第18話 ダイヤチャレンジ

【こんモモー! 桜の木に実ったモモから生まれた妖精。桜木さくらぎモモだよー!】


 ――きちゃ。

 ――こんモモー! 今日もモモちゃんの配信を待ってたぜ!

 ――やはり俺ぐらいの能力者になると、モモちゃんの配信が始まった瞬間にユーチュー○を開けるのさ


 俺がお風呂を済ませて部屋に戻ると、丁度モモちゃんの配信が始まったところだった。

 あれから部屋に戻って、すぐに配信準備を始めたのだろう。

 三十分もしないうちにサムネイルを作り上げて配信を立ち上げてしまうあたり、流石プロの配信者である。


【今日は、この前配信出来なかっ『マルクラでダイヤ100個耐久チャレンジ』やっていきたいと思いまーす!】


 世界でも人気を博すゲーム『マルンクラフト』通称マルクラ。

 建築や冒険をしたり、はたまたプログラミングコードを組んで自分なりのルールを作ったり、汎用性の高いゲームとして、発売開始から10年以上たった今でも人気を博しているゲームである。

 今回は、モモちゃんが所属するVtuberグループ『フラッシュライフ』のメンバーが自由に遊べるサーバー内で『ダイヤ100個耐久チャレンジ』をするみたいだ。

 ちなみに、マルクラ内でダイヤモンドが出てくる確率は0.09%とかなり低い。

 1000個ブロックを掘って9個出てくれば万々歳という計算。

 それを100個集めるとなると、かなりの時間を要する可能性があるのだ。

 まさに、耐久配信という名の運試しである。


 ――OK

 ――これは、長時間配信の予感……!

 ――モモちゃんはどれぐらいかかるだろうか?

 ――最悪朝までコース

 ――俺は最後まで付き合うよ!


 モモナーの中には、既に長時間配信を覚悟している人も見受けられた。


【それじゃあ早速ゲーム立ち上げていくよ。ちょっと待っててね】


 そう言ってモモちゃんは画面を切り替えて、ゲーム仕様の画面へと切り替えた。


【というわけでジャジャーン! ピッケルを事前に作っておきました! どう? 偉いでしょー!】


 ――流石モモちゃん。用意周到

 ――フラッシュラインの先輩で、木をこるところから始めた猛者がいるらしいですよ

 ――出た、伝説の配信www

 ――これなら、2時間以内に100個集め終わるかな?


【ちゃんとダイヤモンドがが一番出やすい高さも調べておきました! ってことで、早速掘っていきましょう!】


 モモちゃんは事前に準備していた拠点から、早速地表削って地下へと掘り進めていく。

 掘り進めるだけの地味なゲーム画面になってしまうので、マルクラで素材集めをするときは、大半のVtuberが雑談を始めることが多い。

 モモちゃんも例に漏れず、雑談を話し始めた。


【そう言えば、この前は直前で配信お休みしちゃってごめんねー! 急に予定が入っちゃってさ】


 ――平気平気! 

 ――モモちゃんが好きな時に配信すればええんやで


【そう言ってくれてありがと。あの日さ、朝活やってから体調崩しちゃってさ。看病してもらってたの】


 ――ほら、ちゃんと寝ないから

 ――やっぱり、無理しちゃダメって言ったでしょ!(過保護)

 ――看病って、誰か他のライバーさんにしてもらったの?


【次から無理しないよ。うーんとね、リアルの友達にしてもらったんだけど、イニシャルをTと名付けましょう!】


 ――T

 ――TT

 ――T-TTT-!

 ――いやTT○弟やないかーい!

 ――コメント一体感、俺は嫌いじゃないぜ


【TT芸人のことは置いといて、そのTさんに保健室まで連れて行ってもらったの】


 ――Tさんすげぇ

 ――えっ、待って? モモちゃんって学生なの⁉


【あっ、うん! そう言えば言ってなかったっけ?】


 ――衝撃のカミングアウト

 ――もしかして、現役JKって奴ですか?(ゴクリ)

 ――↑やめろ、気持ち悪い

 ――若いっていいな……。(遠い目)


 コメント欄も大分驚いているが、一番驚いているのは俺だと思う。

 だって、今まで実生活のことをほとんど話してこなかったあのモモちゃんが、自ら学生であることをカミングアウトしたのだから。

 一体どういう風の吹き回しだ?

 状況を飲み込めぬ間にも、モモちゃんは雑談を続けた。


【私のことは置いといて! そのTさんなんだけどね、今日もカッコよかったの! 体育の授業がドッチボールだったんだけど、私が転倒して当てられそうになっちゃったのね。そしたらTさんが咄嗟に割って入って来てくれて庇ってくれたの! かっこいいよねー! でもTさん、私を庇った時に手首を捻っちゃったの】


 ――あらら、大丈夫かなTさん?

 ――モモちゃんを危機から守った。Tさんには国民栄誉賞が与えられるべきだ

 ――我々のモモちゃんを守ってくれた勇敢な者

 ――てか普通、ドッチボールで女が女を守るか?


「ちょっと待って、完全に俺の話なんだけど⁉」


 嬉々として楽しそうに今日あった出来事を話すモモちゃん。

 恥ずかしい気持ちもあったけれど、俺は気が気じゃなかった。

 イニシャルでTと隠してはいるものの、万が一Tが男だとバレた場合、最悪炎上案件になりかねないからである。


 既にコメント欄にも、疑い始めているモモナーも見受けられるし……!

 変な寒気が立ち込め、冷や汗が止まらない。

 お風呂に入ったはずなのに、鳥肌が立っていた。

 何もすることが出来ないので、俺は固唾を飲んで配信を見続ける。


【おっ、早速ダイヤモンドゲット! わぁー! しかも8個もある! これは運がいいのでは?】


 すると、運よくモモちゃんがマルクラ内でダイヤモンドを見つけたことで、一旦T(斗真)さんから話題が逸れてくれた。



 ――きちゃ!

 ――おっ、下に掘ってる途中に見付けるとは運がいい

 ――これは、最速RTAもあるのでは?


 コメント欄も、Tさんの話題から頭が離れてくれたようで、今はマルクラのコメントで溢れかえっている。


「ふぅ……」


 俺は思わず、ほっと胸を撫でおろす。

 モモちゃんの配信を見ていて、こんなにも臓に悪いと思ったのは初めてだ。

 ホラゲーでもこんなに心臓がバクバクしたことはない気がする。


【あっ、みんなちょっと待ってて。一回お花摘み行ってくる!】


 ――はーい

 ――いってらっしゃーい


 すると、モモちゃんはお花摘みに行くため、一旦離席して配信画面からいなくなる。

 画面内には、モモちゃんがプレイしているマルクラ内の画面だけが映し出されていた。


 ――よっしゃみんなチャンスだ! モモちゃんへの愛を囁け!

 ――モモちゃん、愛してる!

 ――モモちゃん、大好き!

 ――結婚しよう!


 モモちゃんが離席したのをいいことに、気づかれていないうちにモモナーのみんなが内に秘めている愛の言葉を呟き始めた。

 これもまた、Vtuberの配信では恒例行事みたいなものである。


 ピンポーン。


 とそこで、俺の家のインターフォンが鳴り響く。


「えっ……?」


 何か、凄く嫌な予感がする。

 俺が恐る恐るインターフォンのカメラを起動させると、玄関前に立っていたのは、配信中のはずである寺花さんだった。

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