第3話 白か黒か

 ここで働く事を決心したものの、まだまだ謎が多いので説明会は続く…………というより。訊きたい事は山ほどあるので私の方から都に質問をしてみる事にした。

「ところで――地球征服のアルバイトとは具体的に何をするのだ? 言うまでもないが私は未経験だぞ?」

 私の言葉に都は「フッ」と鼻を鳴らし。

「安心しろ。ウチはプロ、アマ、経験、未経験は問わない。性別も年齢も種族も能力も味も臭いも関係ない。必要なのは無駄なやる気だけだ」

 何か変な事を言っていたような気もするが、無駄なやる気だけなら自信がある。なにせ北半球で1番無駄な男と言われていたくらいだかなら。


 と、ここで都は顔の前で指を組むと真っ直ぐな瞳を私に向けてくる。

「で、君の業務内容だが――というよりダイコン。君には私の右腕になってもらいたい。つまりは最高幹部というポストに就くという事だ。先程も言ったがウチで必要なのは無駄なやる気。そして実は君はウチの募集に1番でやって来た。それは即ち1番の無駄なやる気を見せたという事。私はそういう人物を右腕として傍に置いておきたいのだ」

 ほぅ? 地球征服を目論む悪の女王の腹心の部下か……悪くない響きだ。

 と思った私は両腕を組み頷き。

「私で良ければ引き受けよう」

「おお、本当か! では早速時給を480円に上げるとしよう」

「おいおい……まだ働いてもいないのに無駄にやる気を見せただけで時給を上げるのか? 随分とホワイト企業だな?」

 すると何故か都は大口を開けて天を仰ぐ。

「はっはっはっ! ウチがホワイト? そんなワケがない……ブラック中のブラックだ。まぁ確かにウチは休日出勤もサービス残業もないが――何故かわかるか?」

「む? 理由はわからないが休日出勤もサビ残もない方がよりホワイトだろう? 何が理由なのだ?」

 小首を傾げる私に都は俯き加減で双肩を揺らす。

「クックックッ。理由は簡単だ……ウチは年中無休の24時間就労だからだ」

「な、なんだとっ! つまり休みがないから休日出勤もない。そして24時間労働だから残業もないという事かっ!」

「そういう事だ。そしてそれが何を意味するかわかるか?」

「ま、まだ何かあるのか?」

「わからんのか? 年中無休の24時間労働という事は……たとえ家でくつろいでいようが寝ていようが、旅行中であろうが常に時給が発生しているという事だ」

 な、なにっ! つまり……

「24時間どこで何をしていても私は貴様の部下、就労時間に相当する。なので映画を見ていてもパチンコをしていても、アメリカ大統領を護衛していても給料が出るという事か……思ったよりブラックだな?」

「だろう?」

 何故か得意気な顔でウンウン頷いている都だが――まあ私にとって特段問題はない。寧ろ今の話を聞いて私はある事を思いついた。


 ――ので。私はなんとなく後ろへと振り返った。


「……? 何をしている。後ろに何かあるのか?」

 後頭部に都の声が飛んでくる。私はその声で視線を戻し。

「いや、この部屋を含めてなんとなくの間取りを想像していた。都、ここは結構な広さがあるが実際にはどういう建物なのだ?」

「ん? ただの私の自宅だが」

「自宅っ!? いや面接前に敷地内を歩いて来たが、端の方に観覧車やジェットコースターが見えた気がしたのだが?」

「ああ、それは廃園になった遊園地を買い取ったからだ。そして自宅と言ったが正確には自宅兼会社、社宅だな。観覧車やジェットコースターを残してあるのは平社員の娯楽のためだ」

 自宅兼会社か。やはりここは悪の秘密結社と考えて良さそうだ……。としていると都が続ける。

「因みにウチの会社の人間なら全員全施設を無料で利用でき、娯楽施設としては他にもカラオケやゲームセンター。サウナにボーリング場、更には食堂やスモウ専門のスポーツバーなんかも施設内にはあるぞ?」

「相撲専門のスポーツバー……あまり聞いた事がないな。珍しいな?」

「そうなのか? 店の中に土俵があって客は相撲をとり放題なバーなのだが」

 !?

「あぁ! つまり相撲専門のスポーツバーというよりダーツバーのスモウバージョンという事か」

「その通りだ。なのでダーツと同じでオンライン対戦なども出来るぞ?」

「ほぅ? 最近の相撲はオンライン対戦も出来るのか……」

 しかしこれだけ娯楽施設が充実してるとやはりホワイト企業に思えるがな。


 ……とそれは置いておいて。

「いや話が脱線したな都。貴様はさっき社宅でもあると言っていたが、部屋はまだ空いているのか?」

「ん? もちろん空きはあるが――まさか?」

 都の問いかけの視線に私は1度頷き。

「ああ、どうせ24時間労働ならここに住んだ方が色々と効率が良いからな。なので住み込みでバイトをしたいと思ったのだ……どうだろうか?」

 すると都はどこか嬉しそうな顔で。

「なるほど。それで間取りを気にしていたのか……もちろん歓迎するぞ。ただ君は最高幹部だからな? 平社員とは別に特別な部屋を用意しよう!」

「フッ」

 ありがたい話だが住み込みのアルバイトが特別な部屋で平とは言え正社員が普通の社宅とはあべこべだなこの会社。

「それと……住み込んでまでバイトをしたいという見上げた根性。時給を530円に上げておこう」


 うん? やっぱりこの会社ホワイトだろう?

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