短編:猫の首の畑!!!

立花 優

第1話 猫の首の畑

 令和○年5月○○日、日本中を騒がした事件が起きた。



 東京の某市の児童公園で、15匹もの野良猫や飼い猫も含めての、首が切断された死体が発見された事件である。



 いつものように、朝早く、愛犬と散歩していた定年退職後の男性が、自宅近くの市立の児童公園を散歩していた時である。

 愛犬が激しく吠えだした。



 ハテ、いつもの散歩コースで、愛犬がこれほど吠える筈も無い。

 犬に引っ張られて、その児童公園へ行ってみたのだ。



 おお、だが、何と言う事だ!



 そこには、首を切断された、大小の猫の首が、まるで、畑に植えてあるように、5匹づつ縦に並べて置かれていたではないか?

 その列は、横に、3つあった。

 まるで、小さな畑、家庭菜園のように、だ。



 しかも、直ぐそこに、近くの中学校の制服を着た可愛い女子中学生が、じょうろに水を入れて、

「喉が渇いた子猫ちゃん達、ゆっくり、ゆっくりお飲みなさい……」と、唄いながら、水を一匹一匹づつに掛けていたでは無いか?



「く、く、く、狂っている。あの女の子は狂っている!」

 そう叫んで、スマホから緊急で110番に電話を架けた。自分でも、何を言ったかは、ハッキリ覚えていなかった。



 やがて10分後、近くの警察署から、パトカー一台が、駆け付けた。



 しかし、警官が駆け付けると、猫の切断された児童公園の上には、猫の血と、撒かれたばかりの水で、その状況は、酸鼻を極めた。



 だが、その直ぐ横にいた例の女子中学生は、駆け付けた警官に向かって、

「お早う。猫ちゃんが喉が渇かないように、じょうろでお水をあげていたのです」と、にっこり笑って言うではないか。



 駆け付けた警官は、即座に精神障害を疑い、動物虐待の現行犯で、その場で彼女の身柄を確保。



「今から、少し聞きたい事があるから、着いてきて下さい」と、言ってパトカーに、女子中学生を乗せた。



 当該女子中学生は、別に暴れる事も無く、素直にパトカーに乗った。その時、その警官は、自分のスマホで、当該現場写真を撮影しておいた。警察署で説明し易いようにである。



 で、問題は、その動物虐待の事件の犯人が、わずか中学二年生女の子だった事だ。



 これは、神戸の連続幼児虐殺事件の少年Aを皆に想像させた。

 今回は、猫の首であったが、次回は、人の生首だろう……、と。



 朝の緊急ニュースで、このニュースは、全国に流れた。

 勿論、未成年なので、名前など公表される筈も無い。



 しかも、運が良いのか悪いのかは判断しかねるが、日本の現行刑法で、刑事責任能力を問える満14歳の誕生日を迎えていた。



 この点も、例の少年Aと、同じではないか?



 今も述べたように、本人の顔写真も名前も、テレビでは一切発表され無かったが、その少女の本名も顔写真も、即、SNS上に拡散した。

 だが、驚くべき事に、アイドル並みの美少女だった。



 既に、令和2年6月1日から改正「動物の愛護及び管理に関する法律」が施行されており、愛護動物の虐殺の罰則は、大幅に強化されていたのである。

 いわゆる、愛護動物を、みだりに殺せば、5年以下(旧:2年)の懲役、又は、500万円(旧:200万円)以下の罰金が科せられるようになっている。

 で、テレビには、若干40歳で、私学の雄のK大医学部教授で、児童青年精神科かつ犯罪心理学の専門家の、大口秀夫教授がタレント並みに引っ張りだこになったのである。



 コメンテーターが質問する。

「今回の事件は、人こそ殺していませんが、あれだけの大量の猫の首を切断したその最も大きな原因は何だったのでしょうか?」



「この私の恩師の伊沢誉名誉教授は、入院されています。

 その先生の説によれば、まだ若い子が、このような問題行動を起こす原因はですね」と、少し勿体ぶって説明を続けた。



「一般的に、他者からの理由が主な場合は、子供時代に受けた、

①両親の離婚

②親のネグレクト(育児放棄)

③親のアルコール中毒、ギャンブル依存症

④しつけと称した虐待行為

 私の先生はこれらを総称して、その子らには、愛着障害が起きていたのでは無いか?と結論付けています。



 「しかし、第一発見者の男性によれば、その女子中学生は、唄いながら切断された15匹の猫の首に、じょうろで水を掛けていたとか?

