第34話 事件後

(仲原を連れ去ろうとした3人組視点)


 やりやがったな、あいつ。わざと俺達を煽って警察へ誘い込みやがって。おかげで俺達は連行されるハメになっちまった。仕事で人が足りなかったから、働いて、洗脳させて一生あの店で働かせる予定だったのがパーだ。俺達が捕まったからあの店も調べられて今までの悪事もバレて終わりだろうな。それもこれも全部あいつの…


 そういえばあいつ、ボスが探していた奴と似ていたな。テニスをやっていて、今は沖縄に住んでいる高校1年生だったか…、あいつはボスが見せた写真とよく似ていた。


 はは笑。俺はこれから先もボスの下で働けるな…、勝ちを確信して俺は警察書で取り調べを受けた。だが、今はそんな気になれねー。


「すいません。トイレに行きたいんですけど…」


「トイレだと…」


「はい。大丈夫でしょうか…」


 俺はここで敢えて礼儀正しく振る舞う。少しでも好青年を演じて印象を良くするんだ。そうすれば誘拐した証拠もなければ、すぐに釈放されるだろう。そして俺はまた金を稼ぎにいく。


「分かった。ただし、監視付きだ。それでも良いな?」


「はい。分かりました。ありがとうございます」


 俺はトイレへと向かった。監視もトイレの部屋の前に立ってるだけ。ワンチャン窓から逃げ切れると思ったが、窓が無いのか。まあ、良いさ。俺はあいつの情報さへボスに渡せば、情報の報酬でボスの下で働ける。俺の勝ちだ。


「トイレしたらすぐに戻ってきてください」


「分かりました」


 へへ笑、バカめ、お前らはすぐに持ち物を回収したが、靴までは確認しなかったのは迂闊だったな。ボスから支給された超小型連絡器を靴から取り出した。これはボスの会社が開発したもので、これを使えばいつでも登録した相手と電話のように会話できる代物だ。大きさもスライドガラスくらいでそう簡単には見つかるはずがない。俺はトイレに入ってすぐにボスに連絡を取った。


「もしもし、ボス」


「おう、どうした?」


「ボス、例の男見つかりましたぜ、やはり沖縄にいます。恐らく、学校は蒼京学園です」


「何?見つかったのか、でかしたぞ。…ところでお前、何故そんな小さな声で喋っている?」


「今、警察のトイレにいるんですよ。だから、大きな声は出せないんですよ」


「なに…?」


「大丈夫ですよ。証拠も恐らく無いですし、すぐに釈放されると思います。釈放されたらまた連絡します」


「…ああ、分かった」


「いつもありがとうございます、ボス、いや金間周三さん」


「ああ」


(金間周三視点)


 あいつ警察に捕まったのか。奴の情報を掴んだのは良いが、警察に捕まって仮に証拠があればあいつは確実に面倒だ。今の内に尻尾は切っておこう。あいつが勤めていた店とも。さて…


「もしもし…」


(遠野視点)


「おはよう」


「おはよう、悠馬」


 リビングに行くと、父さんが新聞を読んでいた。


「おはよう、悠馬。朝ごはん作ってあるわよ」


「うん。ありがとう」


「それにしても、昨日はびっくりしたわ。まさか警察の人から連絡がかかってくるなんてね、悠馬が何かしたと思って、母さん、汗がナイアガラ状態だったわ」


「何もしてないわ、例え盛りすぎだろ」


「ふふ笑、でもクラスメイトを助けてくれたみたいだったから良かったわ。母さん、あなたのこと、誇りに思うわ」


「俺はたまたまあの場にいたから助けただけ」


「それでも、十分に凄いぞ。誰にでもできることじゃない」


「父さん…」


 父さんはテレビを付けた。テレビは昨日の仲原さんの誘拐未遂事件を報道していた。


「誘拐未遂の犯人な、聞いた話じゃ、証拠がかなり揃っているらしく、起訴される確率が高いそうだ」


「そうなの?」


 お父さんとお母さんが事件について話していた。


「ああ。それに事件後、警察が3人組が所属している会社を調べてみたら、かなり違法な貿易をしてたらしいみたいなんだ。他にも違法になるものが多いらしく、その会社も調べられるそうだ」


「あら、かなり悪いことしてた会社だったのね」


「ああ…」


父さんは何か考え込んだ顔をしていた。


 それにしてもあの3人組はやはり危ない会社に所属している人達だったか。仲原さんが連れ去られそうになった所から撮影、録音していて良かった。これで彼女への誘拐、俺への暴行未遂で彼らは実刑は免れないだろう。俺は事件の事を考えながら、朝ごはんのスープを飲んでいた。


「それじゃあ、行ってきます」


「「いってらっしゃい」」


 俺は支度をして家を出た。今日は練習試合だ。練習試合は一昨日知らされたばかりだったから少し驚いたが、この沖縄に来て初めての他校との試合。どんな試合になるか楽しみだ。


「ピロン」


 家を出てしばらくしたタイミングで連絡用アプリレイン(REIN)が鳴った。蒼京男子テニス部のREINグループだった。


(すいません。少し遅れます)


(頑張れ。まだ間に合う)


 国吉と山田のREINだった。多分、寝坊だろうな、いや、間違いない。マイペースな国吉らしくて少し笑いそうになった。


「今日も何も無いと良いな…」


 俺は密かな願いを口にして集合場所へと向かった。





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