尾も白い話

Ottack

第1話

 「面白い話してー」――そう言われたらあなたは何と返しますか? 私? 私なら尾も白い話をしてあげます。宜しければ参考までに聞いていきませんか?

 

 雪が降ると炬燵に篭って暖を取り、一日中引き篭もっていたくなりますよね。そんな寒さの中でも子供の元気は健在。明日には溶けてしまいそうな程度の雪でさえ燥げるのだから、自分の身長に迫る積雪を見た時の興奮は計り知れないでしょう。

 親に手伝ってもらいながらスノーウェアに身を包んで手袋と帽子を着用し、長靴を履く――彼等の準備が完了するまで興味津々の銀世界へ飛び出すのを我慢している飼い犬の、舞踏するかのような興奮っぷりには運動会のパン食い競走に匹敵する滑稽さがあります。

 新雪に飛び込みたくなるのは人犬問わない根源的な欲求のようですが、雪だるまや雪合戦などといった人にしか理解出来ない物の制作や攻撃を遊びに取り入れる高次元のやり取りは、やはり人ならではと言ったところでしょうか。

 軈て一日分のエネルギーを注ぎ込んで遊び疲れた子供は飼い犬と共に玄関へ戻っていきました。子供が帽子を取れば頭からはゆらゆらと湯気が立ち上り、犬が身震いをすれば全身についた雪がぽろぽろと落ちました。

 子供と犬は仲良く炬燵に潜って暖まります。犬が落とし切れなかった雪は尾の白に人知れず溶けていきました。


 ……はい。ここまで聞いていただいたところ申し訳ないんですが、「唐突だ」と、そう思いませんでしたか?

 私の尾も白い話が面白いかつまらないかは極論を言ってしまえばどうでもいいんです。私が問いたいのはオチの部分。


 尾も白い話に限らずこの手の話は題名というフリに対して同音異義でオチをつけるものです。これだけでも一応フリとオチがある面白そうな話にはなりますよね。

 では唐突とは何の事かと言いますと、先の話の五段落目を成す二つの文に段差がありすぎたのではないかという事です。

 改善策としては恐らく二文目の冒頭に同量程度の文を挟むか、或いは一文目と二文目で段落を分けてそれぞれ文を付け足すのが無難かと。


 まあ、改善したところで所詮は「尾も白い話」です。そもそも私はこの類いの話を面白いと思った事はありません。

 それなのに何故その話を話題に出して、おまけに語るような真似をしたのか――分かりますよ、気になるんでしょう?

 私の尾も白い話を聞いたあなたは、自分が知っている話と違うと思った筈です。私は面白い話をしてほしいと要求された状況に同音意義のオチをつけた話で返せば、このジャンルは成立しているものと考えています。

 つまり尾も白い、今日麩の味噌汁など明確なオチに至るまでの過程は人それぞれ、個性や実力が出る部分となる訳です。


 勿論私も自分なりに努力をしてきました。ダッシュ記号の使い方は特に拘りを持って執筆活動をしています。又、拘りで言えば私は他人の作品を見ないよう遠ざけているので、執筆と反省を繰り返しての今日です。

 ですがこれを執筆している最中、私は自分に課していたその禁を破って遂に他著者の作品を見ました。とは言ってもたった一話、それも冒頭の数行だけだったんですけどね。

 十分だったんです、私にとっては。読みにいった訳ではなかったので。

 その作品は世から評価された作品でした。何を隠そう大賞受賞作品ですからね、受賞者がいないコンテストもある中でこれは名誉というやつです。

 それまでの私には根拠薄弱な薄っぺらいプライドがあったのかもしれません。いえ、これも負け惜しみでしょう。ありました。何度でも応募してという、まるでいつでも迎え入れてくれる実家のように寛大な魔法の言葉に、私は甘えていたのでしょう。

