿をこちらの方が目撃しておりまして。公園には誰もいなかったので、恭平くんに少しお話を伺おうと思いまして。」

そこからパトカーに乗り警察署まで行った。

公園にいたことは話したが、何故いたのかと、少女のことは話すことができなかった。

結局その日は釈放された。

生きた心地がしなかった。

もちろん自分は何もしていない。そうわかっていてもあの圧迫感といいもう二度と味わいたくはない。

僕は何もしていないのに。


次の日、何かが窓に当たる音で目が覚めた。

窓の方を見ると生卵が窓についていた。

窓から外を見ると、もうそこには誰もいなかった。

一階に降りると、皆が暗い表情をしていた。

「お、おはよう。」

そういうと、姉さんが睨んできた。

「あんたのせいで、こんなことになってるのに、よく呑気におはようなんて言ってんじゃねぇよ!何がしたいんだよお前は!」

姉さんにそう言われて殴られたが、両親はそれを止めようとも叱ろうともしなかった。

外を見ると、ゴミ袋が置いてあったり、自分の部屋と同様に生卵がついていた。

なんで、なんで何もしていないのにこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ!

全てが嫌になり、家から1人で逃げ出した。


その日は学校には行かなかった。

いつもの公園には規制線が貼られていた。

どこにも行くところがなく公園の規制線の前で立ち尽くしていると、

「あ、いたいた!お兄ちゃん。」

声の方を振り返るとそこには昨日の少女がいた。

そして、後ろには黒服のガタイの良い男たちが立っている。

怖くて逃げ出すことも声を出すこともできずにいると、

「そんなに怖がらくていいんだよ。それよりね、私お兄ちゃんとお買い物に行きたいの!早く行こ。」

手を引っ張られ、そのまま少女についていった。

もうなんでもよかったんだ。何がどうなろうと。

もう、嫌なんだこんな世界が。

少女に連れられ車に乗り、車はそのまま走り始めた。

「ねぇ!お兄ちゃん話聞いてた?」

少女は目を合わせて言ってきた。

「もう、嫌なんだ。こんな世界が。」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ壊しちゃえば?」

「壊す?何言ってるんだ?」

「壊すって、八原庄司みたいにすればいいんでしょ?本当はお兄ちゃんにやって欲しかったんだけど、私たちがやっちゃた!」

「やったって、君がやったのか?八原を?」

「うん、そう言ってるでしょ?」

この少女のせいで、僕は、こんな目に遭っているのかと、思い少女に掴みかかろうとしたが、後ろに乗っていた黒服の男に腕を拘束されて何もできなかった。

「あははは、暴れちゃダメだよお兄ちゃん。私たちがやらなくても、いつか本当にお兄ちゃんが殺しちゃってたでしょ?だって、実際殺したいほど憎かったんでしょ?」

そう言われると、何も言い返せなかった。

けど、それでも少女に何か言ってやりたかったが、無理だった。

「うん?少し冷静になれたかな?これからお兄ちゃんに選択肢を与えます。パチパチ!」

そういう、少女は無邪気な笑顔をこっちに見せてきて、なんだか怖かった。

本当に、この子が殺したんだと考えるとさらに怖い。

「選択肢まず一つ目!お兄ちゃんは私たちと一緒に世界を壊す。そして私と幸せに暮らす!

