魔法少女ジャスミン☆ティー・爆誕

寿甘

その名はジャスミン

「いっくよー! 茉莉花まつりかフラッシュ!」


 少女が手にした可愛らしいステッキから、白い光が放たれる。ステッキの先端にあしらわれた小さな白い花と同じ色の光だ!


「うおっ、眩し!」


 眩しい! 眩しすぎる!! 対峙していた大人の男が、周囲で戦いの様子を見守っていた野次馬達が、あまりの眩しさに目を瞑った!


 激しい光で白く塗り潰された世界の中、フリルのあしらわれたドレススカートをはためかせながら、少女が走る!


 そして――


「とおっ!」


 可愛らしい掛け声と共に……少女が地を蹴り、飛び上がったーーっ!


 小さな身体が一直線に伸びる! その姿はさながら那須与一の弓から放たれた一本の鏑矢だ!


 そのまま最短距離で男の顔面に二つの足裏が突き刺さるーーー!!


 決まった! 見事なドロップキックが炸裂したあああっっ!! これには男もたまらずノックダウーーン!


(それが魔法少女の必殺技なの!?)


(あぁん? なんぞ文句があるんか!? どっからどう見ても完璧な魔法少女じゃろがい!)


 少女の脳内で二つの声が会話している。気弱そうな少年の高音と、ドスの効いた男性の低音、二人分の男の声だ。


「ぎゃああああ!」


「おおっ、眩しくて見えないけど魔法少女がおっさんに勝ったぞ!」


 悲鳴を上げて倒れる男の声を聞き、野次馬達は少女の勝利を知る。


「ジャスミン大勝利! ぶいっ!」


 ジャスミンと名乗る少女はピースサインを野次馬に向けると、踵を返して走りだす。


(ズラかるぞっ!)


(なんで!?)


(アホか、ここにいたら暴行の現行犯で逮捕されるじゃろがい!)


(確かに!)


「なんだったんだ、あれ……?」


 長いツインテールを揺らし、あっという間に走り去っていく少女の姿を、野次馬達は呆気に取られた様子で見送る。そもそもなんで少女がおっさんと戦っていたのか、その理由を知る者はいない。




――数時間前。


 思いつめた顔をして道を歩く少年がいた。彼の名は有馬竜也ありまたつや。女の子と見紛う可愛らしい顔立ちをしている、華奢な体つきの中学二年生だ。


 彼は悩んでいた。いじめというほどではないが、毎日のようにその容姿を同級生にからかわれるのだ。


「男らしくなりたいなあ……」


 誰にともなく呟く。彼の頭の中には、テレビの中で変身ヒーローがカッコよく敵の怪人を倒す映像が流れている。男の子として、自分も正義のヒーローみたいになりたい気持ちが強くあった。

 中二にしてはちょっと幼い願望だが、ずっと可愛い可愛いと言われ続けた竜也には、ヒーロー的なカッコよさは永遠の憧れなのだ。


「呼んだか、あんちゃん!」


 突然、背後からドスの効いた男の声に話しかけられた。恐る恐る振り返ると、そこには……筋肉隆々! 角刈り! グラサン! ブラックスーツ!! の、どこからどう見てもその筋のお兄さんが立っていた。身長は二メートル近い! 生命の危険を感じた竜也、走って逃げるか話を聞くか、刹那の判断を迫られる!


「な、なんですか?」


 おーっと、話を聞いてしまったーー!!


「男らしくなりたいって言ったじゃろ!」


「あ、はい。言いました」


 どうやら竜也の呟きに反応したらしいぞ! どちらかというとヒーローに倒される側の人間にしか見えないが、少なくとも男らしいのは間違いない!


 この人が自分を鍛えてくれるのだろうか、と淡い期待を持った竜也は、このあからさまに怪しい男の話を聞いてしまう。これは明らかに判断ミスだーーっ!


