第16話 戦国坂四十六

 ――で。まずは私が口を開く。

「恐らくだが都は私と同じ考えだと思う。なのでリキ、シコナ、ヨネに聴いてもらいたいのだが――。フロント企業はアイドル事務所というのはどうだろうか? 企業として健全なのは言うまでもなく、現在の日本でのアイドルとはただ歌って踊れるボディビルダーなら良いという訳ではなく、努力し成長していく過程も求められている。我々が新しく立ち上げる企業のイメージとしてもピッタリだと思うのだが?」

 すると。

「確かにそうですね。ボディビルダーかはともかく、地下アイドルなんて正に成長している最中のアイドルを推すワケですもんね。いいんじゃないですかアイドル事務所。私は賛成です」

 と言ったのはリキだった。更に。

「拙者も反対する理由はないでござるな」

 とシコナが続き。

『意義なし』

 とヨネが電子パッドで続いた。そして最後に都が――

「良いかダイコンよ。確かに私も同じような事を考えていた。ただ1つ君との考えの違いを挙げるとすれば、それは服装の乱れは心のヨダレという事だ」

 それを言うなら服装の乱れは心の乱れ……だ。まあ、そんな事は置いといて。


 私は全員を一望し。

「良し。ではフロント企業『臭影者』はアイドル事務所――『プロダクション臭影者』とするとして。早速アイドルを召集、育成していきたいところだが今の日本ではどういうアイドルが流行っていると思う?」

 という私の質問に都が申し訳なさそうに片手を上げ。

「すまんがダイコン。私とヨネはそういう話には疎い。なので君とリキとシコナを中心に話し合ってくれないか?」

 まあ、宇宙人と異世界人では日本の芸能事情とパキスタンの経済事情はそこまで詳しくはないか……私ですら明るい訳ではないからな。ここで頼りになるのはリキとシコナという事か。

 と思い私はリキとシコナに顔を向け。

「ではリキ、シコナ、改めて問うが。今アイドル事務所を開くのであれば、どういうアイドルをプロデュースするべきだと思う?」

 これにリキとシコナは揃って腕を組んで首を傾げるが、先に口を開いたのはリキ。

「う~ん今のご時世だと女子であれ男子であれ、やっぱりまずグループ売りじゃないですかね? 特に女子は48人とか46人とかの大所帯の方が人気が高い傾向があるかなって……? 今って最初から1人で売り込むアイドルっていないんじゃないですか?」

「ほぅ? 数の暴力という訳か。確かに人数が多い方がファン共の好みを広範囲でカバー出来て売れ易くはありそうだな?」

 ――と。私が口走っていると横からシコナ。

「いやダイコン殿。確かに大多数のファンは推しから豚呼ばわりされてブヒブヒ喜びますが、全てではないのでファンの事を豚と呼ぶのは如何なものかと?」

「そうか……ならば訂正しよう。特上豚ファンで大丈夫か?」

「うむ。それが宜しいかと」

 シコナが頷いているのを確認した後に私も頷き。

「となれば――だ。手っ取り早く人気アイドルを作るのであれば、既存のアイドルグループを丸パクリするのが1番だと思う。リキ、シコナ、今1番人気の高いアイドルグループはどんな奴等だ?」

 私の質問にリキとシコナは1度顔を見合わせ、リキの方が口を開く。

「う~ん……1番って言われると難しいですが、でもまあ比較的人気が高い、トップに近いのは女性アイドルグループの坂道グループじゃないですかね?」

 ほほぅ? 坂道グループか……。それならば私も聞いた事がある。アイドルとカンボジアの経済事情に詳しくない私でも名前を知っているという事は知名度が高いのは確か……。

「良し。ではその坂道グループをパクるとしよう……」

 と言った時だった。

「待ってくれダイコン。申し訳ないが私とヨネはその坂道グループとやらも知らないのだ。出来れば先にどんなグループなのか説明してもらいたいのだが?」

 都だった。この都の言葉に今度は私とリキとシコナが顔を見合わせ、私は名前を知っている程度だったのでパスをする。すると再び先に口を開いたのはリキだった。

「坂道グループというのは坂道を擬人化して美少女化したアイドルグループで、さっき言った46人の大所帯のアイドルグループの筆頭格です」

「坂道を擬人化?」

 と小首を捻る都とヨネ……にシコナが続く。

「いくつか例を挙げましょう。都内には神楽坂かぐらざか道玄坂どうげんざかという坂道があるのはご存知かと思いますが、これらの坂道を美少女に擬人化し神楽坂道子や道玄坂道子。他にはいろは坂道子に地獄坂道子、ニューヨーク3丁目の坂道子といった感じのメンバーを揃えて人気を博しているグループでござる」

「ほほう? 良くわかった。悪くはないな……」

 と呟いた都は私に向き直り。

「という事はだダイコンよ。この坂道グループのコンセプトだけを変えて後は丸パクリの路線で行こうというのだな?」

「その通りだ。そしてたった今思いついたのだが、ウチのコンセプトは転生戦国武将というのはどうだ?」

「転生戦国武将? どういう事だ?」

「どうもこうもない。そのままの意味だ。戦国武将は人気コンテンツであり、あちこちで美少女化されている。ならば我々は美少女化するのではなくまんま美少女……現代に美少女として転生した戦国武将46人を集めてアイドルグループにする……その名も『戦国坂四十六』だ」

『せ、せんごくざかしじゅうろくっ!』

 私とヨネ以外の3人が声を上げていた。

「い、いやしかしそうは言っても簡単に46人も集められるのか?」

 と都は言うが。

「そこまで難しい話ではない。リキに美少女に転生した戦国武将を簡単に見付けられるバフをかけてもらえば1日もかからんだろう? 尤も見付けるだけでスカウト出来るかどうかはまた別の話だが……」

 と私が言っていると。

「あ、それなら大丈夫ですよ? 転生戦国武将を100%スカウト出来るバフがあるので!」

 リキだった。これに私はアゴを一撫でし。

「ほぅ? となれば理論上ほぼ1日で間違いなく46人を集められるという訳か……ならば敢えてもう少し時間をかけて、人気の高い戦国武将に厳選して集めた方が良さそうだな?」

 私の言葉にみなが頷いた。


 なので翌日から我々は転生美少女戦国武将を探し集め厳選し、然程時間はかからずに46人を集める事が出来た。そして私の読みは見事的中していたか、後の話になるが戦国坂四十六は圧倒的な人気と武力でアイドル業界の頂点に君臨し、更には強引な手段を用いてアイドル天下統一を果たすのである。

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