第11話 内緒のやりとり

 どうしてこうなってしまったのだろうか。

 授業中、俺は黒板に板書されたものをノートに書き写していくものの、内容は全く頭に入ってこなかった。

 何故なら、俺の両隣から感じる二つの視線があるから。


 左からは寺花さんからの意味深な視線が向けられていて、右からは有紗の鋭い視線が突き刺さる。

 俺に対して何か言いたそうな感じで、お互い様子を窺っているような感じた。


 正直言って、肩身が狭い。

 隣にいるのが推しのモモちゃんであるというだけでも気が気じゃないのに、有紗からの視線で恐怖心倍増である。


 すると、こちらを見つめるタイミングが運悪く重なり、二人の視線が交わった。

 刹那、火花のようなバチバチとした視線が俺を挟んで両隣から突き刺さる。


 頼むから俺を挟んで喧嘩するのだけは止めてくれ!!

 そんな願いが叶ったのか、二人はすっと視線を前に逸らしてくれた。

 張り詰めていた緊張感がほどけて、俺はほっと胸をなでおろす。


 俺はノートを書き写すことに集中して、何とか気を紛らわせようと努めていく。


 そんな時、トントンと左の肩を突かれるような感触がした。

 ちらりと左へ目線を向けると、寺花さんがそっとこちらへ何やら紙切れのようなものを手渡してきているではないか。

 俺は思わず息を呑み、周りと右隣の有紗が気づいていないことを確認してから、そっと寺花さんから紙切れを受け取った。


 受け取る際、わずかに寺花さんの指先に触れてしまったような気がしたけど、俺は気にしないようにして寺花さんから受け取った紙切れをこっそり机の下で開く。

 するとそこには――


【今日のお昼、家庭科室で一緒にご飯食べない?】


 と、にわかに信じがたいメッセージが書かれていた。


 俺が思わず寺花さんを見つめ返すと、彼女はコテンと首を傾げ、甘えるような視線を向けてきている。

 そんな可愛らしい仕草に、胸がキュンっと縮まった。

 俺は咄嗟に手紙へ視線を戻して、寺花さんから受け取った紙切れに返事を書き込んでいく。


【急にどうしたの? 何かあった?】


 俺がそう返事を書いて他の生徒に気付かれぬよう、寺花さんの元へ手を伸ばす。

 紙切れを受け取って返信の内容を確認すると、すぐさま再びペンを走らせて書き込み始める寺花さん。

 ほどなくして、再度寺花さんが俺へ紙切れを折りたたんで手渡してくる。

 再び受け取った俺は、恐る恐る折りたたまれた紙切れを開くと、今度は――


【ちょっと息抜きしたくなっちゃって、ダメかな?】


 という旨の内容が書かれていた。

 俺は思わず、寺花さんの方を見つめてしまう。

 寺花さんは瞬きをしながら、『ダメかな?』とアイコンタクトを取ってくる。

 その仕草を見て、俺はすぐさま机に向き直り、寺花さんへ返事を返す。


【もちろんいいよ】


 返事を書いて寺花さんに手渡すと、彼女はその返事を見て嬉しそうに口角を上げて微笑んでいる。


 寺花さんが俺のことを頼ってくれた。

 その事実だけが嬉しくて、つい俺の頬も緩んでしまう。

 寺花さんが少しでも俺のことを信頼してくれているのなら、その期待に応えてあげるというのが、二人だけの秘密を知っている仲である以上、俺がやるべきことであると思っていた。


 途中、有紗が訝しむような視線を送ってきたものの、今の俺は全く気にならない。

 こうして、俺はワクワクとドキドキが入り混じったまま、午前中の授業を木青で乗り切った。

 そして、迎えた昼休み――

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