第5話 廃墟へ突入!

子ども用の四輪モトクロスバギーで、その廃墟までたどり着いた。

それは楽しかったが、着いた時はもう辺りは真っ暗になっていた。


予想以上に時間が掛かってしまった。


カメラを持った由貴人は、闇の中で叫んだ。

「ぼくは帰りたい!」


鬼姫は由貴人の頭を撫でながら

「由貴人はさぁ女の子を置いて、1人だけ帰れるの?」

「問題ない、帰れる」

「そんな事をしたら、男気喪失の罪でお尻ぺんぺんの刑が執行されるよ」

「そんなのパワハラだ。コンプラ的に許される行為じゃない!」

「コンプラ?それはね小学までの話。

特に修羅中はね、なんでも許される無法地帯の修羅中なのよ」

「!」

「無事卒業できる保証など、どこにもないのよ!」


絵馬が素早く

「大丈夫、由貴人はわたしが守るから!」

「絵馬ちゃん、大好き」


「はあ」鬼姫はため息をつくと

「そんなんだから、由貴人はこんな弱っちいんだよ」


総帥は、

「しかし帰るったって、どうやって?」

「・・・」



動画配信部は今、バブル期に建てられた巨大なリゾート施設の廃墟の中で迷子なっていた。


辺りは完全に暗闇が侵食していた。

野生化した観葉植物が、ここが廃墟だと改めて感じさせた。


「何か煙草の匂いがしません?」

リスような絵馬が歩き出したので、他3名も続いた。

絵馬は階段を地下に降り始めた。


「絵馬ちゃんあぶないよ」

由貴人が声を掛け、絵馬が、

「大丈夫だよ」


絵馬が歩を進めるので、仕方なく由貴人も歩を進めた。



暗闇の地下空間に普通じゃない扉があった。


「巨大金庫か?」

「核シェルターか?」

総帥と鬼姫が言った。


扉の隙間から煙草の匂いが漂ってきた。


「行って見る?」

「もちろん」

総帥と鬼姫は、由貴人の身体を引き寄せた。


「ぼくを盾にする気ですか!」

「慎ましい女は三歩下がって歩くもんだ」

「慎ましい女が後輩を盾にするんですか!」

「とりあえずカメラはちゃんと構える」

「あっはい」


2人の女子に、がっちりと掴まえられており、逃げられない様になっていた。

由貴人のすぐ後ろに、絵馬がいた。

一応絵馬を守る陣形らしい。


「幼馴染も守れないのかい?君は」

と鬼姫に言われ、絵馬をチラッと見た後、仕方なく由貴人は歩き出した。


少し歩いたら奥の方に灯りが見えた。

真っ赤な赤い灯りだ。

その横にテントが張ってある。


「誰だ!」

大人の男の声がホールに響き、由貴人の背後で2本の警棒を伸ばす「シャキーシャキー」と音がした。鬼姫のだ。


「あの、あの」

由貴人が焦っていると、総帥が撮影用の照明を付けた。


テントと煙草を吸う老人が光に照らされ総帥が、

「我々は中学の部活の動画配信部の者です。

ここに人が住んでるらしいとの噂を聞いて取材に来ました」


「部活の動画配信部?ほお」

カメラの前の老人は、バブル期を思わせる肩パットの入ったスーツを着ていた。


「なぜこんな所に住んでいるんですか?」

「まあ座れや」

とすすめられて、由貴人を盾にした陣形のまま座った。


「コーヒーはいるかい?」

床には箱買いしたであろう缶コーヒーの段ボールが置いてあった。


「ええありがたく」

総帥の言葉に、3人は缶コーヒーを段ボールから、抜き取った。

中からボトル缶のコーヒーが出てきた。

全てブラックコーヒーの苦いコーヒーだった。


「ちょっと苦いね」

「ちょっと苦いね」

1年の2人は囁き合った。


老人はちょっと微笑むと、

「わたしは昔、ここのオーナーだった。

あの頃は、わたしの青春だった。素晴らしい時代だった。

でもなバブルが崩壊して、何もかも失った。

遠い昔の話だが、わたしにとっては忘れることが出来ない栄光の時代だ」


見渡すと完全な廃墟だが、建物の大きさから、巨大なリゾート施設だったのは理解できる。


「だからこの栄光の場所で死にたいと思ってな」

「死に場所探し、中2病かよ」

中2の鬼姫がツッコんだ。老人は、

「まあそうだな。余命が幾ばくもないと解ると、そんな気分にもなる」

「もうすぐ死ぬ?」

「ああ、そうだ。だからそっとしておいて欲しい」


   

つづく   

       


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