 これは、重度の症状なのでは?つまり強度の精神疾患だったのでは?」



「そうですね、もっと専門的に、言い直すなら、次のように言えるでしょうか?



 本当に精神疾患だとすれば、主に、外因、内因、心因に分類され、この順番で鑑別する事が基本なのです。

 外因とは、主に身体に由来する器質性、症状性、中毒性です。

 心因が、今言った性格環境であり、愛着障害がその例に当たります。

 内因は、外因でも心因でもないが、明確には良くその理由が分からないものです。



 で、この少女が、外因性、心因性で、無いとすれば、一番、原因の良く分からない内因性であって、実は最も説明の難しい部類に入ると思います」



「先生は、早い話が、生まれた時からの症状が、今、出現したと言われるのですね?」



「まずは、彼女の両親に会ってみて、そして彼女自身を診てみないと、そうそう簡単には断言できませんが……」と、ここで、逃げを打った。

 マスコミは、この事件に「猫の首の畑事件」と、後に、銘々した。



 そして、その年の年末頃に、大学の事務室から、一本の電話が、大口秀夫教授の研究室に掛かって来た。



 どうも、あの少女が、その後、家庭裁判所に送られた後、○○医療少年院に送られたらしいのだが、どうも、その当該医療少年院の精神障害担当医だった人が、大口教授の研究室に訪ねて来たのだと言うのである。



 現在、○○医療少年院と□□医療少年院は、医療法上の「病院」に該当しており、全ての科が備わっており、国内でも特に精神医療分野のトップレベルの医師がそろっているとされているのは聞いている。



 それでも、大口教授の元に、直接、訪ねてくるのは非常事態に相違無いだろう。



 入ってきた人物の名刺には、「○○医療少年院 精神科医 小森忠」とあった。この小森忠の名前に、若干、記憶があった。有名な医者だった筈だ。

 


「初めてお目にかかります。大口先生は、テレビで良く見ております。

 で、私は、今、非常に不思議な患者を診ているのです」



「それは、例の、「猫の首の畑」を作っていた少女の件ですか?」



「正に、その通りなのです」



「何故、小森先生程の名医が、この私を、訪ねておいでたのです。それ程、彼女の症状は、異常なのですか?」



「ええ、家庭裁判所での精神鑑定では解離性人格障害とされ、私の勤務している○○医療少年院へ送致されて来ました。



 で、何故、猫の首を切断して、畑のように児童公園に埋めたのかと聞くと、急に訳の分からない事を言い始めるのです」

 


「どう言う具合に、訳の分からない話なのですか?」



「それが、猫を殺して畑のように地面に埋めたのは、猫神様が現れて、私に、強く勧めたからだと言うのです」



「猫神様って?」と、そう聞いて、大口教授は、ビックリした。



 大口教授は、北陸の片田舎の出身なのだが、自分の自宅から、歩いて10分程の所に、猫神様を祭る「猫神様神社」があったからである。



「何でも聞いてみますが、彼女の両親は、鹿児島か、北陸地方の出身ですか?」



 鹿児島市吉野町には、全国的にも有名な猫神神社がある。で、自分の実家の近くにも「猫神様神社」があったのだ。



「私は、彼女の両親にも祖父母にも会っていますが、ずっと前からこの東京の某市に住んでおります」



「では、今の話を聞く限りは、先程の解離性人格障害が多分、彼女の病名に最も合っているのでは?」



「イヤ、実は、ここからが本論なんです。

 私が、先生の元を訪れた最大の理由は、先生が北陸の出身であって自宅の直ぐ近くには、日本でも珍しい「猫神様神社」があります。

 先生は、『私が診た不思議な世界』と言う、自分の患者の治療中に感じた怪奇現象を本にしておられますよね」



「ええ、私が、治療中に何度も不思議な事を経験したので、その事実を本に書いただけです」



「では、この画像を見て、どう、思われますか?」



 と言って、小森医師は、フラッシュメモリーを取り出して、机の上に置いてあったパソコンのUSB端子に接続した。



 だが、何と、ソコに映っていた映像は、衝撃的な画像だったのである。



「これは、彼女の個室に取り付けた隠しカメラで録画したものです。

 特に、彼女のように動物虐待のような場合、その、他傷行為が自分に向けられる(自傷行為の事)危険性もあるため、今回、取り付けたものですが、ともかく、ここを見て下さい」



