第21話 天使はヒトを連れていく

「くそっ!このままじゃあの機体は…」


 カーテナはアストレアに見向きもせずもう一つの戦場へと向かう。


 ―――――

 ―――

 ―


「やはり伊邪八のエースはアストレアにはまだ荷が重かったか…」


 アメノオシのコックピット内でクティスは呟く。


「相手を3体撃破できたが、こちらは俺とモート3体、そして行動不能のアストレアか…」


 詰んだか。


 そう思ったクティスだが、薄い勝ち筋を拾うべく最善手を考える。


「お前ら!敵のエースがこっちに来る。なんとか時間を稼げ!」


『『了解!』』


『どれぐらいあれば十分だ?』


「一分だ」


 クティスは双刀以外の武装をパージし、スラスターを全開にして敵の狙撃集団に突っ込む。敵機は迎撃すべくビームを撃ち込んでくるが、アメノオシの装甲に当たることは無い。回避しながらも敵機に接近し、避けきれないビームを双刀を使ってそらす。


「すまんが、こちらに余裕は無い。期待したようだが、これ以上はアストレアには厳しいだろう」


 敵機―――ケイロンは、フラッシュやスモークを使いアメノオシを撃退しようとする。しかしクティスには効果がないのか、一機刺されて沈黙する。逃げきれないことを悟った一機のケイロンはショートビームソードを構えるが、遠距離特化のカークスが近接戦を得意とするカークスに敵うわけがない。突き出されたショートビームソードはアメノオシに当たらず、アメノオシの一閃でケイロンは停止する。


「時間稼ぎだったか。」


 いつの間にか距離を取り、散り散りになったケイロンはアメノオシに銃口を向けている。もう落ち着いたのだろうか、常に動き、息を合わせて狙撃する。クティスは思わず舌打ちをする。


(散り散りになったら短時間で全機撃破されることは無い。それに奴らは支援がメイン。支援する対象は…)


 クティスの目に撃墜判定が出て停止したモートが三機映る。


「伊邪八のエース相手に40秒も持ったのなら上出来だ。しかし、アイシャの予想も外れたか?」


 またビームを弾き、クティスはアストレアを見る。


「っ、あれは…光って…?」


 クティスの目に自らの拘束を引き千切ったアストレアが映った。


 ―――――

 ―――

 ―


 時間は少し巻き戻り、戦闘開始後。


「アイシャ様。なぜ出撃しなかったのですか?あなたが出撃すれば…」


 オピスが隣で戦場を眺めるアイシャに尋ねる。


「楽に勝てたかもしれん。そう言いたいんじゃろう?」


「はい。いくらセーマ君に期待しているといっても、万が一負けると私たちの状況が悪くなります。それに、セーマ君は戦場に出て短い。伊邪八のエースには勝てないのでは?」


「このままだとそうじゃろうな。」


「では…」


「だが勝てる。私の予想は外れたことは無いじゃろ?」


「それは知っていますが…」


「それに私は模擬戦があまり好きではない。クティスの息抜きにもなるじゃろうし、一石二鳥じゃろ」


「そのクティスに任務を与えたのでしょう?任務として戦う彼は息抜きになっていないと思いますが…。そういえば、クティスによればミカ様は怒っていたようです」


「侮られたと思っているのじゃろうな。侮っているのはミカじゃというのに…」


 オピスの視界に拘束されるアストレアが映る。


「アイシャ様が参加せず、新入りが参加していたらそう思うでしょう。それにあっさりと対処できた。これではミカ様の怒りは大きくなるでしょう」


「それは逆に良いことじゃろう。セーマの勝率が上がる。ほれ、セーマ。早くしないと仲間がいなくなるぞ?それとも、お主はその程度だったか?口では何とでも言える。違うなら、私に見せて見ろ」


 アイシャは試すような目で、オピスは不安げな目でアストレアを見た。


 ―――――

 ―――

 ―


「動け!僕がカーテナを止めないと…味方は…」


 セーマはコックピットの中でアストレアを動かそうと試みる。変に絡まっているのか、中途半端な位置でアストレアの動きが止まるのがわかる。


「このままじゃ…」


 セーマは頭痛と共に周囲の人の思いを感じ取った気がした。この状況への絶望、自身に向けられた怒り、失望、心配。しかしセーマは同時に自身に向けられる願い、期待も感じ取ることができた。


「終われない…アイシャもクティスさんも、僕に期待してくれたんだ。僕とアストレアはやれるんだ。それを…示すんだ」


 セーマの心に決意が宿る。アストレアはそれに応えるかのように動き、ネットを引き千切った。


 セーマはクティスの、カーテナの元へ急ぐ。アメノオシとカーテナはすでに戦っており、ケイロンの支援もあってかなり不利なようだ。


 接近するアストレアに気付いたのか、カーテナはアメノオシから離れる。


「すみません、遅れました」


『いろいろと聞きたいことはあるが、助かった。こっちの消耗はなかなか激しい。これ以上向こうのエースを抑えるのは難しい。こっちは任せてもいいか』


「はい。もうあんな情けない姿は見せません」


 クティスはその返事に満足したのか、アメノオシがケイロンの元へと向かう。


 セーマにカーテナからの通信が入る。


『お前が兵士ではないことぐらい分かっている。なぜ立ち向かう。痛い思いはしただろう?』


 機嫌の悪そうな女性の声だ。セーマはそう思った。


「僕は期待に応えたいんだ」


『痛い思いをしてもか。戦場では人が死ぬのを知らないのか?』


「知ってる」


『それは知識としてだろう?お前は人を殺して無い。そんな奴が私の前に立つのか?』


「それが今の僕のやるべきことだから」


『これ以上話しても無駄だな』


 通信が切れる。どうやら本気で倒しに来るようだ。こちらを倒すという意志や憐みのようなものを感じたが、セーマは優しい人だと思った。

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