第43話 新人ちゃんの正体

 放課後、そのまま俺と美月は教室から仲良く岐路へと着き、俺の部屋に集まって新人の初配信までの時間を過ごした。

 夕食は美月が手料理を振舞ってくれて、彼女になってから初めて作ってくれたのは、何とハンバーグ。

 思わず、『ハンバーグ!!』と叫んでしまうほどに美月の作ってくれたハンバーグはデミグラスソースも絶品で涙が出そうなほどおいしかった。


 片づけを終えて、ついにその時を迎える。


 俺と美月は仲良く隣に座り合いながら、テレビ画面で配信画面を開き、新人ちゃんの待機画面を開いて今か今かと待ちわびていた。


「楽しみだね斗真君!」

「うん、そうだね」


 モモちゃんの初めての後輩となるVtuber事務所『フラッシュライフ』からデビューする新人は、一体どんな子なのだろうか?

 先ほど、ビジュアルが先行で公開されたのだが、モモちゃんとはまた違った雰囲気が漂っていて驚いた。


 腰辺りまで伸びた長い銀色の髪に、ひらひらと舞う雪の結晶。

 釣り目がちな目が特徴的で、その眼力は人間の命を吸い取ってしまいそうなほどに威圧感がある。

 衣装は白と水色を基調にした涼しいイメージで、上から下までドレスのような装いとなっていた。

 見た目からはクール系な雰囲気が漂っているものの、果たしてどんな子がデビューするのか、声を聞いてみるまで分からない。


 名前はれいヒカリ。

 雪原の中からVtuber業界にやって来た雪女という設定である。

 ちなみに年齢は1800歳とのこと。


 ――ワクワク。ワクワク

 ――さぁさぁ、一体どんな子がデビューするのだろうか?

 ――久しぶりの新人ちゃんだぁぁ!!!!


 デビューを楽しみにしている『フラッシュライン』推しのリスナーも多くの人が初配信を心待ちにしており、配信前からコメント欄は期待に満ち溢れていて賑わいを見せている。

 既に同時視聴者数も一万人に達しようとしており、期待感の高さが窺えた。

 そしてついに、初配信開始時間である二十時を迎えて、配信画面が切り替わる。


 ――きちゃ!

 ――うぉぉーー!!!

 ――めっちゃクールだ


 声を発する前からコメント欄は期待に満ち溢れている。

 そしてついに、配信から声が聞こえてきた。


「えー皆さん初めましてー。雪の世界からVtuber事務所『フラッシュライフ』に降り立った新人Vtuberのれいヒカリでーす。よろしくお願いしまーす」


 ――思ったより無機質な声だ

 ――ダウナー系って奴か?

 ――でもこのやる気のない感じの声、嫌いじゃない


 リスナーの感触は悪くないと言った様子。


「なんだかすごい気だるげな感じだけど、それが逆に落ち着いてるように見えるね!」

「うん、そうだね……」


 俺はその声を聞いて、既視感を感じてしまっていた。

 ちょっと待って、何か凄く嫌な予感がするのは俺だけか?

 すると、そんな俺の予感は的中することになる。


「えー早速だけど、まず初めに大切なことを説明しておくねー。私にガチ恋することは禁止! 理由は簡単、私には好きな人がいるから」


 ――ファッ!?

 ――悲報、彼氏持ち

 ――俺達のトキメキを返せー!

 ――雪女の好きな人ってもしかして、雪男?


 そして、無機質な表情のまま、背景画像が切り替わり、バトルフェーズみたいな画面に切り替わる。

 画面には、『宣戦布告。桜木モモ!』と書かれているではないか。


「へっ、私!?」


 突然の宣戦布告宣言に、自身を指差しながら驚きを見せる美月。

 俺の冷汗は止まらない。


 ――モモちゃんに宣戦布告ってどういうこと?www

 ――ヤバイ、ついて行けないんだが?

 ――コイツ、ヤベーわ(確信)


 そして、一つ咳払いをしてから、麗ヒカリちゃんはエコーを掛けながら宣言したのだ。


【桜木モモー! お前に宣戦布告する! Tは私のもの! ちょっと優しくされたからって調子に乗るなー! 絶対アンタなんかより、Tは私の虜にさせてみせるんだから覚悟しておけー!】


 そう言って、麗ヒカリちゃんは桜木モモに向かってTさん奪還宣言を言い放ったのである。


 ――ファッ!?

 ――なんだかおもしろくなってきやがった

 ――ちょっと待って、Tって男だったの!?

 ――悲報、モモちゃんが慕っている謎のT氏。男だった件

 ――それより、Tって奴は一体何者なんだよ⁉ こんな可愛い子二人から慕われてるなんて

 ――T許すまじ


 コメント欄が一斉に荒れ始めたのと同時に、モモちゃんまで火種を食らってしまった。

 俺は思わず額に手を当てて天を仰ぐことしか出来ない。


「マジかよ……」


 そして、虚空に呟くようにして俺は大きなため息を吐いた。

 私を構わなきゃいけなくなるってそう言うことだったのかと合点が行く。

 学校を休んでどこへ行っていたのかも、教えてくれなかったのも全部線が繋がってしまった。

 Vtuber事務所『フラッシュライフ』からデビューした新人Vtuber麗ヒカリ。

 その正体は、俺の幼馴染である松島有紗であったのだから……。

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隣に住む学校の『アイドル』に推しVtuberの良さを熱弁したら、中の人であることをカミングアウトしてきて、俺にだけ素の顔で懐くようになったんだが? さばりん @c_sabarin

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