第25話 薬草採取
「ではどうする? 薬草の外見もわかった事だし、とりあえず薬草採取に向かうか? ランクからしてこれがS級で最も楽なはずだし、どちらにせよ薬草もポーションも1個も持っていない我々には上位精製は出来ないからここからスタートする以外ないと思うのだが?」
と言ったのは都だが「トム求む」はシカトする方向か……まあ5億の依頼だし理論上では1番難易度が高いから避けるべき依頼ではあるが……。と考えていると都は続ける。
「それとも先程A級の依頼を見たのだが、1番報酬の高い限りなくS級に近い依頼。バールのような物の模様のバールを持ったヴァンパイア『武者小路 ゑヴァンゲリオン』と、英検1級だがコミュ症で英語を話す機会が皆無の天狗『ゐぬゐ めゐ』と、『食べられないラー油』の3匹を討伐する依頼があったがそちらにするか?」
A級にはそんな依頼があったのか……と思いつつ私は口を開く。
「いや待て都。薬草採取で問題ないだろう。ヨネのスキル『鑑定』を使えば薬草のステータスがわかる。つまり生息地もわかって簡単に手に入るはずだ」
「いや、しかしダイコンよ。さっきも言ったが我々は薬草を持っていない。流石のヨネでもない物を鑑定するのは不可能だろう?」
いや、前にそれに近い芸当をしていたような気がするが……? いや、まぁあれはあくまで電子パッドを使ってネットにある情報を鑑定した……と補完しておこう。
という訳で私は口を開く。
「心配には及ばん。薬草ならギルドの中にある。常識的に考えればギルドは常に薬草を1個は保管しているはずだ。でなければ薬草を見た事がない冒険者に実物を見せて採りに行かせられないからな。それにウンコをしてからトイレットペーパーがない事に気が付くくらい背に腹は代えられん状況にでもならない限り、薬草は使わずにポーションを作製するためにとっておくのが常道。そう考えればどこのギルドにも常に薬草は1個はあると考えて間違いない」
「なるほど。私はウンコをしてから便器が幻だった事に気が付いて焦った事はあるがそれは置いておくとして、その理論でいけばギルドに頼めば実物の薬草を見せてくれるという訳だな?」
「ああ」
「良し。では早速受け付けに行って見せてもらおう――」
と都が腰を上げかけた時だった。
――タンッ!
と音を立ててヨネが電子パッドをこちらに向けていた。
『待って下さい』
「……?」
都が頭に疑問符を浮かべているとヨネが次の文字を打ち込む。
『今、ダイコンさんの言葉を聞いてこのギルドのステータスを確認したところ、薬草を2個とエリクサーも1個所持しているのがわかりました』
仕事が早いな。所持しているのが確定したなら何よりだ。……と私が考えている内にヨネが次の文字を紡ぎだす。
『なので皆さんはそのまま座ってて下さい。今から私がこの建物全体をスキャンするように鑑定して薬草の在処を見つけ出します。そうしたらそのまま薬草を鑑定して生息地がわかるので、わざわざ全員で受け付けに行く必要はありませんから』
ほぅ? なるほど素晴らしい能力だな。恐らくだが万物のステータスを見る事が出来る――つまりヨネがその気になれば能力の範囲内の物は全て名前が浮き出て見えたりするのだろう。そう考えると周囲の探し物に対して最強の能力だな? 譬え透明人間であろうが、外からは決して見えない密閉された部屋の中の透明なゴリラでさえ部屋の外からステータスが全て見えてしまうのだからな。
と私が改めてチート能力だなと感心しているとヨネ。
『とりあえず皆さんは少しの間、歓談でもしてて下さい』
とヨネはその文字だけ見せると鑑定スキャンを始めたのか、まずはギルドの受け付けの方へとあの細い眼で視線を走らせていた。
しかし歓談と言われても……あ?
「そう言えば――ヨネがこのギルドにはエリクサーもあると言っていたが、あの怪我にも病気にも効く万能薬は塗り薬なのか? 飲み薬なのか?」
傷には塗り薬、病気には飲み薬というイメージだがどちらにも有効となると、どちらの薬なのか多少気にはなる。……と歓談のために話題を提供してみたが、答えたのは顔の前でパタパタと片手を振ったリキで。
「あ、どっちでもないですよ。エリクサーってお尻の穴にブチュッと注入する薬です」
座 薬 だ と っ ! !
エリクサー(座薬)
字面が面白過ぎるだろ!
セフィロスとクラウドが尻にエリクサーをブッ刺したまま剣のブッ刺し合いをしているファイナルファンタジーなど誰がプレイするのだ?
いや、それより。
「いや待て待て。エリクサーとは確か生きてさえいればどんな傷でも治す薬なのだろう? なら仮に下半身が吹き飛んだがギリギリまだ息がある時などはどうするのだ?」
「あ、それなら問題ないですよ。たぶんこの辺がお尻だな? ってところに刺せば治ります。なにせエリクサーですから!」
万能過ぎるだろ! 空気尻でも許されるのだったら最初から尻に刺す必要ないだろうそれはっ!
というような大変有意義な会話していると。
『――あっ?』
突然だった。突然ヨネがパッドを我々に見せてきていた。
「どうしたっ?」
代表して私が問うと、ヨネは再びパッドをひっくり返し。
『今薬草は見つけたんですけど――ただ、その薬草より向こう側……壁の向こうなんで恐らく建物の外なんですけど……トムさんが歩いてます』
トム?
――瞬間。頭に過ぎる。
成功報酬:5億円
依頼主:トムもトム
依頼名:トム求む
依頼内容:トム求む。どっからどう見てもトム。誰がどう見てもトム。まごう事なきトム……求む。但し生死は問わない。
5億のあいつかっ!? っと思った時には私は既に立ち上がっていた。いや、私だけではない。都やシコナも立ち上がっていた。みな同じ事を考えていたらしく、我々は無言で頷き合うと外へと飛び出した。
――こうして我々は無事トムを捕縛する事に成功し、5億円の依頼を達成した我々は史上最速でS級に登り詰めた伝説のパーティーとなった。
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