月乃さん視点・征士くん視点(誕生日話)

● 月乃さん視点


 誕生日プレゼントには、メッセージカードも付けよう。

 征士くんの誕生日、四月二日が近づき、私は文面に悩んでいた。


「うーん……」


 手元には、四葉のクローバーのメッセージカード。

 悩んだ末、ありのままの気持ちを記してみた。


【征士くんへ お誕生日おめでとう! お誕生日がくる度、征士くんはどんどん格好良くなっていて、どきどきします】


 書いていると、何だか恥ずかしい。


【征士くんと出会ってから色々あったけれど、出会えて良かったです。毎日が楽しい。ずっとずっと、一緒にお誕生日を祝いましょう】


 征士くんは、このメッセージカードを残すのだろうか……。


【これからも沢山思い出を増やしていけることを願っています。心からの愛を込めて 月乃より】


 書き終わった途端、顔が火照った。


「きゃあああ~」


 文面で愛を伝えるというのは、どうしてこうも恥ずかしいのだろう。

 羞恥のあまり、メッセージカードを破りたくなったが、思いとどまった。


「ま、まあ、こんなメッセージカード、征士くんは読んだら終わりで、捨てるわよね……」


 当日プレゼントとともにメッセージカードを渡すと、その場で読んでくれた。


「月乃さん……」


 征士くんは、目に涙を浮かべている。


「ありがとうございます! このメッセージカード、一生の宝物にします。僕も心から愛しています!」


 引き寄せられて、キスされた。熱情的なキス。


「いや~! 恥ずかしいから捨ててよ~!」

「絶対捨てません。来年もメッセージカード、期待しています」


 ら、来年は、どうしようかしら……。

 せめて、もう少し恥ずかしくない文面にしよう。


 ♦ ♦ ♦


● 征士くん視点


 五月は月乃さんの誕生日。贈り物は何にしよう。

 初恋が月乃さんの僕は、他の女性へ誕生日プレゼントなんて贈ったことがないから、女性の喜ぶ物なんて皆目見当つかない。

 ネットで調べたところ、ジュエリーが一番人気だという。

 でも普段飲食接客業の月乃さんは、宝飾品など、あまり身に着けない。

 直接訊いてみることにした。


「月乃さん。誕生日プレゼント、何が良いですか?」


 我ながら直球だなあと思いつつ尋ねる。


「そうねえ……」


 月乃さんは可愛い唇に指を当て、考えた。


「あ、あれが欲しいわ」


 思いついたらしい。何だろう。


「この間、雑貨屋さんで入浴剤のギフトセットを見かけたの。香りが良かったし、あれがいいわ」

「入浴剤……」


 消え物……。しかもあまり値段が高くないだろう……。

 腕時計など、高級品をもらっている自分からすれば、もう少し高い物の方が良い気がする。


「他にはないですか?」


 再度問うと、もう一度月乃さんは考え始めた。


「キッチングッズ」

「…………」


 実用的過ぎやしないだろうか。


「アロマキャンドル」


 またしても、消え物……。


「いつもはつけないような色の口紅」

「口紅、ですか……」


 口紅も消耗品だろうけど、そうしようか。

 デパートへ行って、ルージュ十色セットにして、綺麗に包んでもらって、プレゼントした。


「わあ、ありがとう! この色、いいわね」


 月乃さんは気に入った色の口紅を、早速つけていた。

 いつもピンク系を多くつけている月乃さんがつけた色は、明るい赤。

 滅多に見られない、蠱惑的な赤。


「え……。んっ」


 思わず口付けていた。口紅が僕を誘惑した。


「な、に……? 征士くんにも、ついちゃったわよ」


 キスの後、口紅が僕にもついたらしい。


「構いません。月乃さんが誘惑するのがいけないんです」

「誘惑なんて、していないわよ……」


 自覚のない月乃さんに、もう一度軽くキスをした。

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