「こ、これは、正に猫の首の映像ですね。誠に失礼ですが、CGでは無いのですか?」



「違いますよ。先生。これは、もしかしたら、彼女の言う猫神様の頭部が、彼女の入院している部屋に、空中から急に出現したのでは無いのでしょうか?」



「うーむ、かようにハッキリと画像に写ったような事例は、初めてです」



「そうですか?

 先生のようにオカルトについて理解のある方でも、この怪奇現象は、説明出来ないと、おっしゃるのですね」



「そうですね。



 我が国では、戦前、T大で変態心理学の研究をしていて、そこで「念写」を発見した「福来友吉」先生の公開実験失敗以来、日本では、かような怪奇現象自体を研究する事は、学問上のタブーとなっています。



 ただ、このように、学問として現在も真面目に研究されていない以上、この画像を見て、私に判断しろと言われても、ちょっと難しいですね……」



「そうですか?



 大口教授なら、ハッキリと超常現象だと、断言して下さると、期待して来たのですが、残念ですね……」



「一応、念のため、この画像は、コピーして良いですか?」



「御自由に、どうぞ。だが、もし、これが、本当の猫神様の亡霊なら、彼女の治療は、根本的に違って来るのです」



 これが、本物の猫神様の亡霊なら、彼女の治療は、精神医学の域を超えて、除霊の方が遙かに効果がある事になるからだ。



 これを、実に、単純に言ってしまうならば、間違いなく、猫神様が殺された猫の恨みを晴らすために、この世に出現したと言う事になる。



 思い悩んだ大口教授は、自分の故郷の北陸地方に行ってみようと思った。

 自宅からわずか10分のところに、「猫神様神社」がある。

 この宮司様に、意見を聞いてみようと、考えたのである。



 まず、自分の実家に顔を出した。



 しかし、歓談もそこそこにして、大口教授は、「猫神様神社」に行きたかった。



 で、少し、学問的な疑問を解決する必要があるからと、ここは、少し、自由にさせて欲しいと行って、実家を出たのだ。



 実家から歩いて10分で、その「猫神様神社」へ着いた。



 普通なら、二匹の狛犬が、参道に向かって並んで立っている筈だが、さすがは、猫神様を祭る神社だけあって、狛犬の代わりに、二匹の招き猫の石像が、立てられている。



 神社の手前の左側に、こじんまりとした、2階建ての木造の住宅がある。社務所兼住宅である事は、小さい時から知っている。



 この宮司さんは、定年まで高校の教師をしていたと聞いていた。専門は、生物や物理学である。地元の国立大学を卒業した後、教師になり、今は宮司に専念しているのだ。



 この宮司の名前は、山下秀一と言う。早速、玄関のドアフォンのボタンを押した。



 御年、70歳の宮司は、玄関まで、出て来てくれた。大口教授を人目見るなり、



「大口秀夫先生、いや、しゅう君じゃ無いか?これは、珍しいちゃのう。いつもテレビで拝見させてもろとるがいけどのう……」



「宮司さん、お久しぶりです」



「で、今日は、何のようで、ここに来たんや。大学のほうも急がしかろうに?」



「ええ、研究の他、論文の執筆、たまのテレビ主演等、これが思いのほか忙しいのです」



「しかし、妙に神妙な顔をしとるが、何か、あったのかいや?」



「実は、宮司さん、この「猫神様神社」の本当の由来について、詳しく、教えて頂けませんか?」



「それは、しゅう君が、小学生の頃、良く説明したと思っているんじゃが。



 今、一度話すのなら、この地方は米はそこそこ取れたらしいが、その分、年貢米の取り立ても多かった。貧乏な農家にすれば自分らの食べる分をネズミに食べられては大変だと、各家で猫を飼って、ネズミの駆除つまり自衛に努めた。

 やがて、この事から、皆、猫を「猫神様」として敬うようになり、この「猫神様神社」が出来たと聞いておる」



「その話は、前から聞いています。

 しかし、私の小中学校の同級生が地元の市役所の図書館に勤務していますが、この前、彼に電話で聞いたら、それは、表向きの話であって、裏には、もっと血なまぐさい裏話や黒歴史があったらしい、と意味深な事を言っていました。



