第4話 初仕事

 という訳で。都こんぶの自宅兼会社で住み込みのアルバイトをする事になった私は翌日には引っ越しを開始。現在は都の用意してくれた部屋へと移り住んでいた。しかし今日までこれといって仕事らしい仕事というものは一切なく、ただただ娯楽施設で時間を潰しているだけで給料が入ってくるという悠々自適な生活を送っていたのだが――


「ダイコン仕事だ。一緒に来てくれ」


 と呼び出されて都に付いていった先の部屋が――私が最初に都と面接したあの部屋だった。

「?」

 急な呼び出しに頭がついて行けず、私が疑問符を浮かべていると。

「ダイコンこっちだ。こっちに座ってくれ」

 と招かれたのは都の隣の席だった。

 私は頭に疑問符を浮かべたまま、言われるがままに都の隣へと腰を下ろす。それを察してくれたのか、都は私が席に着くのを確認するとこちらへと体を向けテーブルに頬杖をつく。

「実は君以来のアルバイト希望者が現れた。なのでこれから面接をするのだが君にも同席してもらいたい。わかると思うがまだ2人目の希望者だから君と同じで幹部。その候補となる者だから君にも一緒に審査してもらいたいのだ。まあ、君は私に次ぐ最高幹部だ。部下となる人物のふるいは自ら掛けたいところでもあるだろう?」

「なるほど、確かにその通りだ。で、一応訊くが1番の審査基準は無駄なやる気で構わないのか?」

 すると都は口の端を小さく釣り上げ。

「理解が早くて助かる」


 ――という訳で私と都により新人アルバイトの面接をする事が決まった。


 それから長くも短くも臭くもない時間が過ぎ、扉をノックする者が現れる。私と都は1度視線を合わせると――私のアイコンタクトを察してくれたか都が口を開く。

「どうぞ」

 すると扉が開かれ、そこに立っていたのは1人の女性。就活中かと思えるリクルートスーツに身を包んだ二十歳はたち前後と思われる、パッと見だけの判断で言えば真面目そうな女性だった。

 女性は部屋に入る前に1度深く頭を下げると。

「失礼します」

「失礼されます」

 返したのは私だ。もちろん彼女のリアクションを見たかったからだ。

 しかしそれはダメだな……そんな月並みの目を丸くするだけの中途半端なリアクションではここではやっていけな………………ってなんで貴様の方が驚いているんだ都? しかも椅子から立ち上がって両手を上げるってリアクション下手か? まあ思いっきり驚くか、全く驚かないかのどちらかに振り切ったリアクションを期待していたのは事実だが貴様じゃない。取り乱し過ぎだ。

「フフフッ。驚いたぞダイコン……さすが私が見込んだ男だ」

 何故か微笑みながら椅子に座り直す都が。

「あ、そっちの君も掛けてくれ。面接を始める」

 という初手で彼女の面接は始まった。


「良し。ではまず君の名前を教えてもらおうか?」

 都が質問をすると彼女は黙礼を一つ挟み。

「はい。名前は長洲ながすりきって言います」

「長洲力か……プロレスラーみたいな名前だな?」

 私が誰となしに呟くと。彼女は恥ずかしそうに後ろ頭を掻きながら。

「あはは……よく言われます。小学生の頃はそれでよくプロレスラーにいじめられていました」

 しょ、小学生女児がプロレスラーにいじめられていたって普通なら事件だぞ?

 ――がしかし都。

「あ~小学校では好きな女子の気を引くためにイタズラしたりいじめたりするのは良くある話だからな?」

 確かにある話だがプロレスラーがそれをしていたら、それはそれで別の事件が発生していると思うのは私の気のせいか?

「まあそれはそれとして、私がこの組織のボスにして面接官の『都こんぶ』だ。そしてこっちは私の腹心の部下にしてアルバイトの『大根乱』だ」

 と都が私を指すので。

「大根だ。宜しく頼む」

 と目礼を差し込んだ。

「あ、ミヤコさんにダイコンさんですね。宜しくお願いします」


 と。互いに軽く簡単な挨拶と自己紹介を終えたところでやはり口を開くのは都。

「さてリキ。最初に確認しておきたいのだが、君は我々が何を目的とした何の組織なのかは承知しているのかな?」

 すると彼女はコクッと頷き。

「はいモチロンです! 地球征服を目指す悪の秘密結社ですよね?」

「うむ。知っているのなら結構。では、それを踏まえて何故ウチの会社でバイトをしようと思ったのか……その志望動機を聞かせてもらえるか?」

「はい。まず端的に結論から言うと復讐です」

 この言葉に私と都は顔を見合わせた。


 驚いたな。まさか私と同じ理由とは……これは期待出来るぞ! ……と、都は思っていそうだな。いや、私も共感しているのは事実だから今のところ部下にするのは吝かではない。というのが第1印象か?


 と考えながら私は彼女の話に耳を傾ける。

「実は私、つい先日までS級冒険者パーティー『片翼の天使の尿意』の一員だったんですけど、戦闘で役に立たないお前はS級パーティーに相応しくないからパーティーを抜けろ……って言われてクビにされたんです」

「ちょっと待ってくれ」

 リキの言葉に待ったをかけたのは都だった。

「素朴な疑問なのだが戦闘向きではないとはいえS級冒険者なのだろう? なのにパーティーを追い出されるとは君の役割はなんだったのだ? それにここでバイトをしなくてもS級なら引く手数多なのではないか?」

 ……うむ。確かに都の疑問は当然だ。しかし私としてはそれよりも先に、現代日本においてS級冒険者やS級パーティーという単語に疑問を抱いて欲しかった。いや、まあ……宇宙人の都にそれを期待するのも酷な話ではあるが。

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