二つ目!このことは忘れて家に帰る。こんなクソみたいな世界で暮らし続ける!どっちがいい?」

男は僕がもう抵抗しないと分かったのか、拘束を解いた。

「もう、もう嫌なんだ。僕に関わらないで、ください。お願いします。家に、家に帰してください。」

涙がボロボロ出てきた。もう怖かった。

目の前にいるのは少女と呼んでいいかわからない。

悪魔とでも言うべきか。

「そっか。じゃあおやすみ。」

その時強い衝撃が走り、意識が暗転した。


目が覚めると自分の部屋で寝ていた。

なんだったんだ。周りを見てもいつもと同じだが、窓から外を見ると、家の前にはゴミ袋が置かれてあった。

時間を確かめると、13時。

あの出来事は全て夢だった、それは思い込みに過ぎなかったのだ。

家には誰もいないのか静かだった。

恐る恐る階段を一段ずつ降りていった。

誰かいたら、姉さんみたいにみんな怒ると思ったから怖かった。

自分の家なのに、冷や汗が出てきた。

戻ろうとしても、振り返ることすら怖かった。

もう、この家すら学校のように思えてきた。

階段を降り終え、前を見るとそこには足があった。

足から上の方を見ると、そこにはぶら下がっている父さんがいた。

「え、」

思わず声が出た。夢なんだよな。

腰が抜けてしまい、その場に座り込むと、テーブルの奥の方には赤色の液体で広まっているのが見えた。

液体の広がっている元を見てみると、そこには包丁が胸に突き刺さっている、母さんの死体があった。

その母さんの死体の横には姉さんが倒れていた。

「あ、あ、いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」

うつ伏せになっている姉さんの方に駆け寄った。

「起きて!起きてよ!姉さん!!」

仰向けにすると、姉さんの胸の辺りは赤で染まっていた。

よくよく、姉さんが寝転んでいた床を見ると、そこにも赤の液体、いや血が広がっていた。

皆死んでいた。さすってみても反応はなく、体はもう冷たかった。

泣き叫んでいると、誰かが僕の肩を叩いたが、もうそんなのどうでもよかった。

その後のことはあまり覚えていなかった。


次に目が覚めた時は、病院のベットだった。

お医者さんが言うには、

僕は家で泣き叫んでいたところに警察が来て、そのまま保護されたらしい。

通報した人は誰かわからないらしい。

心当たりがあるかと言われ、少女のことが頭によぎったが、少女が怖いのか言えなかった。

それから、家族がいなくなったと言う喪失感で何できなかった。

病院に入院して看護師さんが話しかけてくるのに返し、お医者さんの質問に答えて、ご飯を食べているだけの日々だった。

ただ、ある日のこと。お医者さんから、

「あー、恭平くん。明後日警察の方が君と話をしたいらしいが、どうする?もちろん君が嫌だったら断るが。」

自分はもう何もかもどうでもよかったため。

「どちらでもいいです。」

「……そうか、ではこちらからはまだ回復しきっていないため無理だと言っておく。」

犯人を知りたい、そして復讐してやりたいと言う気持ちがあるが、何の情報もないし、そもそも警察が、あの時来なければ今頃みんな生きてたのに。


それから、体調は回復していったが退院の話になるとお医者さんは少し暗そうな顔をしていた。

看護師さんが話していたことによると、僕には引取先がいないらしい。

このままだと孤児院に入るらしい。

もうなんでもよかったから別に孤児院に入るのが嫌だと言う感情もなかった。

いつも通りぼーっと過ごしていると、

「ちょっと!面会はまだダメですからやめてください!」

「調査なんで、邪魔しないでください」

廊下から声が聞こえて、何なんだって思っていると、自分の病室の扉が開いた。

そこにはあの時自分に取り調べをしてきた警察がいた。

あの時のことを思い出すと息が苦しくなる。

体が恐怖で染まっていくような感じがした。

「おー、久しぶりだね恭平くん。ちょっと君に話を聞きたくてね。」

「な、なにも、知りません。」

そう答えると、舌打ちをしてベットのとこにある机をバンっと叩いて大声で

「今回も!お前が!やってんだろ!!何がしたいんだよ!友達殺して!家族殺して!何がしてんだって聞いてんだろうが!」

あの時の事情聴取と同じだった。

「し、知らないんです。ゆるしてください。」

恐怖からか涙が出てきた。

「許してくださいダァ〜?テメェは許されねぇんだよ!この人殺しが!仲間がいるんだろ?八原庄司と仲が良かった、香山修三、小山奈緒の死体があがってんだよ!さっさと言えや!この人殺しが!!」