 私が、その同級生に聞いたら、ある郷土史家が、この「猫神様神社」に関しての、裏話や黒歴史について、独自に研究し、自費出版までしていると言ってました。



 では、この同級生の言った裏話や黒歴史とは、一体、何なのです?」



 ここで、山下秀一宮司の顔色が、一変した。



「宮司さん、この話の奥には、先般の「猫の首の畑事件」の主犯の少女にも大きく影響して来るのです。



 一応、世間では、その少女は、単なるキチ○○としか、見られていません。

 



 で、医療少年院でも、そのような治療を行っています。しかし、症状が全く改善しません。昨年末には、医療少年院の主治医自ら、私の元に訪ねて来た程なのです。



 その主治医は、猫神様の亡霊が映ったビデオの録画画面を、私に、見せて下さいました。これは、現実に、猫神様が存在する証拠なのでは」と、ここぞとばかりに、たたみかける。



 だが、宮司は、ただただオロオロとするばかりである。



「宮司様、一人の少女の生涯がかかっているのです。是非、知っているお話を教えて下さい」



 ここで、遂に、宮司は折れた。



「この話は、宮司のみに口移しで伝えられて来た話でのう。確かに、大口秀夫先生の言うとおりで、その少女には、猫神様が取り憑いているのは、間違いが無いじゃろうのう……。



 詳しい事は言えないが、私が聞いた限りでは、戦国時代の中頃、この北陸地方で、何度も、一向一揆が起きてのう。



 そこで、ある時、その首謀者の集団を兵糧攻めにしたと聞いておる。周囲を兵で取り囲んだんじゃ。



 最初は、何でも食べていたらしいが、遂に、食べるものも無くなって、犬、遂には猫まで食べたらしいのじゃがなあ……問題は、正に、ここにあっての。

 猫を喰った人間が、急に発狂したらしいんじゃ。それも一人だけで無く、数十人もじゃ。



 結局、その首謀者の首を差し出して、まあ、その一揆は終了したらしいのじゃが、それ以来、猫の祟りを畏れての、この「猫神様神社」の前身の祠が建てられたらしいのじゃ」



「では、あの少女には、ホントの猫神様が取り憑いているとでも……」



「それは、何とも言えん。ただし、この私には、苦い思い出がある事も、事実なんじゃよ」



「その苦い思い出とは?」



「それを言うと、この私までが、キチ○○と勘違いされそうだが、事実は事実だ。



 あれは、大学生の頃の話じゃがな……」と、宮下宮司は、驚愕の事件を口走ったのだ。



「私らが、地元の国立大学理学部に入学した頃は、ユリ・ゲラーのスプーン曲げに始まって、ノストラダムスの大予言だの、映画『エキソシスト』等と、空前のオカルトブームの時代であったのや。



 しかし、曲がりなりにも、大学の授業では、超能力の実験等は、できる訳も無いわなあ。



 そこで、私が、発起人になって「超常現象研究会」を、立ち上げたのじゃ。

 部員は、他学部の学生も入れて、そう一番多い時で、20名以上はいたじゃろうなあ。



 特に、私が、「猫神様神社」の、宮司になる事が決まっている以上、この研究会には、極、正統的な実験を繰り返し行う事によって、超常現象の有無を確かめると言う、暗黙の了解があった。



 念力の実験の時は、スプーン曲げのように、手品のようなインチキが入り込まないように、透明なガラスの箱をテーブルの上に置く。その中には、1センチ四方に切った「ちり紙」を入れて、全員の念力で浮上させると言う、実に、正統的な科学的な実験もあった」



「で、そのような厳密な事件は、成功したのですか?」



「する訳が無いではないか!物体を動かすには、何らかのエネルギーが、必要なんじゃよ。ニュートン力学の基礎中の基礎の話じゃないかね……」



「では、宮司さんが立ち上げた「超常現象研究会」は、そのまま、自然消滅すると言う事になりますね」



「確かに、一人抜け、二人抜け、研究会員は減っていった。しかし、ここに、掟破りの学生が一人おっての」



「えっ、それは、どう言う事です」



「私は、自分の立場上からも大反対したのじゃがな。何しろ、本人が言う事を聞かない。



 で、ある日、常識では考えられないような実験に着手したらしいのじゃ」



「その実験とは?」



「猫神様をこの世に復活させると言う実験なんじゃ」



「えっ、猫神様を復活させるって?まさか、かってのように、実際に猫を食べるとかの実験なんですか?」



「いや、もっともっと、惨い実験だったらしい。……らしいと言うのは、私は、その現場を見ておらんからのう」



「具体的には、どう言う実験なのです?」



「おお、語るのも、恐ろしや!



