第49話 大学生カップルロールプレイング

「『潤一郎くん』って金魚すくいやったことある?」


「ないな。ガキの頃から貧乏家庭だったし、救ってほしいのはどうしようもない家庭の方だったくらいだ」


「小さい頃から捻くれていたのね……」


 となりを歩く『詩乃』が憐みの視線を向けてくる。


「あっ、お酒売ってる」


 花火が打ちあがる中、木々に囲まれた屋台エリアに戻ってくると、大量の氷と缶ビール、チューハイがクーラーボックスに雑多に入れられて販売されていた。


「でも詩乃が大好きなワインはないぞ」


「こういう時は普段飲まないのでもいいかなって。それこそ特別感を味わうのがお祭りの醍醐味じゃない?」


 いつかやった制服デートロールプレイングとは違う。今日の趣旨は大学生カップルロールプレイングだった。


「でも詩乃の前で飲むと、いろいろと危険だからなぁ」


「もうっ、いつの話してるのよ」


「割と最近のことだからな⁉ まだ一年も経ってないから!」


「小さい男ね。あそこは大きかったけど」


「久々にその弄り方されたなー」


 なんだかちょっと懐かしい。


 詩乃はチューハイ、俺はビールを買って二人で乾杯して、飲みながら歩く。


 提灯やのぼりが乱立する中、かなりの人が夜空を見上げて花火を観覧している。ひとりひとりがこの花火大会の雰囲気を作り上げる中、俺たちは花火には目もくれずに屋台を見て回っていた。


「いいか、詩乃。酔うなよ? 酔うまで飲むなよ?」


「フリよね? それって酔えってことでしょ?」


「ちがう! 本当に酔うなよ! 公衆の面前で何やらかすか分からないんだから!」


「そんな非常識なこといつしたっていうのよ。失礼ね」


 もう言い返すの馬鹿らしくなって、酒をあおっていた時だった。


「あ~ん、潤一郎く~ん。私、酔ってきちゃった」


 わざとらしくふらついた詩乃は俺の腕に抱きついてくる。


 頬が朱色に染まって、潤んだ目は妙に色っぽい。


「ホテルで休まないとダメかも~」


「そうかー。じゃあ、ひとりでホテルいけばいいぞー」


「や~ん、放置プレイ~」


「お前、ホント天川詩乃だよな……」


「えへへ~」


 何を言ってもご機嫌そうな詩乃を連れて歩く。彼女はチョコバナナを買えばいやらしく舐めしゃぶり、りんご飴は細長い舌でチロチロと舐めあげ……。


「まともに食えんのか!」


「だって大学生カップルなんてこんなもんでしょ? エッチに誘うことしか考えてないというか」


「ド偏見! ド偏見だからな!」


「エッチするために大学通ってる人が過半数よ」


「詩乃以上にエロいこと考えてる大学生もそうはいないだろうけどな」


「……エッチな彼女は嫌い?」


 上目づかいで、不安そうな目で見つめてくる。


 それは卑怯ってもんじゃないだろうか。


「べつに、嫌いじゃないよ」


「潤一郎くんの嫌いじゃないは好き、ってことだものね。えへへ」


 なんだろう。ものすごく気恥ずかしい。


 周囲から「陰キャメガネが、こんなかわいい子を連れまわしやがって!」という嫉妬の視線を感じるが、そんなことがどうでもよくなるくらい羞恥心に悶えていた。


 密着して屋台を見て回って、バカップルのお手本みたいな会話をする。


 そんな謎のプレイを天川は楽しんでいるようで、つぎつぎに話題を振ってくる。


「そういえば、テニサーの子、妊娠して休学したらしいわね」


「うわ、マジかよ。さすがに問題だろ……」


「ただれた関係はなかったらしいけど……私たちは何十人子供ほしい?」


「おかしい! 単位がおかしい!」


「だって性欲が強い潤一郎くんといっしょになったら、一生苗床にされちゃうもの」


「人をオークみたいに言うんじゃない!」


 詩乃からの俺への評価って本当に何なんだろうか。割と高頻度で疑問に思う。


 軽いトークを挟みながら二人で歩いていたが、足を止める。


「くじ引きやってるわよ!」


「あー、当たりが絶対出ないやつな」


「大丈夫! 一等なんて狙ってないから!」


 そう勢いよく宣言した詩乃の視線の先は……。


 壁に立てかけられたプラモデルやモデルガン。外れコーナーのよく分からない小さいおもちゃ。流行りのTCGのパック。人気アニメのグッズなど、縁日を盛り上げる定番品が出そろっていた。


 だが、詩乃の目線はそのどれにも向いていない。


「ふむ、×××したくなる薬……旅行先にあるような怪しい薬がなぜここに⁉」

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