もう恐怖でうずくまっていたが、警察はやめてくれなかった。

「先生!あの方が恭平くんに!」

「ちょっと!あなた何してるんですか!彼の面会は許可してませんよ!帰ってください!!」

そう言う、お医者さんと、看護師さんの声が聞こえた。

「はぁーあ、わかりましたよ。ただ、こいつは人殺しなんで気をつけてくださいね。」

そういうと、あの警察は出ていった。

その日はもう恐怖で震えていた。

怖かった。もう嫌だった。

何であの時、僕だけ生きていたんだ。

もう死にたい。


そんな気持ちがしばらく続いた。

精神的な問題についてはカウンセリングを定期的に受けることになり、明日からは孤児院で暮らす予定だ。

あの警察が言っていたこと、香山と小山あの2人は死んだ。それを思い出すたびに嬉しい気持ちがあった。

そんな自分が嫌だった。

そんなことを考えていると、

扉をノックする音が聞こえた。

「恭平くん。入っても大丈夫かな?」

看護師さんだった。

「はい。」

そう言うと、看護師さんは入ってきて話をしてきた。

「あのね、この前嫌な警察の人が来たでしょ。その人が恭平くんに嫌なことしたから、それを他の方が謝りに来たんだけど、会っても大丈夫?」

違う人なら大丈夫だろうと思い、警察の人は怖かったけど恐る恐る頷いた。

看護師の人が呼んできて警察のお兄さんが入ってきた。

「恭平くん、すみませんでした。同じ警察官として謝らせてほしい。許されることではないが本当にすまなかった。」

お兄さんは頭を深々と下げて謝ってきた。

「許すか許さないから恭平くんが決めるんだよ。」

っと看護師さんが言ってきた。

自分は心を決めて、お兄さんに

「僕は、あの人を許しません。あの人のことを思い出すと今でも怖くて嫌いです。でも、お兄さんは、お兄さんが謝ることじゃないので、謝らないでください。」

お兄さんは頭を上げ、

「そうか、わかった。君は大人なんだな。あの人のことは私に任せてほしい。今までも、詳しくは言えないがいけないことをしていたみたいだから。それと、家族の件そして君をいじめていた子たちの件についてはこちらでしっかりと調査する。任せてくれ。」

「そのことなんですけど、僕は本当に何も知らなくて、」

「言わなくても分かっているさ。君がそんなことをしないって分かっているから。それじゃあ、私はそろそろいくよ。ありがとう、会ってくれて。」

そう言うと、お兄さんは出ていった。

その後、看護師さんがフルーツがいっぱい入ったカゴを持ってきた。さっきのお兄さんからだそうだ。

それと、手紙ももらった。そこには『1人で見てください』っと書いてあった。

夜、1人で手紙を見てみると、そこには

『やっほー、お兄ちゃん覚えてる?私だよ!

あの時のこと。ちゃんと話してないみたいだね。ありがとう。

家族のことは私がきた時にはもう死んでたんだ。辛いだろうけど、この先頑張ってね!

