32 桜 3




桜の樹には葉が茂っていた。


真夏の光を一身に受けている。

光が樹に栄養を与え樹は命を放出する。


その樹の根元に狐の子がいた。


「まわりの大きい草とかぬけばいいの?

風通し、ってこと?

冬は草をあつめてあたためて、それでリンゴの木と仲良くするんだね。」


狐の子は桜を見上げて言った。


「おじいちゃんがくれたリンゴが本当に美味しかったもん。

また食べたいんだ。

だからリンゴの木と友達になるよ。

甘い実をつけてねってお願いする。」


狐の子はぴょんと跳ねた。


「でももうおじいちゃんじゃないね、お兄ちゃんだ。

それでいつこの子生まれるの?」


爽やかな風が静かに吹き、

草がこすれてさざ波のような音を立てた。


「うん、ぼく、この子と友達になるよ。

お姉ちゃん、もうすぐだろ?楽しみだな、ぼく。」


狐の子は桜を見た。


「また来るからね。

お兄ちゃん、お姉ちゃん、またね。」


と言うと狐の子は走って行った。




桜の樹は立っている。


堂々と枝を広げて。







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桜色の樹 ましさかはぶ子 @soranamu

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