「ならこれじゃ!」


 そう言って、男は懐から何かを取り出した。それは、小さな白い花があしらわれた可愛らしい魔法のステッキ! おっと意外な展開。


「……これは?」


 竜也の考える男らしさとは真逆の存在が、怖いお兄さんの懐から取り出されたことに若干混乱している。これは当然、どう見てもヤのつく自由業の男がオモチャのような可愛らしいステッキを手に持つ姿は不気味! 不気味以外の何ものでもない!


「魔法のステッキじゃ。これであんちゃんも立派な魔法少女になれるぞ」


「え、いや、僕はカッコいい変身ヒーローになりたいなー、なんて……」


 突然の魔法少女! どこに男らしい要素があるのか!?


「あ゛ぁん!?」


「ひぃっ! ごめんなさい!!」


 大男に凄まれて泣きそうになる竜也。理不尽! 圧倒的理不尽!!


 もう何でもいいからとっとと家に帰りたいと思うが、もう手遅れである。声をかけられた瞬間に走って逃げるべきだった!


「まあまあ、騙されたと思ってこれを持ちんしゃい。ちゃーんと男らしくしてやるさかいに」


 口角を上げて笑顔を作り(グラサンなので目は見えない)、なんだか怪しい言葉づかいで竜也に魔法のステッキを渡そうとする男。胡散臭い! どうあがいても胡散臭い!


「でも、魔法少女って言いましたよね?」


「あ゛ぁん!?」


「ひぃっ! ごめんなさいごめんなさい!!」


 有無を言わさぬ迫力! 竜也は怖いお兄さんに脅され、魔法のステッキを手に握ってしまった!


『契約完了っ☆』


 すると、手にしたステッキから女の子の声が響く。次の瞬間、竜也の視界は暗転したーー!!


「ふーははははー! ついに! 念願の! 魔法少女になれるんじゃーー!!」


 遠くなる意識の向こうで、よく分からない歓喜の声が聞こえる。


(魔法少女になるのは僕じゃないの……?)



 目覚めた時、竜也の前に男はいなかった。


「あれ、どうなったの? って……ええっ!?」


 声を出して、すぐ異変に気付いた。自分の口から発した声は、先ほどステッキから聞こえた女の子の声そのものだったのだ!


(そこに鏡があるじゃろ。見んしゃい)


 頭の中に響く、先ほどの男の声。わけもわからず、言われるままに近くにあった大きな鏡に自分の姿を映し出す。


「なにこれ!?」


 そこにいたのは、ピンクのフリフリドレスを着たツインテールの少女。髪の毛は薄ピンクだ。顔立ちは元の竜也に近いが、元から女の子のような顔をしていたので違和感はない。むしろこの格好になるために生まれてきたかのような安定感! でもクラスのみんなには内緒だよっ!


(ワシと合体して魔法少女ジャスミン☆ティーに変身したのじゃ)


「合体!?」


 竜也、驚愕! どうしてアレと合体してコレになるのか、まるで理解できない!  私も理解できませーん!!


 何もかもが謎だが、竜也にはもっと重要な関心事があった!


 自分は魔法少女になったという。ならば、このスカートの下には――


 ドキドキしながら、そこに手を伸ばす。女の子みたいな顔をしていても、れっきとした中学二年生の男の子だ! スカートの中に広がるワンダーランドには大変興味があるぞ! 当然! あまりにも当然!


 スカートの上から、股間に手を当てる。


 フニッ。


「……ある」


 そう、そこには予想に反して立派な象さんが!


 しかも…………デカァァァイ! 確実に二倍、いや三倍はある!!(当社比)


 ふんわりとしたドレススカートは、巨大なモノを隠すためのカモフラージュだった!


(ワッハッハ、どうじゃあんちゃん、ちゃーんと男らしくなっとるじゃろ。ワシの漢パゥワーをそこに注ぎ込んだからのう!)


「そ……そ……」


(そ?)


「そこじゃなああああい!!」


 町に可愛らしい少女(?)の悲痛な叫びがこだまするのだった。

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魔法少女ジャスミン☆ティー・爆誕 寿甘 @aderans

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