紫陽花

まろんけーき。

第1話

 世界で一番嫌いなあの人。

 一番近くて一番遠い。けれど、近い。

 太陽の位置が変われば、日向が影に影が日向に変わる。



 5年前の秋ー

 高校1年生。


 高校に入学し、学校の雰囲気や授業、クラスに友達も出来て高校生活にようやく馴染んで来た頃のことだったと思う。

 誰が言い出したのか までは、今ではもうよく思い出せないけれど。確か、同高に姉のいた優菜ゆうなだったような気がする。

「ねぇ、サッカー部の2年の藤崎先輩って知ってる?」

 と、突然 休み時間に優菜が言い出した。

 この頃、私は仲の良かった優菜と朱里あかり美久みくと一緒にいることが多かった。

“それ誰?” “知らない。” 私と朱里は興味がないと、優菜の出したこの話題を流しかけていた手前、この直後に控える英語のリーディングの授業の英訳を、私のノートを見ながら、自身のノートに走り書きで書き写している途中の手を止めて、突然 美久が

「知ってる!藤崎先輩、超イケメン!」

 と言葉を発した。

「...美久?アンタは、超イケメンとか叫んでる場合じゃないでしょー。今日は9月19日で出席番号が19番のアンタが当たるに決まってるのに、予習してこないんだから。ほら、あと2分しか無いわよ。」

 としっかり者の朱里が言う。

「え、もうあと2分なの!? やばい、やばい、超やばいよ〜誰か田村T足止めして来て〜!!」

「いや、無理。」

「嫌。」

 と朱里と優菜は立て続けに冷たく美久に言い放つ。

 そうこうしているうちに、英語のリーディング担当の田村Tが教室に入って来た。

 皆が一斉に慌ただしく席に着き始める。

 この学校では、生徒の自主性を育むという教育方針の元、授業開始及び終わりのチャイムが一切鳴らない。しかし、それによって本当に自主性が育まれているのかと言ったら、そうでは無いのが現実で、こうして、授業担当の教師が来て初めて、皆、一斉に席に着き始める。

「美久、写せた?」

 と当時、美久の右斜め後ろの席だった私がコソッと尋ねると、

「まぁ、8割型?取り敢えず、写した所が当たる事を祈る。あとは、授業中に自力で訳すわ。ありがとう、紫乃。」

「ううん。」

 と私は被りを振った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紫陽花 まろんけーき。 @maron_cake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る