 何と、生きた猫を、首まで地面に埋めてその周りを小石等で固める。



 で、その生きている猫の前に、猫の大好物の魚の干物と水入りの皿を置いていたらしい。地面に埋められた猫は、目の前の餌と水を欲しながら、やがて息耐えたと聞いている」



「正に、狂気の実験ですね?」



「結局、その実験をした、学生は、アパートで首を吊って死んだのじゃが、アパートの中の机の上には、「猫神様が現れた」との、本人直筆の遺書があったらしい。私が、知っているのは、ここまでじゃ」



「この事件以来、「超常現象研究会」は解散決定。



 また、その事件以来、それまで懐疑的だった、猫神様を、この私自身が本気で信仰するようになったのも、事実なんじゃ」



「では、あの「猫の首の畑事件」に、話は戻るのですが、宮司さんは、あの少女には、本物の猫神様が取り憑いていると言われるのですね?」



「万一、猫神様の憑依であったとすれば、単なる治療では、完治は難しいじゃろうのう……」



「宮司様は、彼女の除霊は出来ないのですか?」



「私は、一介の高校教師じゃ。そんな能力など持っている訳が無い」



「では、数百年の歴史があるこの「猫神様神社」に何か、その、霊的な除霊ができるような御札とか、あるいは御新刀とか、何か無いのですか?」



「残念じゃが、そのような物は、全く伝わっていない」



「そうですか。では、あの少女は、一生、キチ○○のまま、一生を送らねばならないのでしょうかねえ?」



「イヤ、今、思い付いたのじゃが、大口秀夫先生、一体、その少女は、どうして猫神様に憑依されるようになったのじゃろう?その原因は、一体、何なのじゃ?



 先生は、この点を、どう考えられる?」



「いや、初めて聞く御意見です。



 私は、純粋に、精神医学的な治療法しか考えていませんでしたので。



 しかし、これが、ホントに猫神様の霊が憑依していたと仮定すれば、根本的に、考えを改めなければなりません。



 一度、この件を調べてみます。大変に貴重な御意見をありがとうございました」



 万一、ここが突破出来れば、解離性人格障害とされ、世間一般では、キチ○○と呼ばれている彼女を、あの暗い閉鎖病棟から解放できるかも知れないからだ。

 だが、それは、現代科学では、未だに解明されていない、動物の霊などの、オカルト現象を認めると言う、矛盾にも突き当たる事になるのだが……。



 何が何でも、その原因を解明出来れば、猫神様の憑依現象も消えて行くのであろう。



 大口教授は、今からこのK大学病院から、○○医療少年院の精神科医の小森忠医師に会いに行くよう、アポイントメントを取っていた。



「小森先生、例の少女の様子は、どうですか?」



「いつもと変わりはありません。イヤ、今日は、今までで最も落ち着いているように見えますが」



「大至急、そうですね。車を飛ばして約1時間弱でそちらに着きますが、どうしても、彼女に会って聞きたい事があります。今から彼女に会わせて頂けるでしょうか?」



「高名な、大口先生が自ら来て下さるのです。反対すべき理由が何処にありましょう」



 こうして、カーナビをセットして、大口教授は、車を走らせた。



 ガチャリと、鍵を開けて、大口教授は、小森医師と、一緒に、昼なお暗い閉鎖病棟の一番奥の部屋に入った。



 そこに、ベッドの上に、ちょこんと腰掛けている、アイドル並みの美少女がいた。



 だが、彼女は、大口教授を見るなり、



「ああ、やっと、猫神様の存在を信じてくれる人が来てくれた。

 嬉しい、嬉しい、嬉しいなあ!」と、涙を流しながら迎えたでは無いか。



 無論、大口教授とて全面的に信じている訳でも無いのだが、「猫神様神社」の宮司さんに会ってから、もしかしたら本当に猫神様や、その霊の憑依現象があるのでは?と、内心、思いつつもあったのである。



 だが、如何なる説明よりも、彼女が、大口教授の現在の心を読み込んでいる事だけは事実だ。



 彼女は、ただただ、正直なだけでは無いのか?

