第14話 新しい学校へ通い始めました

 お母さんの即断即決で、家族総出でお出かけしたお家選びは終わってしまいました。


 こういう所がお母さんの凄い所ですよね。3000万円以上の買い物なのに、あっという間に決めちゃいました。


「悩んでいたって時間の無駄よ? 買うお金があるんだから、一番良いと思った所を選べば良いの。あとは、住んでみないと判らないわ」


 私では無理ですね、ずっと悩み続ける自信があります。


 そもそも、その住んでみたらって言う所が問題だと思うのですが、その後は引っ越し屋さんへ電話して3月に引っ越しする話を決めて、電気屋さんで新しい家電を決めてと精力的に動いていました。お母さんが!


 で、その間にお父さんが何をしていたかと言うと、車を買っていました。この頃に流行っていたファミリーバンと言うのでしょうか? 込々で300万円くらいなのかな? どうやらお父さんはもっと良い車を欲しがったみたいですが、購入した今は来るのを待ちわびているみたいです。


 よかったですね。


 そして、気が付けばあっという間に3月となり、間もなく引っ越しです。


 私とお姉ちゃんは、4月からの転校の手続きでバタバタしています。まあ、同じ名古屋市内ですから、友達に会おうと思えば会えるのですが、それでも寂しいですね。

 特になっちゃんは前世含めての幼馴染で、それこそ同じ中学校へ進学して、社会人になってからも一応繋がりがありました。その為、一層別れ辛いです。


 まあ、なっちゃんが結婚してからは一気に疎遠になっちゃいましたけどね。


「お姉ちゃんはあっさりしてるね」


「ん? ああ、学校?」


 私が、小学校の友達達が書いてくれたメッセージ帳を見ていると、お姉ちゃんが部屋に戻って来ました。そこで、お姉ちゃんに今回の引っ越しを実際はどう思っているのか聞いてみようと思います。


「うん、友達とかいっぱいいたよね?」


 同じ中学校に一緒に通ったわけでは無いので、実際の所は判りません。ただ、人気者だったと思うんですよね? ラブレターも貰ったりしてたみたいですし、そこそこモテてたと思います。


「引っ越ししても続く子は続くと思うよ? 美和ちゃんとかは中学に入ってからは同じクラスになってないけど、未だに一緒に遊ぶし、智花は普通に遊びに来るでしょ。あと、美穂とは今度行く塾も一緒になったし、そもそも、高校は一緒になる予定だからね」


「あ、そっか。高校は同じところに行くの?」


「うん、お互いに受かればだけどね」


 なるほど。運が良ければ2年後には再び同じ学校に通う事が出来るのか。そう考えればクラスが分かれたような感覚に近いのかもしれない。ただ、そう言いながらも中学生活の途中で転校は色々と大変だと思う。


「お姉ちゃん、何かあったら相談してね? 私も相談するから」


「ん? 日和は新しい学校が不安なのかな?」


 流石に中身はトータル40歳を超えている私だ。だから問題無いと言えば問題無いんだけど、ここは素直に頷いておく。すると、お姉ちゃんは私の頭をワシャワシャしてくる。


「新しい家だと部屋は別々になるけどさ、寂しくなったら一緒に寝てあげるから。大丈夫だよ」


「う、うん、ありがとう」


 まだ12歳の子供に慰められるのはどうかと思うけど、4月からはお姉ちゃんの変化には特に注意しておくことにしよう。いくら成績が良いからと言って、やっぱり受験とかはすごいプレッシャーだからね。


「ところで日和さん」


「ん? なあに?」


 お姉ちゃんは、突然話し方を変えズリズリと近づいて来た。


「その寄せ書きを、ちょっとお姉ちゃんに見せてごらん?」


「ん? 何で?」


 意味が解らず素直にお姉ちゃんに手帳を渡す。お姉ちゃんはページをパラパラ捲って内容を流し読みしている。


「残念、告白めいたものは無かったわ」


「ある訳ないじゃん! 酷い!」


 お姉ちゃんには、まだ5年生だからというのは言い訳にしかならないんですよね。


 何故なら、お姉ちゃんはその頃から普通にラブレターを貰っていたのを知っています。ただ、私のような凡人はラブレターなど貰った経験など皆無なんですよ!


 同じ親から生まれて、なぜ此処まで差がついたのでしょうか? 解せぬ!


