ひばり荘殺人事件 短歌連作15首

滝口アルファ

ひばり荘殺人事件

元旦に(嘘だろう)俺は死んでいた、ひばり荘203号室で


しんしんと俺は死体であるらしく少し分かるよザムザの孤独


ポアロの孫が「自殺」といって幕引きに(青酸加里で殺されたのに)


くもり日の俺の葬式、坊さんが何度も経を読み間違える


お焼香する元恋人が連れてきた少年、俺にうりふたつじゃん


すすり泣くフィアンセの声、棺桶へ死体の俺の噎(む)せるほど花


霊柩車にて運ばれてゆく死屍の俺は恐怖で更に固まる


黒魔術みたいなものを浴びるのだ(ゑゑゑんゑゑゑん)火葬場に着く


原爆をふと思うまで熱かった。そうして骨の俺、灰の俺


ぬばたまの喪服の人ら出て来れば鳳凰の見る夢のごと雪


もし俺が死んだら散骨してくれとうっかり言っていたっけ君に


こなごなの俺しろじろと撒(ま)かれゆく青すぎて怖い太平洋へ


(もっと詩を創りたかった)海原にぎるるんぎるるん揉まるるばかり


海中に細かく細かくなりゆけばげんぱつじこのセシウムに遭う


こうしてあいつの完全犯罪成立す俺は早春の海に拡散す


2首目の「ザムザ」は、カフカの小説『変身』の主人公の

グレーゴル・ザムザのことです。

3首目の「青酸加里」は、猛毒の「青酸カリ」の漢字表記です。

8首目の(ゑゑゑんゑゑゑ)は、オリジナルのオノマトペです。

13首目の「ぎるるんぎるるん」は、オリジナルのオノマトペです。



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