 で、本当に、猫神様に憑依され、命令されて、「猫の首の畑」を、作ったのではなかろうか?



 しかし、ここで、肝心な質問を忘れていた。



「貴方は、猫神様が命令したと言っておられます。私は、その話を信じます」



「でしょ。私は猫神様の命令に従って、野良猫達の首を使って、あの畑を作っただけ何ですよ。ホントです」



「イヤ、良く、分かります。でも、一番最初の疑問なのですが、どうして貴方は、猫神様と、そう言う関係になったのですか?思い当たる事でもありませんか?」と、大口教授は、宮司様から逆に質問を受けた、今回の事件の核心に当たる質問をしたのだ。



 この質問には、彼女のほうも、逆に困惑したみたいだ。



「何か、思い当たりませんか?」と、小森医師も聞いてくる。



「そう言えば、私とあの子猫の事が、一つのキッカケかも知れません……」と、遠慮がちに、彼女が言う。



「えっ、何か、思い当たる事を、思い出されたのですか?」と、大口教授が聞く。



「極、手短に言いますと、確か、昨年の春先、私の家の前で、子猫の鳴き声が聞こえたのです」



「で、どうされたのです?」



「勿論、心配になって、外に出て見ました。



 まだ、寒い、春先の事だったかと。



 ともかく、急いで階段を降りて、家の前に出て見ました。


 

 すると、3匹の子猫が既に、低体温になって、家の前に捨てられていました。



 急いで、家の中で、タオルとホッカイロを取りに戻り、直ぐに、体を温めましたが、でも、子猫三匹は、急激に弱って行きました。



 で、近くの動物病院もスマホで、検索しました。でも、救急用の動物病院は近くにはありません。どうするか迷っている内に、三匹の子猫達は、皆、死んでいったのです」



「で、その後、どうされたのです?」と、大口教授は聞く。



「可愛そうだったので、近くの児童公園に、埋めて小さなお墓を作りました……」



「そうですか、まだ寒いのに、大変でしたね」と、小森医も頷く。



「小森先生、少し、外でお話をしましょう」と、大口教授は小森医師を外の会議室へ誘った。



 別室で、大口教授は、次のように言ったのだ。

「小森先生、彼女は明らかに嘘を付いています。私は、彼女の病気が分かりましたよ。まあ、猫神様の話を信じるかどうかは別としてもね」



「大口先生、それは一体、どう言う意味ですか?」



「小森先生、彼女の話が本当なら、猫神様に感謝されこそすれ、恨まれる筈は無いのですよ」



「ああ、確かに、そう言われれば、本当に、そうですね?

 では、大口先生は、これからどうされるのです?」



「今から、彼女の正体を、この私が直接、暴きます。



 彼女は、生まれながらの精神病質者、つまりサイコパス(反社会性パーソナル障害)なんですよ!」と、大口教授は断言した。



 再び、彼女の閉鎖病室に、二人して入った。



「お嬢さん、貴方にもう一度だけ、確認させて下さい。

 本当に、子猫達は、既に死んでいたのですか?」



「ええ、絶対に間違いはありません」



「でも、真実は、まだ生きていたのでは?

 貴方は、生きたままの三匹の子猫達を児童公園にそのまま埋めたのでは無いのですか?」と、大口教授は、言い切った。



 正に、その時、彼女の表情が、一変したのだ!



 般若のような、鬼のような形相で、

「そんな、馬鹿げた事など、私がする訳が無いでしょう!」と、狂ったような大声を上げて反論したのだ。



 その表情と声の大きさに、小森医師は、ぶっ倒れそうになった。



 それと共に、何と、天井や壁や床から、まるで、映画館の最新立体音響設備(ドルビーアトモス)の放つような、



「ニャーァァァァァァァ……」と言う、得体の知れない、化け猫のような絶叫が、狭い部屋の中に、響きわたったのである。



 おお、おお、猫神様が、怒っているのだ!!!

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