 同じコンテストに応募していた私は自分の負けを素直に認めてその大賞作品の一話目を開きました。


 絶望――その時の感情を一言で表すなら、この言葉が最も適切です。

 そう、私は絶望しました。自分の作品が小説のルールも学ばずに妄想を垂れ流しているような文章に負けたのですから。

 小説のルールというのは一般に知られている感嘆符や疑問符と空白についてや単位記号の書き方についてなどなど、作家を志す者ならば誰もが学ぶ事です。

 ですがそれら表記方法なら作者ではなくともある程度文章に精通している人の手で直す事が出来るのもまた事実。物語の本筋が表記方法より優先されるのは当たり前といえば当たり前。

 だからこそ、私は絶望しました。自分が卑下する作品よりも自分の作品は純粋に面白くない可能性が高い。

 校正がある以上コンテストの審査項目から表記方法は除外されていると見て間違いないでしょう。審査員は物語に集中し、文章に集中します。

 作者が意図した通りに物語は読者へと伝わっているのか。文法の間違いが至高の物語を損ねていないか。まるで共感出来ない天才レベルの感覚を持ち合わせているか。

 少なくとも私はこれを執筆している時点で受賞歴がありません。況してや出版など夢のまた夢。私にはどれもが足りていなかったと言わざるを得ないのです。


 そう判断した理由は明白――私の作品は面白くないと、出版社側から突き付けられたのですから。

 これが読者から言われたなら一人の読者の感想として受け止め、改善すべきところも見つかるでしょう。何百何千という応募が届くコンテストで主催者が一人ひとりに感想を述べて回っていたら適当な感想が交ざるはずですし、そんな事をしてる暇はありません。

 実のところ私も直接感想を頂いた訳ではないのです。それならば単なる思い込みではないのかと言われても仕方ないのですが、私は思い込みで済ます事が出来なかった。

 私も応募し他作品が大賞を取ったそのコンテストで、私の作品は受賞出来ませんでした。先に言っておきますが推理ものを恋愛小説コンテストに応募したり、女性受けを求めるコンテストに血生臭い闘争の世界観をぶち込んだりなんかしていませんよ。


 他にもこれだけの評価されるべき作品達が存在するのかと結果発表のウェブページを流し読みしていた私は、ふと思ったんです。面白いのに受賞出来ないなんて事が有り得るのか、と。

 作家としての成功を目指すアマチュアの目線から言わせてもらえば、「有り得ない」が答えです。ですが例外も考えられます。出版社が売れそうな作品を鳴り物入りで売り出している時は、確実に売れる作品達が割を食うかもしれませんね。可能性は限りなくゼロに近いですが。


 つまらない裏事情のせいで年単位の損失を被っていると考えたら腹が立つと同時に、それこそ有り得ない話だとも思います。

 馬鹿馬鹿しいですよね、表記方法一つに魂を込めようと努力している時間が。

 お前の小説は面白くない! でも受賞枠が空いた時には取るかもしれないからめげずに応募して来い!

 嘗めるなよ、と。焼き増し上等で特定のジャンルしか望んでいないにも関わらずそれを明記しない。挙句媚び諂えと言うのならこっちから願い下げです。それらの条件を飲み込むなら表現者とは言えないでしょう。


 いつの日か私の文才が開花したとしても、お世話になる事が無い人達のお話でした。すいません、少々取り乱しましたかね。

 纏めると私の小説は面白くないという事です。文法は合っていても物語がつまらないのか、又は文法が滅茶苦茶な上に物語がつまらないのか、どちらかではないかという事です。


 あなたは結果論者に振り回されてないですか? 特にここまで飛ばし飛ばし読んだあなた。

 先駆者達はよく「続けろ」と言いますがそれは成功した実績、報われた経験があるから言える言葉です。

 ソシャゲのガチャと同じですよ。どんなに最高レアが低確率だったとしても出るまで回せば百パーセント出る。確率通りと。

 私はそうは思いません。どんなソシャゲのガチャでも人の手が加わっているからには排出対象に偏りは生まれるもの。

 私はこう思います――ガチャは出るまで続けられたら確率通り。

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