明日から孤児院に行くらしいね。

明々後日に会いに行くから楽しみにしててね。

そこで気になったこと、知りたいことは全部教えてあげる。

ちなみに、お兄ちゃんをいじめたゴミは処理しといたよ。

前を進んでね。

また会おうね、お兄ちゃん。

               スイより』

そう書いてあった。

あの少女、スイって言うのか。

やっぱりあいつらを殺したのは少女、スイだったのか。

聞きたいことか。


孤児院での暮らしは何と言うか、数日過ごしただけではよくわからなかった。

優しいと言えば優しいが、冷たいと言えば冷たい。よくわからなかった。

そして、例の日がきた。

客間に行くと、そこにはスイと執事と思われるお爺さんがいた。

「やっほー!お兄ちゃん、来たよ〜!」

そこにいたのは無邪気な女の子だった。

本当にあの時とは違くて驚き、調子を狂わされたが、最初に会った時もこんな感じだったかと思い、こういうやつこう言うやつ何だろうと思うようにした。

「聞きたいこと、聞いてもいいか?」

「うん!いいよ〜。」

スイは出されたクッキー頬張っていた。

「聞きたいことは、何であいつらを殺したのか。そして、何が目的なのか。それだけだ。」

「うん?それだけ?」

「ああ、そうだが。」

「ふーん。」

スイは少し考えたようにすると話し始めた。

「まず、何で殺したのかだけど、それは許せなかったから。あいつらにお兄ちゃんをいじめるのをやめろって言っても聞く耳持たず。私じゃ無視されるし、黒服のお兄さんたちに言ってもらってもその場では聞いても次の日になるといじめてたみたいだし。とにかく許せなかったの。それにあいつらの親全員。あいつらもいじめをして相手が自殺するまでそれをやめなかった。死んだ後もその人たちのことを嘲笑って楽しんでいたから、大切な子供が失っても同じこと言えるかなって思って、殺してやったの。あ!ちょっと待ってね。何でそんなこと知ってるんだってことはこれからの話につながるから!

そして、次の何が目的なのかだけど。私、いや私たちはいじめなど犯罪とされていないもの、冤罪で逃げ切れた犯罪者たちに制裁を加える団体なの。私はそこのリーダー。本当はお父さんとお母さんなんだったんだけど、いじめの犯罪化のデモをしてるところをいじめをしていた人の1人が恐れてお父さんとお母さんは殺されたの。そこでね、私思ったの。あいつらは人間の皮を被ったただの怪物だって。だから私たちはそんな怪物を殺しているの!そこのメンバーは大体デモをしていた人が大半で、みんないじめの被害者なの。私たちはいじめをなくすためにあいつらを殺したの。いじめは絶対に許せないから。

だからね、大人の人たちが頑張って情報集めてたから、いろんなこと知ってるんだよ!」

「つまり、いじめをなくすためことが目的なのか?」

「うん!そうなの!ちなみにここの孤児院の人たちも私たちの団体メンバーなんだよ!そうじゃない人もいれけどね。お兄ちゃんみたいな。」

「一ついいか?」

「うん!お兄ちゃんの質問なら答えられる限りならなんでも答えるよ!」

僕は恐る恐る口を開いた。

この質問はスイの逆鱗に触れるかもしれないからだ。

「やっていることは同じじゃないか?そんなんでいじめは無くならない。ただの悪循環だ。」

「は?何言ってんの?お兄ちゃん。」

「君のお父さんとお母さんはそれがダメだと分かっていたからデモという形で、抗議という形でいじめを無くそうとしたんだろ?こんなことやめるべきだと思う。確かにあいつらが死んだって聞いた時は嬉しかった。でも、同時に自分もあいつらと同じなんじゃないかと思って怖かったんだ。」

「いい加減にしてよ!何がやめるべきなの!お兄ちゃんは、何も知らないのに!そんなこと言わないでよ!」

「何も知らない。でも、何も知らないからこんなことは間違ってるって言えるんだ。」

スイは怒ってその場を出ていってしまった。

止めようとしたが、腕を払われてしまった。

追いかけようとしたが、

「恭平さん。スイ様は今はそっとしておいてあげてください。」

っと執事さんに言われた。

「少し、私めと、お話しませんか?」

「は、はい。」

ソファに座ると、執事さんは話し始めた。

「スイ様。あの方はご両親を目の前で亡くされており、今でも復讐に囚われているのです。いじめをした人間は全て化け物だと思い、殺しまわっているのです。

いわば、もうスイ様はただの殺し屋、いや化け物と化しているのです。メンバー皆それを指摘できないのは、いじめを許せない気持ち、そしてそれで実際にいじめがなくなったから感謝しているからなのです。スイ様も本当は気づいているのですが、デモをしていた方々もスイ様にがリーダーになった後、団体に加わった方々も誰も言えないのです。そこで、恭平様にお願いなのですが、どうかスイ様を復讐から解き放ってくれないでしょうか?私にはできないのです。」

