学級閉殺の季節

椎菜田くと

学級閉殺の季節

「なあなあ、聞いたか?」

「なにを?」

「となりのクラスでも十人くらい出たんだってさ」

「だから、なにが?」

「もう、にぶいなあ。いま流行ってるだろ? インフルだよ、インフル」

「あ、そっか。うちのクラスは平気だからわからなかったよ」

「バカばっかりだからな、うちは。おれが一番だけど」

「バカはカゼ引かないってことね──って、笑いごとじゃないと思うけど」

「気にすんなって。それでな、ちょっと職員室をのぞきに行ったんだけど、先生たちがかなりマジな感じで話し合ってたんだ」

「マジな感じ? 真剣に、ってこと?」

「もうこの世の終わり、みたいな顔だったぜ」

「そんなにすごかったんだ。なにを話してるんだろうね」

「そりゃあもちろん、学級閉鎖だろ。ほかのクラスでもけっこう出てるらしいから、学年閉鎖、いや、学校閉鎖まであるかもしれないな」

「ふうん……」

「うれしくないのか? 休みになるんだぜ?」

「不謹慎かなって。それに、埋め合わせで冬休みが短くなるかもしれないしね」

「心配性だな。おっ、先生が来たぞ──って、なんだありゃ。宇宙飛行士か?」

「違うよ。食品加工工場の人だよ、きっと」

「あんなごっついヘルメットみたいなのかぶんないだろ」

「そうだね。あっ、教壇に立って話しはじめるみたいだよ」

「えー、おはようございます。突然ですが、この学校は今日、学校閉殺することになりました」

「がっこうへいさつ?」

「へいさ、じゃないのかな?」

「この学校で大勢の感染者が出ましたので、感染拡大を防ぐために関係者を含めて処分するということです。まあ簡単に言えば、きみたちには死んでもらいます」

「……はあ? なに言ってんだ、このおっさん?」

「ねえ、先生呼んでこようよ。不審者のおじさんだよ、きっと」

「わたしは保健所の者です。怪しい者ではありません。あと、先生方はひと足先に処分されましたので、職員室に行っても生きている先生はいませんよ」

「なんかヤバそうだ。おれ、先生呼んでくるわ──あれ? ドアが開かないぞ」

「窓もダメ。閉じ込められたみたい」

「安心してください。眠ってるあいだに終わりますからね。まったく痛くもかゆくもありませんよ」

「なんだ、この煙は。やべえ、ねむくなってきた……」

「やだよ……助けて、パパ、ママ……」

「心配はいりません。お父さん、お母さんも。お兄ちゃん、お姉ちゃんも。妹ちゃん、弟ちゃんも。みんな天国で会えますからねー」

「もう、ムリ……」

「パパ……マ、マ……」

「────これでよし、と」

「よう、こっちも終わったみてえだな」

「そっちは?」

「終わってる。ここで最後だ」

「生徒たちの家族は?」

「別の班が行ってる」

「それじゃあ、ひと息つけるな」

「ああ。いまの時期は忙しすぎるんだよ」

「流行の季節だからなあ」

「おまえんとこでも出たんだって?」

「ご近所さんがね。三日ぶりに帰ったらマンションはガラガラさ。うちの嫁と息子も処分されてたよ。出張でいなかったサラリーマンくらいしか残ってなかった」

「ふうん。そりゃついてなかったな」

「まあね。休憩が終わったら次はどこだっけ?」

「えーっと──養鶏場だな」

「初心に帰る、といったところか」

「そうだな。感染拡大は防がないといけない」

「そのためにどれだけの命を奪おうとも」

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学級閉殺の季節 椎菜田くと @takuto417

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