然るべき処置

 水を買ってきてもらったオレは、暴れ回っていた人外を捕獲。

 車で近衛邸に向かった。


「もう、逃げられないぞ」


 オレの視界は赤い。

 催涙スプレーのせいで、目がヒリヒリするため、ちゃんと開けれなかった。


 ソファに座っているのは、意外な事に少年だった。

 まだ中学生くらいか。

 暴れ回っていた人外と聞いて、てっきりオレと同じ中年を予想していた。


 だが、違った。


「仕方ねえだろ。ウチ、金ないんだから」

「それで、店に忍び込んだってか。よくも、まあ、こんな小さい体であれだけの量を食べたわけだ」


 ハルカが紅茶を持ってきて、テーブルに置く。

 連れてきたのは、別に懲らしめるためじゃない。

 非行に走っている奴を何も言わずに施設へ預けたって、また繰り返す。


 そう判断したから、オレは一度腹を割って話さないといけないと思ったのだ。


「オレだけじゃねえよ」

「なに?」

「……」

「ひょっとして、家族の分も?」


 ハルカが聞くと、少年は顔を背ける。

 しばらく間を空けて、静かに頷いた。


「俺だけ食うのはずるいだろ」

「……ふむ」


 少年の話を聞いて、サナエは何とも言えない表情になる。

 ハルカは「どうする?」と言いたげに、オレを見てきた。


「親は?」

「出てった」

「お前と、兄弟だけか?」


 少年が頷いた。

 なら、話は早い。


 オレは狸乃に電話を掛けた。

 何てことはない。

 サナエにしてもらったように、こいつらが食える環境に移すだけだ。


 ケモノとはいえ、必死に生きてる奴を殺しちまうのは気が引ける。

 まあ、初めから殺すつもりはないが、まだ若いならやり直しだってきく。


「それじゃ、後でお家に行くからね」

「な、何で?」

「このままじゃ、飢えちゃうでしょ。衣食住与えるために、施設を案内するから。これ以上、悪さはしちゃだめよ」

「勝手に決めんなよ」

「分からないなら、何度も話してあげる。悪さをしていると、怖い人から怖い目に遭わされちゃうんだよ。そうならないように、普通に食べて、普通に暮らせるようにするの。あなたも、他の子も」


 ハルカが諭すと、少年は黙った。

 ちなみに、狸乃は電話の向こう側で相変わらず死にかけていた。

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