「スイは、化け物なんかじゃないです。本当はただ少女なんです。執事さんの方が長く一緒にいるから何言ってんだって思われるかもしれませんが、僕から見たら可愛らしい少女でしたよ。」

それを聞くと執事は少し微笑み。

「そうですね。失礼いたしました。では、改めまして聞きますが、スイ様をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「はい。わかりました。」

「ありがとうございます。」

執事さんは深々と頭を下げた。

その日の夜。僕はいつもの公園へと向かった。


公園の規制線はもう外されており、中には入れるようだった。

ブランコを見るとスイがいた。

「何してるんだ?スイ。」

スイは黙ったままだった。

「なぁ、スイ。執事さんから全部聞いたよ。スイが何で僕のことをお兄ちゃんって呼んでいるかも。」

「え、」

「今までごめんな、スイ。いや、水月。父さんと母さんが僕をおじさんたちのところに預けてくれてたんだってな。それも一歳二歳の頃に。今までごめんな。僕を、こんな不甲斐ない兄を守ってくれて。」

そう言うと、水月は

「そっか。全部聞いたんだ。私達が血が繋がった兄妹だってこと。お兄ちゃんをいじめていた、奴らを殺した本当の理由も、」

「あぁ、全部。なぁ、水月。やり直さないか?」

「やり直すって何を?私は、私は人殺しの化け物なんだよ。もうあいつらと変わんない。人の皮を被ったただの化け物。」

そう言うと、水月は泣き始めた。

「いや、皮を被っていたら、あんな笑顔できない。水月は人間だよ。それに、執事さん。あの人が、今回の犯人だって、今までの犯人だって自首するらしい。止めたけど、あれが私にできる最後のことだってさ。執事さん。本気だったから止められなかったよ。それに続いて今までの団体のメンバーの人たちも水月のことは隠して、全て警察に言うってさ。それでみんなから、最後に水月と、僕には幸せに暮らしてほしいって。」

「そうなんだ。あの人と、パパ、みんなも。ママが言ってたけどいつもみんなして突っ走っていくんだって。本当お兄ちゃんも執事も勝手だよ。それにみんなも。リーダーは私なんだよ。」

しばらく水月が泣き止むのを待った。

水月が空を見上げると綺麗だった。

水月は泣き止みブランコから離れた。

「帰ろっか、お兄ちゃん。」

「そうするか。」

そう立ち上がり手を繋いで元の実家に帰ろうとした時、

後ろから走ってくる音が聞こえた。

振り返ろうとした時、水月が倒れた。

「水月!」

近寄ってみると、水月から血が広がっていた。

「アハ、アハハハハハハハハ!俺は、俺は!間違ってなかったんだ!!」

声の方を見てみると、僕を犯人だと決めつけた、あの警察官がいた。

「見ろ!やっぱりお前らが犯人なんだ!俺は間違ってなかったんだ!!途中からだが、全て録音しておいたぞ!これで、これで俺は警察に戻れるんだ!!」

水月を連れて逃げようとすると、

「おに、いちゃ、ん。にげ、て。」

そう水月が言ったが。僕は水月を抱えて逃げようとしたが、その時腹に激痛が走った。

見てみるとナイフが貫通していた。

「お前も犯罪者だ!逃すわけないよな!!」

僕はその場に倒れ込んでしまった。

水月は

「おにい、ちゃん。」

っと涙を流していた。

僕は水月の手を取り

「だいじょう、ぶ。ひとり、じゃない、よ。」

そこで意識が途絶えた。


気がつくと、お父さんと、お母さんがいた。会ったことはないが、不思議と直感で分かった。

横を見ると水月と手を繋いでいた。

「行こっかお兄ちゃん。」

僕たちは手を繋いでお父さんとお母さんの方に向かい、

「「ただいま」」

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