 そして、忘れていた訳じゃないのですが、お母さんは1月に入って早々に横浜でもあっさりとマンションを購入してきました。いやもう、その決断力に吃驚です。


 そうなんです。例の確定申告対策のマンションです。


 ある程度人口密集地帯で、人の繋がりが密じゃ無くて、東京などよりは価格が安い。あとはマンションの入り口がオートロックになっていて、誰かれ構わずマンションに入って来れない。郵便受けなども勝手に覗けない。基準が思いっきり普通じゃ無かったんですが、それこそあっさりと決めて来ました。


「中古マンションだったけど築はまだ7年だったわ。その割にはしっかりした作りだったの。それに、不動産屋さんがそれとなく言ってたけど、何か有名人も住んでるみたいよ? 良いカモフラージュになってくれないかしら?」


 お母さんが思いっきり黒いです。ただ、お値段は驚異の6000万円。


「こっちのお家の倍だよ!」


「まあ、場所的な物もあるんでしょうけど、見て回るだけの時間も無かったから」


 この数か月でお母さんが使った金額は、若しかして1億円を超えるんじゃないでしょうか? お母さんの金銭感覚が壊れてしまっていないか心配になります。


「あちらは必要最低限の家電や家具を入れただけだから。一応は、何があるか判らないから住めるようにはしておいたけどね」


 私だと此処まで簡単に決断することは出来なかったと思うだけに、もしかするとお姉ちゃんはお母さん似なのかもしれないと思い始める。


 あれ? よ~く考えると、もしかすると私の方がお父さんに似てる?


 あまりの発見に、私は呆然としてしまいました。


 そして、4月、新しい学校へ通学です。今まで通っていた英会話教室も、勉強の為の塾も辞めちゃったので、同じクラスの子達に良い所を聞かないといけません。小学校5年生ともなると、そろそろ判らないというか、忘れてしまった問題とかも出て来るんですよね。


「あれ? こんなの習ったっけ?」


 みたいな感じです。


 そして、新しい小学校では、まず職員室に向かいます。ここで担任の先生と顔を合わせて一緒に教室へと向かうのです。


「鈴木さんはちょっとこっちで待っててくれるかな」


 先日、顔合わせした担任の渡邊先生です。うん、まだ30歳前後くらいかな? 優しそうな女性の先生です。若いですね。ついついそんな感想を持ってしまいます。


 あと、私以外にも何人か子供がいます。事前に聞いていたのですが、我が家と同じマンションに引っ越しして来た子達ですね。ただ、5年生は私だけみたいです。中には私より大柄な子もいるけど6年生かな?


「通学は分団登校になるからね。あとで同じ分団になる子のリストを渡しますから、鈴木さんよろしくね」


 何と! 聞いている限りだと同じマンションの子だけでの分団となるみたいです。何でどこかの分団と合同にならないのか首を傾げます。まあ、そこは後で確認しましょう。今職員室にいる子供だけで7人ですか、何処かと一緒にさせるには確かに微妙な人数ですね。


 それにしても、此処からは前世で未経験の事ばかりになります。


 この小学校では知っている人など皆無なので、どんな所に気をつけないといけないかとか判りません。その為、第一印象が頼りなのですが、何方かと言うと人付き合いが下手な私ですから心配です。相手が小学生と言えどなのです。


 これから向かうクラスは、4年生からの繰り上がりではなくクラス替えをした5年生からの新しいクラスだという事です。ただ、結局は誰も知っている子が居ないなど有り得ないと思うので、やはり何方かと言えばアウェーになっちゃいますよね。


 そして教室にやってくると、廊下に待たされるのかと思ったら先生に案内されて一緒に教室に入りました。


 うん、ちょっとザワザワしていますね。そして、みんなの視線が私に注がれています。


「はい、みんな静かにしてください。今日から新しくクラスメイトになる鈴木さんです。色々と判らない事があると思うので、教えてあげてくださいね。鈴木さん、自己紹介してね」


 先生に促されて前に立ちます。そして、ぺこりとお辞儀をして挨拶をしました。


「転校してきました鈴木日和です。学校の事、授業の事など色々と教えていただければと思います。宜しくお願いします」


 端的に挨拶をして、再度ぺこりとお辞儀をしました。挨拶は簡単な方が良いですよね? そもそも、笑いを取るなどといった器用な事は私には出来ませんから。


 そして、ホームルームが終わったら始業式です。そのまま廊下で男女2列に並んで移動です。ここで、私の前に並んだ子が、振り向いて話しかけて来ました。


「鈴木さんは何処から引っ越ししてきたの?」


「え? あ、北区だよ。今度こっちに家を買ったから引っ越ししてきたの」


「あ、名古屋市内だったんだ」


「ねえねえ、引っ越しって、新しく出来たあの大きなマンション?」


「新しく出来たって言うのがどのマンションを指すのか判んないけど、3月に完成した所」


 前の子と話をしていたら、今度は隣に並んだ男の子が話しかけて来ます。


「駅に近いとこでしょ? あそこ綺麗だよね。今度遊びに行ってもいい?」


「え? う、うん。問題無いけど」


 何でしょうか? 知り合って早々に遊びに来る気です? 有り得なくないですか? ただ、私がそう言うと他の子も行きたいと言い出しました。


「皆さん静かに! ちゃんと2列に並びなさい! そこ、うるさいですよ!」


 あう、早々に怒られてしまいました。


そして、みんな並んで運動場へと移動が始まりました。ただ、これでとりあえず誰とも話すことなく帰宅と言う事は無くなりましたね。

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