13 企み



「ねえ、どうちん。」


高級マンションのペントハウスだ。

外には明るい街並みが見える。


ベットにごろりと全裸で横たわっている橈米どうまいに、

すらりとした美女がシャンパングラスを持って近寄って来た。

愛雷あいらだ。


「この前さ、地味ーな服屋さんに行ったでしょ?

あの時何か言ってた?」

「あ、ああ?」


少しうつろな目で橈米が彼女を見た。


「なんだよ、愛雷。」

「あきふみとか言ってたじゃない。甥っ子さんなんでしょ。」


愛雷は寝転がっている橈米の上にまたがった。

そしてシャンパンを口移しで橈米に与える。

彼は彼女の腰に手を添えた。


「彬史か、俺達の前に来ていたみたいだ。

女連れだな。」

「女?」

「気配があった。でもあの店は普通じゃないからな、適当な女は入れん。

多分付き合ってるんだ。」

「でもあたしは入れたじゃない。」

「お前は俺の女だからな。」


と橈米が愛雷の下でにやにやと笑った。


「じゃあその女はあきふみの女?」

「多分な。

呑気に女なんか作りやがって、クソ生意気なガキだ。

いつか殺してやる。」

「殺すって、ああ怖い。」


愛雷は妖艶に笑って橈米を見下ろした。


「あいつが俺を追い出したんだ。偉そうに三五さんごのトップに居やがる。」

「お金には困ってないでしょ?

このマンションだって橈ちんのものだし。

他にもあるから家賃収入すごいじゃない。」


彼女はぐるりと腰を回す。

すると橈米は呻いた。


「足らねえよ、俺は三五で好きにやりたいんだよ。

物の怪もぶち殺したい。だがあいつはそれは駄目だと。

聖域とか訳の分からんもの作りやがって。

物の怪なんか見たら潰せば良いんだ。」

「じゃあやっちゃえばいいじゃん。

あきふみに仕事で大きなミスさせなよ。

取り返しがつかないみたいな。

三五ビルに行けばそのあきふみはいるんでしょ?」

「いるぞ。ひょろっとした男だ。」

「じゃあそいつを引きずり降ろして、

橈ちんがトップになれば好きに出来るじゃん……。」


愛雷が橈米の耳元でねっとりと囁くように言った。

熱い息が彼の耳をくすぐる。

愛雷は彼の耳の中に舌を差し入れた。

橈米の息が早くなる。




「……ほんと馬鹿よねぇ。」


ベッドの上で一人で息を切らせて身をよじっている

橈米を見てにやにやしながら愛雷が言った。

片手にはシャンパンの瓶を持っている。


橈米は眠っている。

だがその体の動きは激しい。

夢を見ているようだ。


「あんなのと契約すれば悪夢を見るだけよ。

でも本人は良い夢なのかもね。」


といきり立っている橈米自身を愛雷が指で強く弾いた。

その途端眠っている橈米が悲鳴を上げた。

だが起きはしない。


それを見て愛雷はげらげら笑うとシャンパンをラッパ飲みした。

そして再び橈米を弄ぶ。

彼は眠ったまま悲鳴を上げるだけだ。

顔色が赤黒くなっている。


「聖域なんて無くなれば良いのよ。

あれを壊せばあきふみは困るし。

そのためにあたしはリストを渡したんだから。

それでもあきふみは強すぎる。そうねぇ、連れの女ねぇ……。」


橈米が激しく息を切らしている。

彼は果ての無い悪夢を見ているのだ。


それを見て愛雷がべろりと舌なめずりをした。

長く赤い舌だ。

彼女はまたシャンパンをぐいと飲むと橈米の上に乗った。








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