第3話 プリンセス等活地獄
あわわわ!
私は道場で一応、
……阿比須真拳。
この街、
行き場の無い社会不適合者が集まって出来た街。
まあ、江戸時代の話なんだけど。
私の御先祖は、そんな彼らを真人間に更生させるため、彼らに暴の力で負けないために拳法を編み出した。
それが「阿比須真拳」
素手で武器を持った相手に勝つために作られた拳法だ。
そういう人たちは、自分より弱い人間の言うことを聞かないから、しょうがないんだ。
そしてご先祖は、ここの住民に、他の集落の住民から殲滅されない程度の社会性を身に付けさせた……らしい。
私のお父さんはその伝承者。
私も一人娘だから、稽古は付けて貰ってるんだけど……
正直、自信ない。
体育の成績は5なんだけどね。
って……
迫って来る自動車妖魔獣のスピードが、ゆっくりに見える……!
これは……!
「プリンセスは死に際の集中力を任意で発動できる」
私の横からバキの言葉。
そっか……そうなんだ……!
これが……達人の世界。
私は余裕をもって地を蹴り、跳躍して妖魔獣の突撃を回避した。
その際に、すれ違いざま私は聞いてしまう。
「俺は課長に出世出来たんだー飲酒運転がばれるとまずいんだー」
……これは?
「妖魔獣の鳴き声は、自分が殺人を決断するに至った理由の垂れ流しなんだ。耳を貸して、よく聞いてごらん」
バキがそう、私に教えてくれる。
妖魔獣は私を轢き殺し損ねたから。
だいぶ向こうでまたターンして、私に向かってまた突っ込んでくる。
……耳を澄ませた。
「俺は死ぬほど頑張って、やっと課長になったんだーそのお祝いでホンの少し飲んだだけなんだー」
「焼酎を5杯、ウイスキーを6杯、ワインをフルボトルで3本空けただけで飲酒運転なんてあんまりだー」
「こんな状態で事故を起こしたら、俺の人生終わってしまうー逃げるしか無いんだー」
……そっか。
そういうことだったんだ。
だから私は
「何も仕方ないわけ無いでしょッッ!」
……一喝した。
その瞬間。
妖魔獣はブレーキを掛け。
私の目の前に停車する。
私は続けた。
「事故を起こしたら人生終わると思ったなら、乗っちゃダメじゃん! それなのにそれで事故を起こして、見つかるのがダメだからって、車に挟まった被害者を3キロも引き摺るなんて!」
そして大きく息を吸い、指を突き付け、キメる。
「私で無かったら死んでるよッ! 最低ッ! 大人の態度じゃ無いよッ! 反省してッ!」
すると……
「ウ……ウルサイ……! 税金も払ってナイ子供に何が分かル……!」
妖魔獣のエンジン音が高まり。
そして
「ぶっ殺してヤルあああああ!」
……猛スピードで突っ込んで来た。
前よりも遥かに速い!
殺意が溢れてる!
「漲る殺意……妖魔獣の他責思考が表面化してる……今が浄化のチャンスだ!」
私は妖魔獣の突撃をミリ単位で躱しながら、バキのそのアドバイスを聞いた。
……浄化?
「妖魔獣は、人殺しが殺人を決意したときに発生する他責思考を依り代にして誕生するんだ。つまり……」
つまり……?
「今、妖魔獣を抹殺すると、妖魔獣そのものを倒すことが出来る!」
そうなんだ!
でも……
「そうなると、妖魔獣にされた人はどうなるの?」
私の最後の疑問。すると
「大丈夫だ。その状態でどうブッ殺しても、死ぬのは妖魔獣だけ。死体が消えた後に素体になった人間が残るよ!」
……分かった!
任せて!
私は月を背後に高く跳躍し、そして
「プリンセス等活地獄!」
……掲げた私の右の手刀に八大地獄のひとつ「等活地獄」の力が漲る。
お父さんがビールを飲むときに、瓶切りをやって鍛えてきた私の右手……
全然自信無いけど、シックスプリンセスになった今なら、やれる気がする……!
標的は、迫る自動車……妖魔獣!
振り下ろす。
黒いエネルギーの刃が迸り、正面から妖魔獣を両断した!
アアアアアーッ!
妖魔獣のセンターラインを走る一本の線。
そして
私は着地する。
そんな私の背後で。
爆発音が2つした。
着地の姿勢のまま佇む私の傍に、バキが舞い降りて
「見事だ。ヘルプリンセス」
そんなバキの言葉に、私は頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます